41話 褒める

レナちゃんの説教?もひとまず終わり、料理を始める。


毒を吐くけど、それは尻尾の部分だけなので鶏の身体自体には問題ないとか。


なので、普通の鶏肉と同じように扱って良いってことだ。


「何を作るんですの?」


「そりゃ、定番の親子丼しかないでしょ」


「オヤコドンですか?」


「うーんと、鶏の身体と卵からできるから親子丼って言うんだ」


「初耳ですの」


そりゃ、そうだろうね。

俺も、こっちの世界では食べたことないし。

そもそも鶏が強すぎるし、卵も貴重品すぎるし。


「ふふふ、美味しいのでお楽しみに」


「はいですの!」


「では、忙しくなるぞー」


「わたしは何をすれば良いですか?」


「レナちゃんには牛乳を殺菌してもらいます。さっき持ってきたやつを鍋に移してね」


「それなら習いましたの! なんでも、そうするとお腹を壊さないとか」


「そうそう。沸騰させないように弱火で軽く混ぜながらやると良いよ」


「はいっ!」


そっちをレナちゃんに任せ、俺は親子丼に取り掛かる。

まずは骨を水から煮ていく。

その間に、モモ肉に値する部分をぶつ切りにしていく。

次に玉ねぎも切っておく。

サラダに使う野菜は、既にレナちゃんが用意してるから楽だね。


「クレス様、できましたの!」


「おっ、ありがとう。それじゃあ、氷水に冷やしますか」


でかいボールに水と氷を入れ、小さいボールに熱した牛乳を入れる。

小さいボールをでかいボールに漬けたら、後は冷めるまで放置だ。


「クレス様の氷魔法があると便利ですの。お水とかも冷たくて美味しいですし」


「まあ、普通は冷たい飲み物ってないからね……そうだ、味見をしとくか」


「ふふ、牛乳って飲んだことないですの」


「んじゃ、用意しますか」


俺はおたまで牛乳を掬い、コップに注ぐ。

そして、レナちゃんと頂く。


「では……プハー! 美味い!」


「んー! 濃厚で美味しいですの!」


栄養が足りないので味も落ちていると思ったが、そうでもなかった。

むしろ絞られているというか、凝縮されている感じがする。

こってりとして、めちゃくちゃ美味しい。


「これは美味いや」


「……クオンさんに持って行ってはいかがですの?」


「えっ?」


「ずっと頑張ってますから」


「……うん、そうするね。その間、骨のスープのアク取りお願いできる?」


「はいですの!」


やれやれ、歳下の女の子に言われるようじゃダメだなぁ。

俺は牛乳を持ってクオンを探しにいく。

幸い、玄関先ですぐに見つかる。


「あっ、クオン」


「あ、主人殿? 作っていたのでは?」


「うん、そうなんだけど……どうかした?」


何やら慌ててるように見える。

やっぱり、俺のせいかな?


「い、いえ、なんでもないです。それで、どうしたので?」


「いや、クオンに牛乳をあげようって思って……一緒に絞ったしさ」


「……ふふ、ありがとうございます。それでは、庭のベンチに行きましょうか」


そのまま手を引かれ、屋敷の縁側から庭に出る。

そして、ベンチに並んで座った。


「はい、どうぞ」


「ありがとうございます。では、頂きます……コクコク……ほっ、美味しいですね」


「でしょ? 濃厚で美味しいよね」


「お風呂上がりとかに飲みたいですね」


「あっ、それ良い! キンキンに冷やして飲んだら美味いだろうなぁ〜」


お風呂ができたら試してみようっと。

コーヒーとかはないけど、何処かの国にあるかな?

今度、それも調べておかないと。


「主人は、こちらに来てから生き生きしてますね」


「えっ? ……まあ、そうかもね。あちらでは肩が凝って仕方なかったし」


「私も楽しく過ごさせてもらってます。お役にたてているかはわかりませんが……」


「だから前にも言ったでしょ? 役にたつとか立たないじゃないって。俺はクオンを、そういう扱いで連れてきたんじゃないよ。クオンにも楽しいことや見たいものを感じて欲しいし、それを一緒にしたいと思ったから連れて来たんだから」


俺はクオンには助けられてきたし、大事な人だと思っている。

それに奴隷時代から閉じ込められ、その後は俺の世話をしていた。

だから、色々な世界を見せたいと思っていた。

すると、クオンが俺の手を強く握った。


「クオン?」


「……それはわかっております! ですが……私は役に立ちたいのです。貴方様は魔法を使えるようになり、アスナ様やアーク様、レナ様までいます……私がいる意味があるのかと」


「……俺には何がクオンを苦しめているのか正確にはわからない。ただ、クオンが役に立ちたいって気持ちはわかった。だったら、これからも役に立ってくれ。まだまだ、やることは山のようにあるからさ」


「はいっ……! お手伝いさせて頂きます!」


……レナちゃんがクオンが不安とか言ってたっけ。

俺は役に立たなくても良いと思ってるけど、クオンは役に立ちたいって気持ちが強いってことかも。

恥ずかしいけど、頑張りますか……俺はクオンの頭を優しく撫でる。


「あ、主人殿!?」


「よしよし、クオンは頑張ってるよ。いつもありがとね。ここまで付いてきてくれたことも、ここにきてからのことも」


「……えへへ、嬉しいです」


すると、花が咲いたように微笑んだ。


その姿は、幼い頃のクオンを思い出させる。


そして俺は、クオンの気がすむまで撫で続けるのだった。








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