チーム結成

美影みかげの成り立ちに関しては大体は分かった。『首狩り事件』を追っていたのはどういった経緯けいい何だ?」


「単純に、非常識な知識も持ち合わせている海斗かいとがこれは人間の仕業ではないなと気づいたからだよ。っで、それが自分達にも危害を加える可能性があるから自分の手で解決しようとしたら返り討ちにあってしまった」


「お前がいながらか?その宇宙人はそんなに強いのか?」


 意地の悪い質問である事は百も承知である。しかし、避けては通れない問題だ。


「今回の問題を起こしている宇宙人自体はそんなに強くは無い。数も少ないし、普通に戦えばボクの敵では無い」


「だったらどうして!」


 何か理由がある事は分かる。別にコイツを責める為に質問したわけでは無い。勝算や対策はあるのかを聞きたかった。それなのにどうしても少しだけ感情的になってしまう。


「ボクがこっそり単独で奴らのアジトに潜入している時に殺された。言い訳にもならないが、海斗かいとを危険な所に連れて行かないようにしたのが裏目に出てしまった。

 違和感に気づいて直ぐに引き換えしたけど結果は知っての通りだ」


「そうか」


「うん」


 少しのあいだ、互いに沈黙する。空気が重い。どこかやり切れない思い。コイツが悪いわけではない。そんな事は分かっている。結果だけを見れば失敗だが、化物にしては十分過ぎるほどに真っ当な行動だ。相手が悪かった。運が悪かっただけだ。

 あとから考えれば色々と思う所は出でくるだろう。しかし、そんなのは結果を知ってからの後付だ。理想論の話だ。そんなに理屈通り上手く行く事など基本的に無いのだ。

 それを俺もコイツも分かっている。しかし、感情とはこれまた難しいモノだ。分かっていても納得がいかない。現実と理屈の狭間で迷子になる。それがこの沈黙を作り出す。

 だが…


「勝算は十分にあるって事だな。俺とお前で奴らのアジトに乗り込めば勝てると」


 迷子になっている時間ひまなど凡人の俺には無い。考え悩んで道を見つける能力など俺には無い。無理矢理でも前に進むしか道は無いのだ。


「ははは、凄いね寛太かんた。君は海斗かいとよりイカれているよ。なるほど、今なら海斗かいとが君に託した理由も分かる」


「うるさいな。海斗かいとより常識だけはあるつもりだ。それよりもちゃんとした作戦とかあるんだろうな。潜入の成果が無いわけでも無いんだろう?」


「あぁ、ちゃんとあるぜ。奴らのアジトの中はしっかりと把握はあくしている。まぁ、一年前の記録だから多少の誤差はあるかもしれないけど奴らの性格を考えたら大きくは変えてないはずさ。

 何しろ海斗かいとに目をつけられたにも関わらずここから動くという手段を選ばなかったほど物臭ものぐさで大胆な連中だかね」


「よし、あとは作戦だな」


「フッフフ、それもボクに任せてくれたまえ。海斗かいとも顔負けの素晴らしい作戦がボクにはある」


 美影みかげは得意げにそう言い放った。何か逆に不安になってきたのだが大丈夫なのだろうか?まぁ、とりあえず聞くだけ聞いてみるか。


美影みかげさん、その作戦の具体内容を説明してくれないか?」


「良くぞ聞いてくれた。君にも分かるように簡単に言うとだね。護衛対象の君と二人で乗り込めば守りも攻撃も両方できるっていう画期的かっきてきなアイデアさ。どうだい素晴らしいだろう」


「そこからの計画プランは?」


「ボクと君で相手を殲滅せんめつして海斗かいとを取り戻す」


「………」


「お〜い。ちゃんと聞いているかい。ボクのこの素晴らしい作戦に驚いて声も出なくなってしまったかい?」


「この…」


「うん?」


「この脳筋馬鹿!要するにただの特攻じゃあないか。具体性がなさ過ぎる。何が海斗かいとも顔負けの作戦だ。顔が真っ青の間違いだろ」


「酷いな〜前回の失態からボクなりに真剣に考えてたのに。実際にこの一年、寛太かんたを見守るのにてっしていたから、攻め手に出れなかったんだし」


 美影みかげはしょんぼりとしてしまった。


「いや、怒鳴どなって悪かった。つい熱が入ってしまった。済まなかった。それとこの一年、俺の事を守っていてくれていたんだな。何というかありがとう」


「まぁ、海斗かいとに頼まれていた事だからね。それに実際に奴らも海斗かいとの弟である寛太かんたに興味を持ったみたいだし」


 美影みかげは少し照れた様子を見せながらそう言った。

 俺はコイツにこの一年、守られてきたのか。そうとも知らずに怒鳴ったり酷い態度をとった事を後悔した。それに冷静に考えると美影みかげの作戦内容がガバガバであるが二人での突撃という点に関しては確かに理に適っている。

 問題はその後の計画性の無さだ。たとえ美影みかげがその宇宙人よりも圧倒的に強いとしても相手も知的生命体なら何らかの手を打ってくる可能性は高い。

 情報が必要だ。敵についてもそして何よりも美影みかげについてもっと知る必要がある。互いに信頼が無ければ容易に崩れる。


「細かい所をもう少し二人で詰めよう。でないと万が一の事に対応出来ない可能性がある。何よりもお互いの意思のズレを修正しないと最低限の連携も取れない。

 そのためにも美影みかげさん頼む。俺にこれから戦う相手の事、そして美影みかげの事をもっと教えてくれ」


「うん、分かった。確かにそうだね。少し過保護になり過ぎていたかも。この調子なら寛太かんたを頼りにしても良さそうだ。

 でも覚悟はできているかい?深淵しんえんのぞく時、深淵しんえんもまた君を見ているだっけかな。こちら側に深入りすると抜け出せなくなるよ」


 その美影みかげの言葉を聞き、俺は感じていた違和感の正体。深淵しんえんの中に封じていた記憶を思い出した。


「それはもう手遅れだよ多分。俺も海斗かいともとっくの昔に深淵しんえん彷徨さまよっているよ。ましてそこから再び離れる気も無い。もう絶対に手放さない」



「?良く分からないけど弟だけあってやっぱり海斗かいとと似ている。よし、ならば僕が責任をもってさらなる深淵しんえんに導いて上げよう」


 あぁ、本当にそっくりだ。何で今の今まで忘れていたのだろうか?そう笑う美影みかげの顔は本当に…

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