39話 卵と牛乳

無事にコカトリスを倒した後、皆と合流する。


そして、コカトリス処理組と探索組に分かれて日が暮れかけた頃……。


探索組のクオンが、俺が欲しかったものを発見した。


それは、バスケットボールサイズの大きな卵だった。


「主人殿、良かったですね」


「おおっ! 愛しの卵ちゃん! クオン、ありがとう!」


「いえいえ。あの様子でしたから、もしかしたらと思い探しましたが……木の上にあったとは想定外でしたね。前に聞いた話では、地面にあると聞いていたので」


「そうなんだ? じゃあ、クオンがいて良かったね。俺達人族じゃ、この辺りの木には登れないし」


なにせ、高さは軽く十メートルを超える。

それにバランス感覚やジャンプ力もないと、上まで行けないし。

そうなると、この卵はかなりレアってことだ。


「お役に立てて何よりです。そちらもある程度終わったようですね?」


「うん、血抜きとか内臓処理はできたよ。中には俺の氷を仕込んだから、そう簡単には傷まないし」


「ですが、大きさが大きさですね。どうやって持って帰るのですか?」


「ふふふ、それについては考えがあるのです!」


「はぁ、また規格外なことをするのですね」


「いやいや、そんなことないよ」


そして持ってきた台車に、コカトリスをどうにか詰める。

その周りには氷を敷き詰めて少しでも良い状態を長持ちさせる。


「さて、こっからだね——アイスロード」


「こ、これは……私達がきた方向に氷の道が」


「ここに前輪を乗っければ、移動しやすいと思うんだ。タイガさん、試してくれる?」


「うむ、やってみよう……これはいい、楽に進む」


「じゃあ、このまま行こうか」


すると、アークとアスナがぽかんとしていた。


「どうしたの?」


「どうしたもこうも……この氷、どこまで続いてるんだ?」


「多分、森の出口までたけど……」


「はぁ、呆れたわ。アンタ、どんな魔力量してるのよ」


「ほら、やはり規格外のことをなさるではありませんか」


三人に呆れた視線を向けられる。

……どうやら、何かやってしまったらしい。

これは無自覚系主人公ではなく、単純に俺が他の魔法使いを知らないだけだ。

あとで、レナちゃんにでも聞いてみようかな。



途中で野宿を挟み、朝早くから動き出す。


氷のおかげですいすい進み、順調に進んでいく。


ついでに、氷の結晶を俺たちの周りの空中にいくつか置いた。


近くにいると涼しいので、快適そのものである。


魔力をかなり使うので、行きには使えないけどね。


そんな中、クオンの耳がピクピク動いた。


「主人殿、何かが近づいて来ます」


「えっ? 魔物? 魔獣?」


「少なくとも魔物ではないです。何故なら、相手から敵意を感じないので」


「ということは、無害な魔獣とか?」


「その可能性が高いです。このまま、大人しく過ぎ去りましょう」


みんなも頷き、警戒を解いて進み出す。


「……変ですね、ずっと追ってきます」


「そうなの? 相変わらず敵意はない?」


「ええ、そうですね。どうしますか?」


「倒したところで、流石に荷物はいっぱいだしなぁ。タイガさん、少し休憩をしますので荷物を見ててください。ちょっと、クオン達と見てきます」


「うむ、分かった」


その場を獣人達に任せ、クオンやアスナ、アークと一緒に森の中を進む。

そして、とある生き物を発見する。

それは……俺の念願の魔獣だった。

その魔獣は、草を食べながらのんびり過ごしている。

体長二メートルくらいに黒い巨体、頭には立派なツノが二本生えている。

イメージ的には、バッファローに近い。


「モゥ……」


「……モウルだ」


「ええ、そうですね。主人殿が求めていたものかと」


「あれがそうなの? 王都では見ないし、私も初めて見たわ」


「元々、絶滅危惧種だしな。この大陸が熱くなってきてから、その数は少ないとか」


……ど、どうしよう? いきなりだ。

卵があって、これで牛乳が手に入れば……アイスが作れる。


「それにしても大人しいね? 俺達に気づいてるはずだけど。しかも、子連れだし」


「確かに気性が荒いと聞いてましたが……子供もいるのに穏やかですね。生き物を見れば、見境なく突進してくると聞いていたのですが」


「というか、こっちを気にしてない感じね」


「俺達に敵意がないことをわかってんじゃね? そもそも出会う者も減ってるし、それが本当かどうかもわからん」


「ふむふむ、その可能性もあるか」


そうこう話している間にも、モウル達親子はのんびりと草を食べている。

すると、小さい方が俺の方にトコトコと寄ってきた。

体長は一メートルくらいの可愛い子牛だ。


「モゥー」


「ちょっ? くすぐったいんだけど?」


何やら腕を舐められている。

その様子は、とてもリラックスしているように見えた。

……あぁ、そういうことか。


「俺が氷を出しているからか」


「なるほど……暑さに弱いと言われているモウルですから、主人殿の氷によって大人しくなってる可能性はありますね」


「じゃあ、クレスの氷魔法に惹かれてきたんじゃない?」


「おっ、説明がつくな。だから、追ってくるんだよ」


「ふむふむ……それっぽいね。よし、試しに森の外まで付いてくるか試してみよう」


その後、タイガさん達にこちらにきてもらい、モウルを誘導するように道に氷を撒いていく。


すると、大人しくそのまま付いてきて……なんと、森から出てしまった。


「モゥ」


「付いてきちゃったよ」


「どうします?」


「そりゃ……このまま領地まで連れてくよ。そしたら、牛乳が手に入るし」


いきなりで驚いたけど、これで牛乳と卵が手に入った。


ふふふ、これで色々と作れるぞー!



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