織田家大乱編
第9話 それぞれの命運
6月5日、信孝は坂本城の池田恒興に安土城へ移動を依頼。佐和山城と長浜城に自身の兵を1千づつ向かわせた。そして安土城に兵2千を置き兵8千で岐阜城へ向かう。
備中高松城を攻めていた羽柴秀吉は3日夜半、上方よりの第1報に接する。翌4日には毛利と和議を成立させ高松城主清水宗治が切腹。
しかし第2報では織田信孝と丹羽長秀が大坂城の津田信澄を攻め、池田恒興、徳川家康、穴山梅雪も合流のうえ、山崎にて高山重友や中川清秀も加わるという。大坂城には3万(長秀が盛った数字)の兵が集結したとか。
秀吉は直ぐさま上方へ向うつもりだったが考えあぐねる。信孝と長秀が居れば3万で明智を撃破するだろう。まずは兵の一部を姫路に戻し、丸1日高松で様子を見るのが賢明。
万一信孝たちが負けたなら、自身が上方へ向かい、残った織田方を糾合し、明智を倒せばいい。準備をしておくよう黒田官兵衛へ命じた。
そして5日の昼過ぎに第3報が届いた。お味方の大勝利で明智光秀は討ち死に。秀吉の横で官兵衛が残念そうな顔する。秀吉はあからさまな表情するのはやめろ、と内心思うのだった。
蜂起が心配なので長浜にも念のため兵を入れるとある。さらに岐阜城へ向かい殿の嫡子三法師様へご報告とご挨拶申し上げるむね書いてあるが、自身も同じ立場ならそうする、と思いつつ抜かりなさに感嘆した。
6月6日には越中魚津城を数日前落城させた柴田勝家へ凶報がもたらされた。信濃から春日山城を窺う森長可と連携する段取りをしてたが、それどころではなく上方へ戻るため撤収に取りかかる。
富山城へ向う途中、信孝たちの動きを知り、翌日山崎にて明智光秀討ち死にという報が入った。しかし勝家は越中に佐々成政を残すと北ノ庄城へ向かう。この判断が後に勝家の命運を左右する。勝家なりの忠義と家老筆頭の責務からであったのだが。
6月7日に信孝は岐阜城に到着。徳川家康と穴山梅雪はそのまま三河へ向かった。信孝は家康と梅雪に武田旧領で蜂起があれば鎮圧するよう頼んだ。さらに北条の動きを警戒するよう念を押し、また何かあれば自身や長秀が救援に向うと約束する。
近江では池田恒興が国人に対して明智から受け取った書状を差し出すよう命じ、厳しい詮議を行っている他、亀山城の高山重友と中川清秀も丹波の国人、末端の被官(いわば上から軍役を担う下級武士)、寺社への発給しつつ、事後処理に忙殺されていた。
こうして短期間で和泉、河内、摂津、大和、山城、丹波、若狭、丹後、近江は信孝の勢力下におかれつつあった。
大和から伊勢の北畠信意(織田信雄)を訪ねた長秀は家督相続を切り出された。
「五郎左、大儀であった。三七も見事なものじゃ。今後も余のため頼むぞ」
早くも家督を継いだつもりになっており、さすがの長秀も内心驚いたが、ここまで単純だと楽だな、と思うのであった。
「御本所様(信意は北畠家を継ぎ伊勢国司であるため)のもったいないお言葉、有難き幸せ。
「道理はわかるがまだ子どもに織田家や天下を治められるはずなかろう」
「御意にございまする。しかし三七郎殿もご指摘の点は心配しておりませぬ」
「何と申す」
仇討ちしただけで勘違いし、働きを笠に着て跡目を主張する気なのか、と信意は喜色ばむ。
「三七郎殿は三男のうえ亡き殿様や御本所様とは同じご兄弟でも大きく御身分(信忠と信意の母は事実上の正室)が違う事わきまえております。さすれば御本所様が居られる以上、甥であらせられる三法師様の名代としてお任せすれば織田家も安泰と申されそうろう」
「何、誠か?」
瞬時に表情が変わる。
「
幼子など傀儡同然。野心を抱かぬか心配してた三七も分をわきまえている。これで自分が天下を治められる、と上機嫌の信意であった。
こうして天下人にでもなったつもりの信意を伴ない長秀は岐阜城を目指した。途中、尾張で遭遇した家康と梅雪一行から信意はうやうやしく挨拶され最高潮となる。
後世の歴史とらやでも信雄こと信意はうつけ扱いらしいが、これで完璧だなと自画自賛する長秀。広之にこの光景を見せてあげたいな、と悔やむのであった。
岐阜城に入った信孝は家康と梅雪を伴ない三法師を上座へ上げて臣下の礼をとった。信忠の家臣もそれにならう。こうして着々と既成事実を積み重ねる。
入城した翌日には長秀と信意も到着。
かくして清須会議改め岐阜会議への道が拓かれたのである(歴史では三法師が清須城へ避難したため清須会議になった)。
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