第53話 激闘の末に

(一瞬で終わらせる!)


 全速力で相手の後に回った。


 そして、右手に持った短剣を振りかざす。


(なっ!?)


 見えない壁により、必殺の一撃は防がれてしまった。


「いい加減諦めろ!俺は殺せねぇぜ?」


 顔面にボールが当たった様な衝撃が走る。


(油断した……)


 そのまま倒れてしまい、後頭部が床にぶち当たる。


 激痛と後悔。


「油断したねぇ!久しぶりに楽しかったけど、これで終わりかぁ」


 彼は振り向くと、魔法を使う準備を始めた。


「じゃあな」


 準備が出来た様だ。


 その時、花火のような音が鳴り響いた。


「あ?」


 男はその場に倒れ込む。


「油断したのはお前の方だよ。さかきさん」


 幾らレベルが高くても、頭に弾丸を打ち込むと、それなりにダメージを与えられるらしい。


「お゛い!卑怯だ!」


 地面を這い蹲って、今にも死にそうだ。


「卑怯?お前も不意打ちしてるだろ?」


「ま゛だ死にたくねぇよ……」


「そうか」


 相手は何人も殺してきた。


 ここで終わらす。


 俺は震える手を抑え、魔力を短剣に込めた。


 そして、一気に振りかざした。



「レベルが上がりました」



 ……通知により、殺してしまった事を理解した。


(事前に銃とワイヤーを買っていて良かったな)


 この対策が功を奏した様だ。


 そのような事を考えていると、隅で沈黙している生存者2名が目に入ってきた。


 全員俯いたまま、救いを待っている。


(声をかけるべきか?)


 きっと彼らは恐れるだろう。


(このまま帰るか)


 その時、無機質な音声が再び聞こえてきた。



「一つ提案があります。詳細は画面を見て下さい」



(一体何なんだよ)


 ため息をつくと、目の前に現れた画面を凝視した。



 提案があります。


 私の信者になりませんか?


 もし、信者になれば、一人殺す度に一つスキルを受け取る事が出来ます。


 一ヶ月に五人殺すというノルマはありますが、メリットの方が大きい話です。


[受け入れる] [受け入れない]



(受け入れる訳が無いだろ!)


 俺は迷わずに拒否した。


(待てよ。もしかして……)


 楓が襲撃してきたのも、榊が殺そうとしてきたのも、これが原因なのか?


 恐ろしいシステムだ。


 きっと信者になった人は大勢居て、今ここでこうしている間も誰かを殺している。


 神……いや、観測者はこれを面白がってるのか?


 震える手を握り締め、大きく息を吸った。


 滴り落ちる汗を眺め、心を落ち着かせる。


(取り敢えず外に出るか)


 ここに居たら、罪悪感で押し潰されそうだ。


 その為、ゲートに駆け寄った。

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