38話 コカトリス

アスナが敵を引き付けている間に、木の陰に隠れながら移動する。


そして、数分後……敵の姿が見えてきた。


それはでかい鶏だった。


体長三メートルを超える太った黒い体。


ただ、その鶏には蛇の尻尾が生えていた。


「あれは……コカトリスですか。厄介な魔獣が出ましたか」


「コカトリス?」


「出会ったことはないですが、冒険者ランクで言えばB級に価する魔獣です。冒険者の方に聞いたのは、その尻尾は口から毒を吐くこと。それを切れば、毒は出ないとか。あとは強靭な爪と、火のブレスに気をつけてだったかと。そして、蛇と鶏の頭は別になっており、同時に切らないと面倒になると」


「なるほど……面倒とは?」


「簡単に言えば暴れまわるそうですね」


「じゃあ、同時に攻撃した方がいいってことか」


そういや、前世でも首を切った鶏が駆けずり回るとかあったね。

さて、まずは敵に近づかないといけない。

なら、火のブレスは俺が対処すればいいかな。


「ふんふん、なるほど……ていうか、鳥なら卵は?」


「もしかしたら、近くにあるかもしれないですね。元々気性の荒い魔獣ですが、こうも暴れてるのは変ですし」


「倒したほうがいい魔獣?」


「ええ、そうです。草木を腐らせ、周辺の果物や野菜を駄目にしますし。魔獣なんかも住み着かなくなってしまいます」


「じゃあ、倒す一択だね。アーク、ずっと黙ってるけど平気?」


近くの木に隠れているアークを見ると……震えていた。

小刻みに震え、今にもその手から槍が落ちそうだ。


「も、もしかして毒が!?」


「ち、違う……俺は蛇が苦手なんだ。以前、噛まれたことがあってな……それ以来、見ると症状が出ちまう」


「……ほっ、それなら良かった。ただ、動けない感じ?」


「あのうねうねした感じが駄目だ……くそっ、嫌な予感が的中したぜ」


「じゃあ、アークはなしでやりますか」


「ですね。では、我々もいきましょう」


「すまん! 俺は引き寄せられた雑魚共を始末してくる!」


クオンを先頭にして、俺が後に続く。

すると、アスナが俺達に気づいた。

同時にコカトリスも気づき、俺達を警戒してか一度立ち止まる。

その間に、アスナの横に立つ。


「遅いわよ! ……アークは……あぁ、あれだったわね」


「ごめんごめん。うん、アークはダメみたい。アスナは知ってたんだ?」


「いや、イタズラで私が蛇を捕まえて追っかけたことがあって……それもあるみたい」


「はは……それは仕方ないね」


その姿がありありと浮かんでくる。

きっと、叫びながら逃げていただろう。


「もちろん、きちんと謝ったわよ? それで、作戦はどうするの?」


「両方の頭を同時に斬るよ。んで、尻尾はクオンに任せる」


「そうね。尻尾の方が太いし、私の一撃で切れる保証はないわ」


「そのために俺とアスナで敵を引きつけるよ。クオン、先に行って」


「ええ、お二人もお気をつけて」


クオンが動き出すと、それに合わせてコカトリスがゆっくりと動き出す。


「……ふふ、いいじゃない。クレスと二人でなんて初めてだわ」


「それはそうだね。毒や火のブレスは俺に任せて。アスナは攻撃を仕掛けて、相手の意識をこちらに向けて」


「わかったわ! さあ——いくわよ!」


「クカー!」


アスナが動くと、コカトリスの口から火が吐き出される。

クオンの方には蛇が回り、毒を吐き出していた。

はやいところ、動きを止めたいね。


「させないよ——アクアバレット!」


「コケッ!?」


「続いてフリーズランサー!」


水の魔法で炎を相殺し、氷の槍で相手を動かす。

その隙にアスナがコカトリスに接近する。


「クレス、よくやったわ——セァ!」


「クカッ!」


「甘いわっ!」


前足の両爪と、アスナの双剣が交わる。

迫り来る両前足の爪を、双剣で華麗に受け流している。

本来、アスナの剣は守りの剣とか言ってたっけ。

その性格には似ても似つかないけど、才能と性格は別ってことかも。


「クケェェェェ!」


「火が来るわ!」


「させない! アクアバレット!」


アスナに向けた火の玉を、発射直前に相殺する!

こいつ、攻撃しながらでも火を吐けるのか。

しかも、相変わらず尻尾もクオンを追っかけ回しているし。

アレを止めるには、威力のある魔法を使わないと。


「クレス! 流石に保たないわ! 今のうちに!」


「うん、わかってる。水の圧力よ、敵を押しつぶせ——アクアプレッシャー!」


「ゴガガッ!?」


コカトリスの上空から、直径二メートルくらいの水の塊が落下する。

それにより、相手の動きが一瞬止まる。

そして、二人には……その一瞬があればいい。


「クオン!」


「ええっ!」


「「ハァァァァ——!!」」


「クケェェェェ!?」


クオンの大剣が蛇の尻尾を、アスナの双剣がコカトリスの喉元を切り裂く。

それにより、コカトリスが地に伏せる。

そして……ビクビクした後、動かなくなった。


「クオン! さすがねっ!」


「ええ、アスナ様こそ。ですが、これも主人殿のおかげです」


「ふふ、それもそうね。中々いいタイミングだったわよ?」


「ほんと? それなら良かった。戦闘に関しては素人だから、邪魔だけはしないようにって思ったんだけど」


「いえいえ、これ以上ないタイミングでしたよ」


「そうね。何より、あの威力は心強いわ」


二人がハイタッチをしている。


……あんまり、褒められ慣れてないのでどうしていいのかわからない。


俺は頭をぽりぽりと掻き、照れを誤魔化すのだった。

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