K蜘蛛城って知ってるか?

和扇

K蜘蛛城って知ってるか?

K蜘蛛城って知ってるか?


Sから来た連絡の始めはそれだった。


K蜘蛛城。


岐阜県北西部に存在する、いや、存在した城。

古くは室町時代に建てられ、戦国時代でも使われた堅城だ。


だが、それは1580年代のある日に突然する。

城主であるU島一族と領民が一夜にして消えたのだ。


その原因は、中部地方で発生した大地震。

当時の正確な記録は残っていない、どこが震源地かは不明だ。


しかし史上、例を見ない程の地震だった事は記されている。


山が崩れ、家が土砂に呑まれ、城が消えた。

それがそこで起きた事だ。


運の悪い事に、その日は城に領民まで集めた祝宴が催されていた。

戦国時代に領民まで集めて宴をするなど、良い城主だったのだろう。


そんな事は天には関係ない、とばかりに山が襲い掛かった。

山の形が変わり、全てが埋まっていたと、運よく別地域へ出ていた者が記している。


城主一族と領民、およそ五百人。

全てが土に呑まれたのだ。


しかし、救援は来なかった。


まず、時代が問題だ。


1582年、本能寺の変。

織田家が分裂して家臣団が崩壊、各地域で敵対し始めた頃だ。


東は、飛騨統一を成し遂げた姉小路あねがこうじ氏だが、羽柴秀吉と敵対していた。

西は、加賀一向一揆が鎮圧されたすぐ後だ。


つまり、情勢的にK蜘蛛城へ救援など出せるわけがない。


続いて、この城が有った場所も問題である。


山深く、周囲と隔絶した陸の孤島。

当時の戦略的価値は低く、ここへ兵を出す意味が無い。


結果、K蜘蛛城はその正確な位置すら分からなくなってしまった。

時代が遥かに下り、1970年代まで位置特定作業が始まらなかったくらいだ。


さて、この城はある事で全国的に注目された。


それは埋蔵金伝説だ。


K蜘蛛城の領内には金山があったのだ。


そうなると城内には、それなりの金が有ったはず、と考えるのは自然だろう。


というか、位置特定作業が始まったあたりで噴出した話である。

眉唾物、と言ってしまっても差し支えないかもしれない。


まあ、現代人は欲深いのだ。


そんな場所の名前をSが出してきた。

更には金と思しき写真まで送ってきた。


実に馬鹿馬鹿しい。


Sは俺に宿まで来てくれ、と頼んできた。

何でもK蜘蛛城の近くに宿を取っているんだと。


おいおい、岐阜県は結構デカいんだぞ。

名古屋住みの俺の家から直線距離で100kmあるじゃないか。


だが、Sは昔からしつこい事で有名だ。


はあ、仕方ない。

眉唾話に付き合ってやるか。


どうせ、埋蔵金伝説にかこつけて埋められた金メッキの鉄塊か何かだろう。


せいぜい馬鹿にしてやるさ。


さぁて、行きますかね。


そう言って、俺は車を北へ走らせた。

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