第45話 手のひらの上で

(最初は楽しいから、ダンジョンに行ってたんだっけ?)


 最初とは、随分目的が変わってしまった。


 そう思いながら、大きな時計が目印の集合場所のベンチに、俺は座っていた。


 バイト先のコンビニで買ったチョコレートを頬張ると、辺りを見渡す。


 集合時間までは、後10分だ。


 焦りながら誰かに電話を掛ける人、スーツケースを引き摺る人。


 彼らを目で追っていた時、誰かに声を掛けられた。


「おはよう!良介、調子はどうだい?」


「普通ですよ。というか、タクトもダンジョン行くんですね」


「敬語とかやめてよ!剣を交えた仲じゃないか!」


「はいはい。ところで、奈々さんは?」


 適当に受け流した。


「奈々さんなら……あ、来た来た」


 彼は大きく手を挙げて、居場所を知らせた。


「やあ、良介君」


「こんにちは。今日はどこのダンジョン行くんですか?」


「昨日行ったダンジョンに行こうと思う。Aランクの冒険者が今日の午後に到着するそうだ。それまでに攻略する」


「分かりました!」 「了解!」


 同時に返事をした。




 エントランスには誰もいない。


 多分難易度が高い事が知れ渡ったのだろう。


 俺たちは昨日と同じ道を進んだ。


 革靴のコツコツという音が鳴り響く。


(スーツで動きにくく無いのかな?)


 彼らに歩く速度を合わせながら、そう感じた。


「誰が一番早くダンジョンを攻略するか競走してみる?」


「タクト、しょうもない事をするな」


 俺たちはエレベーターに乗り込んだ。




 前方には、昨日も見た扉がある。


 息を吸い込み、吐き出すと、一気に扉を開いた。


(暑いな)


 熱風が吹き荒れる。


 奈々さんは手ぐしで髪をとかすと、先陣を切って地獄に足を踏み入れた。


「ここは暑いね」


「そうだな。しっかり着いてくるように」


「了解です」


 少し柔らかい地面を踏みつけ前進した。


「奈々さん、おすすめのスキルってありますか?」


「買うべきスキル……そうだな。自動回復系のスキルはどうだ?」


「ちょっと調べてきます」



 残高:22万円

 ライフ自動回復:250万円 [購入]

 マナ自動回復:150万円 [購入]



「どうだったの?」


 タクトが興味深く見てくる。


「全部200万円位だから買えないな」


「ダンジョンを攻略して、お金をゲットしよう!」


「だな」


 見覚えのある橋を渡った。


(あれ?スライム出ないんだ)


 俺たちは更に進もうとした。


 その時だった。


 前方に大きな帰還ゲートの様なものが現れた。


「どうしますか?」


「そうだね……奈々さんどうします?」


「このゲートはボス部屋に繋がっている。臨戦態勢を整えろ」


(何で知ってるんだ?)


 そう思ったが、俺は指示通りに双剣を取り出した。

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