40話 飼育成功?

そして、日が暮れる前に都市に帰還する。


魔物が減っていたこと、道をわかっていたので前回より早く帰ってくることができた。


これを続けていけば、もっと探索がしやすくなるだろう。


「つぁー! 疲れた! でも無事に着いた! ……そして着いてきちゃったよ」


「モゥー」


「結局、主人殿の側を離れませんでしたね」


「やっぱり、涼しいからじゃない?」


「うん、そういうことだと思う。とりあえず、馬小屋に入れるかな」


あそこには、馬の為に常時氷を置いている。

コカトリスをカリオン達に、報告をアスナ達に任せ、クオンと一緒に馬小屋に向かう。

すると、そこにドワーフのガルフさんがいた。


「おっ、帰ってきおったか……モウル!?」


「モゥー」


「驚かせてごめん。実は、着いてきちゃって。どうやら、俺の氷魔法に惹かれたみたい。見ての通り、めちゃくちゃ大人しいから平気だと思う」


「いや……良く良く考えれば当然か。モウルは暑さによって激減したが、元々は穏やかな魔獣だと聞いたことがある。わしも曽祖父から聞いただけで忘れておった」


「やっぱり、そうだったんだ」


温暖化の影響を受けて、暑さに弱いモウルは激減した。

でも、それだけじゃない。

誰だって暑ければ機嫌は悪くなる。

そして暴れまわるモウルは家畜に向かなかったり、討伐されてきたのかも。


「それで、そいつを馬小屋に?」


「うん、ダメかな?」


「いや、どちらも大人しいから平気じゃ。ただ、ちょうど新しい小屋を作ったところじゃ。なので、こっちの部屋に入れるといい」


そしてガルフさんが作ってくれた新しい小屋に、モウルを氷魔法を使って誘導する。

そのまま親子揃って大人しく入り……桶に入った水を飲み始める。

安心したのか、子供の方が……


「おおっ! これだ! 俺が求めていたものは!」


「ふむ、乳の出が悪いな。ただ、これならすぐに良くなる」


「今はとっても平気かな? 俺、乳搾りがしたいんだけど……」


「その辺りは獣人の方が詳しいじゃろう。獣人は生き物の機微に敏感な種族だ」


「クオン、わかる?」


「ええ、平気ですね。敵意や警戒心がまるでないです。おそらく、主人殿がやれば平気かと。無論、私が補佐します」


「んじゃ、やりますか」


クオンの補佐の元、子供が吸ってない箇所をお借りして乳搾りを始める。

幸い、子供も親も俺に気にすることなくそれぞれ水と乳を飲み続けていた。


「よし、今のうちに……やったことないや」


「かははっ! 王族じゃから当然だわな! わしらみたいな種族は別として、人族の王族はしないじゃろう」


「まあ、普通はしないね。もしかしたら、俺が初かもしれない」


「主人殿は変わり者ですから。乳房の上の部分から優しく握って、徐々に下へ押すイメージです」


「上の部分から優しく握って……出てきたっ」


「ええ、その調子ですね」


置いたバケツの中に、良く知った香りがする。

そのまま、作業を続け……バケツ一杯分になった。


「今日はそれくらいにしときましょう。もっと健康になれば、量も増えますから」


「うん、そうだね。あとは数を増やすために雄を探しに行かないとだ」


「子供がいる以上、雄もいるはずですから。捜索隊を派遣して、探させましょう」


「そうしないと乳も出なくなっちゃうし。さて、こっからどうするんだっけ?」


「一度、火で熱する必要があります」


「それじゃ、厨房に行くとしますか」


そして、ガルフさんにお礼を言って去ろうとすると……。


「クレスよ、今日は宴か?」


「え、ええ、大物が手に入ったのでこれから調理にかかります」


「ならば、わしも本気を出すとしよう」


「えっと……?」


「なに、気にするでない。さあ、行ってくるがいい」


「……はぁ、わかりました」


釈然としないが、ひとまず屋敷に帰って厨房に入る。

そこにはすでに、解体を終えたコカトリスがあった。

そして、レナちゃんもいる。


「クレス様! お帰りなさいませ!」


「レナちゃん、ただいま。早速、作業してるの?」


「はいですの! クレス様が何か作ると聞いていたので、野菜を切ったりしてましたわ」


「おお〜偉い偉い」


「えへへ、褒められました」


うんうん、レナちゃんは可愛いなぁ。

思わず頭を撫でてしまうわー。


「主人殿、顔が怪しいです」


「そ、そんなことないし!」


「……私だって、たまには褒められたいし撫でられたいのですが」


「ん? なんて言ったの?」


「なんでもないです」


そう言い、不満そうにして部屋の外に行ってしまう。

あれ? なんでだろ?

しかも、レナちゃんが呆れた顔してるし。


「もう、クレス様」


「は、はい?」


「私も撫でられるのは嬉しいですけど、もっとクオンさんを労ってあげないといけませんわ」


「……俺、労ってない? 結構、お礼とかしてるし言ってるつもりなんだけど」


「そういうアレではなくて、もっと褒めて欲しいんです」


「褒める……なるほど」


「これでは、お姉様もクオンさんも苦労しますの」


そして十二歳の女の子に、あれこれ説教されるクレス君なのでした。


……女の子って難しいや。

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