第13話 ショッピングと佐藤②
「ふぅ……」
「落ち着いた?」
「は、はいっ。少しずつ、人の多さにも慣れてきましたっ」
「それは何より」
お洒落な雰囲気のフルーツジュース屋さんにて。
美羽に導かれるままやってきたこの場所で、俺たちはしばしの休憩中だった。
店内の席はほぼ満席状態ではあるものの、テーブルとテーブルの間隔が十分に確保されているので外ほどの圧迫感はない。佐藤への視線も激減中だった。
幸運なことにあまり並ばずに買えたジュースで体を冷やしながら、一息ついた佐藤が笑みを見せる。
フードコート以外にもこういう場所があって助かった。
ちなみに美羽は俺のりんごと佐藤のオレンジを最初に一口ずつ味見したあと、自分のモモもすぐに飲み干して二杯目を買いに行った。恐るべき胃腸の強さだ。
「平気そうなら、このあとゆっくり洋服見に行こうか」
「はいっ」
佐藤に似合う服を探す。
それこそ今日の一番の目的であり、美羽と俺……もしかしたら佐藤も含めた全員の最大の楽しみなので、多少荷物がかさばることになっても最初に服屋を巡るべきだろう。
それに荷物持ちは俺がするつもりだし、疲れることくらい承知の上だ。
「……あの、日向くんっ」
「ん?」
と、考え事をしていた俺に、頬を染めた佐藤が柔らかく声をかけてきた。
「そ、その……日向くんは、どんなお洋服が好き……とか、ありますか? ……えと、その、せっかくなら、そういうのも着てみたいなって……思いまして……っ」
「それって、佐藤が今着てるのとは違うのがいいよね?」
「…………ぇ」
「え?」
「ぅ…………そ、そう、ですね……違う方が……っ」
言ってからストローを咥えた佐藤が、ジュースを手に持って体を90度回転させる。
「正直、佐藤が着るならなんでも似合うと思うけど……」
「……っっ」
「強いて言うなら、普段佐藤が私服でも着なそうなやつが見てみたいかな。それこそ美羽が言ってたオーバーサイズとか、あとはミニスカートとか」
「み、ミニスカートですか……っ」
「もちろん無理じゃないけどね」
「い、いえっ! 着させてください、ミニスカート……その、似合うかは、分かりませんけど……」
俺からしたら似合わないなんて方が想像できないのだが、見る前から褒めるわけにもいかないので、とりあえず苦笑とありがとうで誤魔化しておく。
もぞもぞ。
と、早速イメージトレーニングでもしてるのか、佐藤は体を左右に揺らして恥ずかしそうにジュースを吸っていた。
◇ ◆ ◇
「いらっしゃいませ〜」
それから戻ってきた美羽を含めて全員がジュースを飲み終えると、俺たちはゆったりとしたペースで服屋へとやってきた。
広い内装に明るい照明。見渡す限りの女性服。
美羽が事前に調べてきた服屋の中でも特に幅広いジャンルのレディースを扱っているらしいここは、その品揃えの豊富さもあって最近の女子中高生から大人気の場所だという。
「わぁ……可愛いお洋服がたくさんありますっ! それに、可愛い子もいっぱい……!」
「意外と男の人も多いんだな」
「そうだねー、多分みんな女の子の彼氏とかだと思うよ?」
「か……ぁ……っ!」
佐藤と繋いでいた小指がぎゅっと握られる。
それに応えて握り返してやると、佐藤は一瞬俺の方を見てから髪を浮かせる勢いで顔を赤くした。そしてぼすっと、なぜか俺の腕に頭突きしてくる(超軽い)。
「試着室の数も多そうだし大丈夫だと思うけど、美羽一応店員さんに確認してくるね! そのあとお洋服もいくつか取って来たいんだけど……彩音ちゃん、スリーサイズってどのくらい?」
「スッ……ぅぁ……え、と……っ」
「……俺は耳塞いでようか」
「……ぃ、ぃぇ……」
「……佐藤?」
今の耳塞いでようかは断定文のつもりだったんだが、どういうわけかそれを拒んだのは佐藤本人だった。
髪の隙間から覗く耳まで真っ赤に染めて、佐藤は小さく口を開く。
「う、上から…………は、はち……じゅう……よん……ごじゅう…………な……な……ううぅ、や、やっぱりダメですっ……! これはダメなやつです……っ!」
不意に声をあげて自分の体を抱きしめた佐藤は、美羽の耳元に顔を寄せて小さな声で続きを告げた。
……助かった。
がしかし、佐藤ってやっぱり本当にスタイル……いやいや、考えるのはやめよう。
「ん〜〜っ! 彩音ちゃん最っっ高!! 最高の体だよ彩音ちゃん!!!」
「そ、そうなのかな……?」
「どう考えてもそう! ああ〜もう美羽我慢できない! 彩音ちゃん、早く一緒にお洋服見に行こう!? お兄ちゃんは試着室の近くで待機してて!」
「お、おう、わかった」
「あ、あの、日向くんっ! さ、さっきのはできれば聞かなかったことに……っ!」
「……善処する」
「そ、そんな……っ」
「ほらほら早く行こう! すみませーん店員さーん!」
「あぁっ、美羽ちゃんちょっと待って──」
そうして美羽に連れて行かれた佐藤は、最後まで恥ずかしそうに自分の頭を押さえていた。
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