第37話 観測者

異質な空間に入ろうとした時、後ろから声が聞こえた。


俺はすぐに振り向き、短剣を取り出した。


目の前には、人型の何かが居た。


(モンスターか?)


そう思い、俺は鎖で襲いかかった。


当たる寸前、鎖はその場で静止した。


「いきなり攻撃するなんて、酷いですね」


認識出来ない人型の生物は、そんな事を行ってきた。


(人間……ではないな)


その時、静寂を切り裂くように、花火のような音がした。


放たれた弾丸の群れは、それに命中した。


すると、肉片が床に飛び散った。


(やったか?)


そう思った瞬間、部屋が暗転した。


すぐに明るくなったが、そこには殺したはずの化け物がいた。


「好戦的ですね。その方が面白いので良いですが」


それは右手を銃の形にした。


すると、長剣を持った男に向けた。


俺は嫌な予感がした。


誰かが倒れるような音。


(嘘だよな……?)


音がする方向を見てみると、鎧を着た男性は胸から血を流していた。


きっともう助からないだろう。


「良介くん、少しついてきてもらっても良いですか。悪い話では無いですよ?」


それは白い空間に向かった。


(拒否権は無いよな)


俺は仲間に目配せをすると、大人しく後に続いた。


(頼むから誰も反抗しないでくれ)


そう切実に願った。


その時、誰かに腕を掴まれた。


そこには、不真面目そうな女性がいた。


「君だけでも逃げて!」


俺は咄嗟にそう言った。


(俺達二人で逃げれるはずがない)


未知の生命体。


勝つことは疎か、逃げることさえ不可能であると俺は確信していた。


その時、それは意外な言葉を放った。


「今回はここでお別れですか。まあ、いいでしょう。私はいつでも君の事を見ています。再び不具合によってこちらの世界と繋がった時、お話しましょう」


それは全ての出来事を楽しんでいると思った。




気が付くと、スーパーマーケットの入口に居た。


多分、彼女が魔法で助けてくれたのだろう。


また守れなかった罪悪感、未知の生命体に対する恐怖。


俺はつい現実から目を背けてしまった。


「大丈夫?凄く震えてるけど」


逃がしてくれた彼女の言葉によって、正気を取り戻した。


「大丈夫……ではないな」


神、運営、ゲームマスター、観測者。


そんな単語を思い浮かべた。


(きっと悪い夢だ。そうだよな?)


俺はそういう事にした。


俺……いや、俺達を観察している存在が居るという事実は、戦慄させるのに十分であったからだ。


「それで、あれと会ったことはあるの?」


彼女は俺の心も知らずに質問してきた。


「初めて会ったよ」


「へー。神とかそういうのかな。興味無いけど」


「怖くないの?堺さんが即死するのを見たのに」


「怖いけど、怖がっても仕方ないじゃん?そもそも君は心配する必要ないでしよ?あれが興味深く感じてる限り殺されないだろうし」


彼女はとても気丈だと思った。


「そう……かな」


「うんうん。じゃ私は帰るね」


彼女はこちらに背を向けて歩くと、右手を振り始めた。


(俺も帰るか……)


冒険者協会に連絡した方が良いと考えたが、今はそれどころでは無かった。


家に帰って落ち着いたら連絡しよう。

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