再開

 先導していた美影みかげがあるとびらの前で止まる。


「ここから海人かいとの魔力が感じる。前に潜入した時にはこの部屋に連れされた人達が収容されていたし、間違い無くここにいる」


「よし、早く入って海人かいとを助けよう。とびらは開きそうか?」


「ダメ、かない。鍵がかかっているのか、それとも何か特殊とくしゅけ方があるのか。

 ボクだけだったらわずかな隙間すきまから入る事だけは可能だけど。それだと海人かいとを持ち出せない。

 寛太かんた、少しだけ離れていてちょっと危険だから」


「おう、分かった」


 なんとなく嫌な予感がするけどここは美影みかげに任せるしかない。俺は言われた通りとびらから距離を取る。


「うむ、素直でよろしい。それじゃあいくぞー!」


 美影みかげの体が縮み右腕部分だけが太くなっていく。質量を右腕部分だけに集中させているのだろう。


「うりゃー」


 ドガーン


 その異常なまでに肥大化した右腕の一撃によって凄まじい音と共にとびらけられた。


「よし、これなら寛太かんたも入れるね」


 美影みかげほこらしげに胸を張っている。


「よし。じゃあねぇよ馬鹿!部屋の中にいる人達が怪我とかしたらどうするんだー」


「馬鹿ってひどいなー。大丈夫だよ。貴重な検体は破壊されたりしないように部屋の奥に収容されているし、しっかりと保護御魔術がかけられているのを前回の時に確認してあるから。それにこの方が速いでしょ」


 肥大化した右腕をかがげながら俺に詰め寄ってくる。


「くっ、馬鹿呼ばわりして悪かった。俺が悪かったからその状態で近寄らないでくれ。今は時間が惜しいだろ。あらそうのはあとにしよう」


「あははは、ごめん、ごめん。寛太かんたは反応が面白いからついつい揶揄からかいたくなるだよねー」


「お前なー」


「もうそんなにねないでよ。そんな事よりも少し覚悟して部屋の中の状態は保証するけど、それゆえに中々にショッキングな光景だから」


「言っている意味がいまいち良く分からないがさっさと行くぞ。これ以上は時間を無駄にできない。さっきのエイリアン含めてもう色々とショッキングな光景を見てきたんだ。その心配は今更だぞ」


「…分かった進もう。確かに今は一刻も争う状況だしね。もう後戻りできないもんね」


 美影みかげが何をそんなに躊躇ちゅうちょしているかが分からなかったがその部屋に入った時にそれが俺に対する気遣きづかいであったことを理解した。

 部屋の中は実験室を思わせる内装だった。良く分からないが実験器具だろうと思われる物などがき詰められるようにあった。

 そして何よりも目についてしまったのが部屋の奥に並べられているモノだ。ソレは銀色の円錐状えんすいじょうつつで正面は硝子ガラスの様に透明な素材で中のモノが良く見えた。中は謎の液体で満たされており、小さな水槽すいそうを連想させた。しかし、その水槽すいそうに入れたれていたのは魚などではなく、人間の脳だった。


「うっ」


 胃酸が込み上げてくる。何とか吐き気をこらえる。成る程、コレは美影みかげやエイリアンとは違う別種の嫌悪感だ。理解できてしまうからこそくるモノがある。分かりやすく身にせまる恐怖の方が精神的につらいな。

 とはいえ、分かっていたはずだ頭部だけという時点でこの様な事態である事は察しがついていただろう。ただ目をらしていたに過ぎない。あれだけ大口を叩いて今更ノイローゼ気味になってなっていては美影みかげに対して格好かっこうがつかない。


海人かいとはどれだ美影みかげ?」


 俺は冷静を装い、美影みかげに問いかける。正直、直視したくない事実ではあるが美影みかげが言った通り、もう後戻りはできない。


「ちょっと待ってね。今、探すからえ〜と」


 美影みかげが沢山並んでいる脳から海人かいとを探そうとした時


「その声は寛太かんた美影みかげですか?」


 一つの水槽から電子音声の様な音が聞こえた。


「そのしゃべり方は海人かいとか?」

「本当だ。海人かいとの魔力がコレから感じる」


「えぇ、こんな姿になってしまいましたが、僕は乱場らんば海斗かいと。久しぶりですね。海人かいと美影みかげ。助けに来てくれたのですね」


「俺等の名前を知っているという事は海人かいとで間違いなさそうだな。話したい事は沢山あるが今はここから出るのが先だ。

 海人かいとだけなら問題無く連れ出せるしな」


「そうだね。まだ数匹の生き残りがいるはずだし、奴らにエレベーターとかを止められる前に早く出よう」


 俺は海人かいとが入っている水槽を持ち上げた。


「ありがとうございます。ですが、まだ脱出する事はできません」


「何を言っているんだ海人かいと。こんな所、早く出るぞ。他の人達はまた後で助けに来よう」


「落ち着いて聞いてください寛太かんた。今、彼等は邪神を召喚を企んでいます。それを止めなければ町が、世界が終わってしまいます」


「邪神って!硝子しょうこお姉さんが昔、言っていた。今は大半が眠っているけど昔、宇宙を支配していためちゃくちゃヤバい奴らの事だよな。何だってそんな奴を呼び出そうとしているんだよ!」


「そんなのを呼び出す理由なんて僕にも分からないですよ。でも確かな事実です。何しろ奴等から聞き出した情報ですから」


海人かいとあのエイリアンと会話できるの?驚きなんだけどボク」


「えぇ、最初は僕も驚きました。彼等、その気になれば普通に人間の言葉もしゃべれれます。そういった技術のレベルは人間よりも上ですね」


「確かにこの地下施の近未来的な光景を見るとそう感じるな。俺としてはあの虫みたいなエイリアがしゃべるのはあんまり想像つかないけど」


「ここは彼等が人間を観察研究する所なのですが僕以外の人達はこの状況に精神が耐えられず、まともな言葉を喋れなくなってしまい音声機能を゙外されてしまいました。

 結果、相対的に彼等にとっての僕の価値は上がりました。僕は彼等の行動などを知るために彼等との情報交換に応じました。彼等を出し抜く為に従順じゅうじゅんなフリをしました。

 その甲斐かいあって彼等の信用を得て邪神召喚の計画を知る事ができました。しかし、召喚の儀式の妨害のくわだてバレてしまい。ここに再び幽閉ゆうへいされている状況なのです」


「成る程な。だけど一旦いったん、脱出して計画をってからじゃあダメなのか?俺も美影みかげもお前を助ける事しか考えて無かったぞ」


「残念ながら時間が無いのです。儀式の為の生贄いけにえとして何人かの人がこの部屋から運び出されていきました。

 もう儀式は始まっています。完全に呼び出される前なら何とかできるかもしれません。お願いします。僕に協力してください」


勿論もちろん、ボクは海人かいとの頼みならば協力するよ。正直、あまり気乗りはしないけどね。寛太かんたはどうする?」


 美影みかげは少し不安そうな顔で俺に向ける。


「はぁ~、一人で帰るほうが怖いし、ここまで来たのなら最後まで付き合うさ。それに町どころか世界が終わるクラスの奴なら逃げようがないしな」


 それに海人かいと美影みかげを二人きりにするのは何かモヤモヤする。あっ、いや何を考えているんだ俺?


「よし、寛太かんたも頑張るなら僕も張り切るぞー」


 美影みかげは嬉しそうにガッツポーズをしている。不覚にも可愛いと思ってしまう己の正気を疑う。


「二人共、ありがとう。それじゃあ儀式が行われている部屋に案内しますね。寛太かんた、その辺に少し大きめのドローンがありませんか?」


 そう言われて辺りを見回すと、確かにドローンみたいな機械が置いてあった。


「確かにそれらしき物があるが、コレは何なんだ?」


「良かったー。無事だったんですね。その中心部に何かを接続する部分があると思います。僕のこの水槽の様なつつをそこに乗っけてください」


 言われた通りにすると接続部分と水槽の様なつつの底の穴がまった。すると


 ウィーン


 という駆動音くどうおんとも水槽海人がそのドローンの内部へと収められていった。驚きながらも見守っていると突如とつじょとしてドローンが俺達の目線ぐらいまで浮いた。


「それじゃあ、僕が先導するから着いてきてください」


 俺と美影みかげは言葉を失いながらもそのドローン海人に言われるままついていった。

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