デブリ(1)

 孵化・条件付けセンター教育部門第三エリア――通称「保育園」。ここで世代別に育てられるドールたちは、公共のドール育成機関の一つ、フェーゲライン愛嬢希望学園に進学することが決まっている。


 遊戯の時間に幼女たちは、まさに天真爛漫な様子で人口の草むらを走り回り、互いにじゃれ合い、戯れる。

 この時期に彼女たちは、それぞれの「性格特性」に合わせて、将来のスキンシップの型を訓練されるのだ。ある者は積極的に、ある者は受け身を中心に。もちろん、「引っ込み思案」で端に隠れている子供もいる。そんな子どもも、積極的な子に手を引かれると、「ふぇっ!?」などと叫びよろめきながらついて行く――そう言うことになっている。


 ある時は年齢相応に無邪気に、かと思えばある時は恥じらうように。ある時はどこか危うい、湿度を伴った視線を交わしながら。

 特に機能を持たないパターン化された行動。いずれもシミュレーションと教育ロボットの指導の結果である。


 オットーはそんな彼女たちの様子をガラス越しに眺めながら、相変わらず幸せそうだな、と思った。


 幸せ…………うん、幸せだろうな。少なくとも俺よりは。でも…………。


 何と言うのか――これが本当に、彼女たちにとって「一番良い幸せ」なんだろうか?


 わからない。オットーには幸せが何かなどと言うこともできない。ただの漠然とした違和感だった。


 あるいは単に、自分が彼女たちに嫉妬しているだけなのか?


 美しく、愛らしく、無邪気な友情。それがあるときは恋に、性愛に、あるいは将来のビジネスパートナーの関係へと発展する。……性愛を経験できないオットーたちにとって、彼女たちの関係性はまさに神秘だ。


 初等教育で、学園で、社会で。誰とどんな関係を築くかも、事細かに決定されている要素はほとんどない。


 決して特定の労働市場に縛り付けるために、画一的に設計したりしない。ドール総合文化センターは、ドールの個性を何よりも大事にしている。


 性格も、特技も、欠点も、性的嗜好も。それぞれ一人一人多様性を持つように設計しているだけだ――


 オットーは、そんな彼女たちに対して、ずっと相反する感情を抱いていた。憧憬や恋慕もあるし、こうして4年間も成長を見守り監督してきた以上、愛着も抱いている。だが、それでもどこか――


 どこか……なんだろう。……………………「かわいそう」、とか?


 オットーは自分の内言に対し苦笑をこぼした。


 「かわいそう」だなんて言う資格、俺みたいなデブリにある訳ないじゃないか……。


 そうこうしている間に、ドールたちは昼食の時間になった。

 オットー達は音声プログラムを切り替え、後のことはAIにまかせる。オットーたちも昼休みだ。


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