第10話 閑話
「ショッピングモール?」
「そう! 映画にご飯にお洋服! 総店舗数250以上の巨大なショッピングモールがついに明日オープンなんだよ!」
リビングの窓から差し込む日差しが賑やかな週末の訪れを伝えてくる土曜日の朝。
最近はすっかり佐藤と一緒にいることが増えてきた俺ではあるが、もちろんそこに週末までは含まれない。
「というわけでお兄ちゃん、明日
「えー……オープン初日なんて絶対混んでるじゃん」
「大丈夫大丈夫! いざとなったら美羽がお兄ちゃんの手を引いてあげるから! だから行こうよ〜、可愛いお洋服いっぱいだよ〜?」
「せめて来週」
妹の美羽と朝食を囲いつつ、俺は彼女と一進一退の攻防を繰り広げる。
「来週はもっと混んでるよ! だってゴールデンウィークじゃん!」
「確かに……。ぐぬぬ……」
……いや、もう退却か降伏かしかないけどさ。
亜麻色のツインテールを揺らし、カジュアルな衣服に身を包んでいる美羽が「おねが〜い」と俺にトドメを刺してくる。
「分かったよ。行こうか、ショッピングモール」
「やった〜! お兄ちゃん大好き!」
「可愛い妹のためなら喜んで。でもあんまり露出の多い服は着てくなよ? 最近変なやつ多いんだから」
「変なやつ?」
「美羽みたいな可愛い子に一目惚れして、脚とか躊躇なく触ってくる変態がいるんだよ」
「うげー……美羽の体はお兄ちゃん専用なのに」
「だからもし変なやつに触られてるなって思ったら、すぐ俺に言うんだぞ?」
「スルーされた! でも、うん。ありがとうお兄ちゃん」
「どういたしまして」
いくらオープン初日のショッピングモールでも満員電車ほど混雑するとは思えないが、一部エリアではその可能性もあるだろう。
家族
「うーーん」
「どうした?」
「うーんとね、せっかく行くならお兄ちゃんにも楽しんで欲しいなって思ってさー……何かいい方法は……」
「いや、俺だってウィンドウショッピングとか普通に好きだぞ? それに美羽が楽しそうなら俺も楽しいし」
「もー、美羽のこと口説くと本気にしちゃうよ?」
「口説く?」
「かぁ〜、これで何でモテないのかなぁお兄ちゃん。見た目も普通にかっこいいのに……。ねぇお兄ちゃん、好きな女の人のタイプは?」
「急に何だよ」
「いいからいいから!」
「えー……じゃあそうだな……」
好きな女性のタイプ、理想の女性像。
いくつか連想したものを正直に言ってみる。
「顔が可愛い、スタイルが良い」
「ふむふむ」
「あと素直で優しくて、できれば俺に甘えてきてくれる子で……ただ一緒にいるだけの時間を好きでいてくれる子、かな?」
「なるほどなるほど…………つまり、お兄ちゃんは美羽のことが大好きってことだよね!? 美羽も大好きだよお兄ちゃん! ……そうだよね、それだけ理想が高いなら、理想の人が美羽しか見つからないのも当然だよ」
「あ、あとあれだな。美羽と仲良くできる人」
「美羽は美羽のことも大好きだよ!!」
うっ……この健気な妹には本当に涙が出てくる。
しかし、あと何年で「お兄ちゃん邪魔」とか言って兄離れされるか分からないのが怖いところ。女子の反抗期っていつなんだろうか?
「あ! 良いこと思いついた!」
と、不意に美羽が立ち上がった。
「明日のショッピングにお兄ちゃんのお友達も呼ぼうよ! 女の子! そしたら美羽が、その子のこと世界で一番可愛くコーディネートしてあげる!」
そう言った美羽はちょっぴり誇らしげだった。
なんせ美羽は、ファッションに興味大ありな中学二年生。
しかもそれは雑誌をよく買うなんていうレベルじゃなくて、誕生日とお年玉を駆使して買ったマネキンが部屋に置かれているほど、『可愛いお洋服』が大好きなファッションオタク。
そしてそれはつまり、『着飾れば可愛い女の子』には本当に目がない美少女大好き人間ということで。
「それ、美羽が楽しみたいだけじゃないのか?」
「そ、それもあるけど……でも、お兄ちゃんがいい感じの子を連れてきてくれれば、お兄ちゃんはその子の可愛い姿見放題だよ? どーしてもダメなら美羽のお友達でもいいけど……」
「……いや、それなら俺の友達呼ぶよ」
「ホント!? ありがと〜お兄ちゃん!」
さすがに混雑した広大な敷地内で女子中学生二人の面倒は見きれない。
それにその呼ばれる子だって、友達の兄とかいう絶妙な立ち位置の人間がいたんじゃ上手く楽しめないだろう。
「可愛い姿見放題……か」
……連絡先、交換しといて良かった。
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