金塊
よお、よく来てくれた!
そういってSは俺にハグしてこようとする。
ひらりと身を躱した。
なんだ、つれないなぁ、とSはしょぼくれる。
冗談じゃない。
男に抱き付かれて喜ぶか、バカ野郎。
そもそもお前、190cm以上ある上にボディビルダー顔負けの筋肉バカだろうが。
ぎゅっ、てされたら、背骨がぎゅっ、て鳴るぞ。
Sはアヒル口になりながら、宿の部屋へと俺を招き入れる。
ムッキムキの大男がそんな事しても、気色悪いだけだ。
Sは昔からこういう所がある。
お調子者で面倒臭い、だが憎めない。
始末に悪い奴なのだ。
だからこそ、俺は今ここにいるのだが。
そんなSは大学を出た後、なんとトレジャーハンターになった。
現代日本でトレジャーハンターとか。
馬鹿なのかコイツ、と呆れたものだ。
徳川埋蔵金だとか、
ありとあらゆる埋蔵金伝説を追いかけ回ったそうだ。
だが、財宝は見つからなかった。
そして、今回はK蜘蛛城埋蔵金伝説だ。
遂に財宝を発見した、と浮かれるのはよく分かる。
だがこの後、落胆させなければならないのは仕方ない事。
二階建ての二階、味わいのある木製の階段を二人連なって上った。
Sは木板の床が、ぎしり、ぎしり、ときしむ廊下を歩いていく。
相変わらずデカい男だ。
廊下の先が全く見えん。
Sが、すっ、と身体を左に躱した。
ぼんやり歩いていた俺は直進し続ける。
と、そこには仲居さんがこちらへと歩いてきていた。
わっ、と互いに声を発する。
衝突はしなかったが、俺はたたらを踏む。
転倒するまでは行かなかったが、壁に寄り掛かってしまった。
みしり、と壁が悲鳴を上げた気がする。
この宿、結構ボロいな。
仲居さんは、おそらく二十歳はいっていない、140cmくらいの可愛らしい娘。
赤よりの紫の着物が似合う、黒髪艶やかな楚々としたお嬢さんである。
ぺこり、と少し深めに会釈して、彼女は俺がきた廊下を歩いて行った。
何してるんだ、とSが俺に言う。
こいつ、自分がやった事を理解して無いのか?
一発ぶん殴ってやろうか。
いや、止めておこう。
日焼けが目立つ大男に殴りかかっても片手で止められるのが関の山だ。
どこかで食事でも奢らせてやる。
廊下の突き当り、そこがSが泊っている部屋。
ぎいっ、と鉄の扉が開かれる。
ふむ。
廊下は木だが部屋の扉は鉄なのか。
セキュリティ面ではまあまあ、という感じか?
Sは少し頭を下げて部屋の中へ入る。
入口は180cmくらいだから仕方ない、この辺は昔の建物っぽいな。
鉄の扉の向こうは下駄箱とトイレのある小さな部屋。
そして客室との境は
客室はまあまあ広い。
Sが悠々と過ごせるくらいの部屋だ。
窓際には古い宿にはよくある、名称不明の椅子と机がある細長いスペース。
小さな冷蔵庫もあるな、部屋自体は文句なしと言える。
窓の外は木々と川、そして緑あふれる山が見える。
川は、
K蜘蛛城の山崩れは庄川の一部まで埋めて、川の流れが変わったとか。
これもただの伝説だがな。
Sが畳敷きの床に置かれた座椅子に、
背の低い机を挟んで対面に座れ、と俺に促す。
同じ様に俺は腰を落とす。
おい、こっちには座椅子も座布団もないぞ。
客人への対応がなってない奴だな。
Sはニマニマと笑っている。
気持ち悪いな、その笑顔。
先に送った写真の金塊。
それを見たいか?と尋ねてきた。
お前、見せたいから俺を呼んだんだろうが。
さっさと見せろ、と面倒臭い顔をしてSに告げる。
なんだよ、ノリが悪いな、とSが残念そうに、またアヒル口。
それ止めろ、ドロップキック食らわしたくなる。
Sは大きめのリュックサックの中に手を突っ込んだ。
そして、少し暗い色をしたそれを取り出す。
ごとり、と重量のある音と共に塊が机に置かれた。
金塊だ。
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