暫定金

ぃよっしゃぁっ!とSが腕を振り上げて跳びあがる。

くそ、まさか本物だとは。


いや、鉛である可能性も無くは無いが。

鉄より高価じゃ無かったか?


重さを表現するには鉛の方が良いかもしれん。

が、この場でそれを確認する方法は無いからな。


暫定金、とでも言っておこうか。


で、これをどうするのか、とSに聞いてみる。

すると売っ払って金にするらしい。


おいおい、公共の場所から出土した物を懐に入れるのはダメだろ。


そう伝えると、誰もいなかったから黙ってればバレない、だと。


誰かコイツに順法精神って奴をインストールしてくれ。


まあ、こうなったらSは梃子てこでも動かない。

せいぜいお巡りさんのお世話になるがいいさ。


で、帰ろうとした所で気付いた。


しまった、もう夕方だ。


途中で工事片側通行が連発したのが効いたな。

せめて郡上ぐじょう市辺りまで戻るか、高山市で宿を取りたかったが。


渋い顔をしている俺に、Sはここに泊っていけ、と提案してきた。


うーむ、昔から一緒に色々旅をしてきたし同室で泊った事も何度もある。

別に一緒の部屋で寝るのは特に問題ない。


だが、この宿の別の部屋が空いているなら、そっちの方が良い。


宿の人に確認した所、満室だと。

仕方ない、Sの提案に従うか。


受付で聞いたが何人泊まろうと、部屋の代金だけで支払いは変わらないとの事。

随分太っ腹じゃないか、この宿。


まあ、朝夕の食事は出ないがな。

俺は朝飯は食わんし、次の夕方には自宅にいる。


何の問題もない。


二人して近くの温泉施設へ。

宿にも風呂はあるが、やっぱり広い所の方が良いからな。


戻ったらSが持ち込んだ酒で乾杯。

二人してそれをあおる。


Sは随分と機嫌がいい。

今まで空振りが多かったトレジャーハントで結果が出たのだ、無理もない。


酒の肴は机の上の金塊と、これまたSが持ち込んだスルメやらなにやら。

不思議だな、旅先で食べると何故かいつもより旨く感じる。


名称不明の細長い所の椅子に掛ける。


小さな机を挟んだ対面にはS。

窓の外は暗いが、庄川の流れと虫の音が穏やかだ。


日本酒はまだ一升瓶半分残っているが流石にここまでだろう。

いや、五本あって一升瓶半分しか残らないとか、飲み過ぎか。


さて、寝るとしよう。

部屋の真ん中にある机と座椅子を端に寄せ、布団を敷く。


酒が回ってフラフラだが、スッ転ばなかっただけマシだな。


ごろり、と寝転がる。

いつもはベッドだが、こういう所の布団は良いな。


畳の匂いも安らぎを与えてくれる。


ゆっくり、ゆっくりと眠りの中へ落ちていく。


明日は、さっさと帰るとしよう。

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