金塊モドキ
どうだ!とSは得意げだ。
奴が取り出したのは、鈍く金色に光る三つの塊。
拳三つ分の大きなの一つと、こぶし大の小さなのが二つ。
ゴツゴツとしており、随分と重そうだ。
事実、筋肉バカのSですら、大きな方は両手で持ち上げている。
こぶし大のを自分の方へ引き寄せる。
ん、見た目よりも重いな。
ぐっ、と少し力を入れて、それを持ち上げる。
ふむ。
金塊と言うと金のインゴット、延べ棒を思い浮かべる人が多いだろう。
だがそれは現代の話だ。
戦国時代において、そんな便利な形にはしない。
特に、城に貯蔵するだけなら。
加工した、そのままの状態。
少しとげとげしいが、時代を経て丸みを帯びたように見える。
くるくると回して、あちこち確認する。
黒ずみが見える。
近年で埋めた物にしては時代を感じさせる劣化具合だ。
そこまで考えて仕込んだとしては、なかなか本格的な町おこしと言える。
K蜘蛛城跡のすぐ北は、かの有名な世界遺産白川郷。
それに対抗しつつ、ついでに欲深い旅行客に来てもらう算段か。
よく考えられている、と思うな。
白川郷は岐阜県北西部、石川県と富山県の接合部に近い場所にある。
飛騨の中心地、高山市から直線距離で30kmも離れているのだ。
高速道路の東海北陸自動車道で富山県の
インターチェンジを降りたら、即市内だ。
対して、高山市は飛騨清見インターから中部縦貫自動車道を経由する。
実は、富山県の南砺市の方が近いのである。
だが、多くの人は高山市に宿泊して白川郷を訪問するはず。
途上にあるわけではないが、足を延ばせばほんの少しだ。
更に南には、白川郷よりも合掌造りを深く味わえる旧遠山家住宅がある。
その客が目当てだろう。
にしても、この金塊はよく出来ている。
しげしげと金塊を見る俺を見ながら、Sは満足げな顔だ。
だが、その顔を曇らせる必要がある。
俺は懐からある物を取り出した。
磁石だ。
この金塊モドキが金メッキ等であれば、中身はおそらく鉄。
つまり、磁石がくっつくのだ。
Sから連絡を貰った時点で、真っ先に磁石を荷物へ突っ込んださ。
むっ、とSが小さく声を上げる。
疑われているのは明白だったが、磁石を持ってくるとは思っていなかったのだろう。
その様子に俺はニヤリとする。
つまりSは、この金塊が本物かどうかの確認はしていない、という事だ。
金塊モドキを一旦机に置く。
そして、俺は磁石をゆっくりとそれに近付けていく。
ハラハラ顔のSの様子を楽しみながら。
あと20cm。
あと10cm。
あと5cm。
あと1cm。
磁石は。
金塊に付かなかった。
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