36話 視察

いよいよ、ドワーフさんがお風呂を本格的に作り始めた。


数日後、俺は視察を兼ねて、その様子を確認しに行く。


ちなみに設置場所は、中央の噴水広場に近い場所の空き地にした。


出店とか出したいので、温泉なんかあれば終わった後、お土産買ったり何か食べたりできるように。


「おおー、進んでるね!」


「ええ、そうですね。建物の外側だけですが、流石はドワーフ族といったところかと」


俺の拙いイメージだけで、ガルフさんが設計図を立ててくれた。

もちろん、イメージは日本の温泉だ。

平屋の建物で、敷地面積が広いタイプ。

ちなみに中に入る前から、男湯と女湯で分かれるタイプだ。


「むっ、クレスか。流石に、まだできてはおらんぞ?」


「はは、それくらいはわかりますって。むしろ、早くてびっくりしてるくらいですよ」


「わしらドワーフにかかれば、こんなもんじゃわい」


「何を偉そうに。都市の皆さんが手伝ってくれてるからでしょ?」


「わ、わかっとるわい! いちいち、うるさい女だ」


建物の中から出てきたミルラさんが、ガルフさんの頭をはたく。

相変わらず、尻に敷かれているみたいだ。


「こんにちは、ミルラさん」


「領主様、こんにちは。すみませんね、気難しい人で」


「いえいえ、楽しいですよ。それより、女性陣は生活で何か困ったことはありませんか? 暑さとか、お仕事とか」


どうやら、ドワーフ族の男性と女性では仕事が違うらしい。

男性は主に鍛治や工事、女性は織物や雑貨などを作ることに特化してるとか。

まあ、人族でも力仕事は男だし、そういうものかもしれない。


「困ったことですか……私達は元々暑さにも強いですし、領主様の氷があるので生活面は問題なさそうです。食事や衛生面もありますし、悪くないと思ってます。何より、我々に対する偏見やいじめがないのがいいです」


「それなら良かったです。偏見ですか……無知で申し訳ないのですが、ドワーフ族はどういった偏見を持たれるのですか?」


「そうですね。まずは男性は小さく太い見た目から馬鹿にされたり、女性は幼い姿のままなので……そういう好みの人族に捕らえられたり。それもあって、我々は独立して半鎖国状態になったのです」


確かに、そういう考えをする人もいるかもしれない。

でも、それらを王国では習っていない。

……まあ、自国の不利益になるのを教えないのは前の世界と一緒か。


「す、すみません、話しにくいことを」


「いえ、いいんです。若い方にも知って頂けると嬉しいですし」


「とりあえず、何かあったら言ってください。俺が出来る限り力になるので」


「ふふ、ありがとうございます。ガルフ、いい領主さんね?」


「……ああ、それには同意だ。獣人や我々を見る目に偏見がない。まあ、側近に愛人でもないのに獣人を置いてる時点でわかっているが」


「……愛人? あっ、クオンですか!? 違いますからね!?」


「そ、そ、そうです! 私と主人はそういうアレでは……!」


そうか! そういう目で見られる場合があるのか!

俺にとっては普通でも、知らない人からしたら普通じゃない。

あと……俺とクオンが、昔みたいに子供じゃないのも要因かも。


「だからわかってとると言うとる。しかし、そう見る者もいるということじゃ。少し付き合えば、違うとわかるがのう」


「……そうなんですね」


「まあまあ、そこまで気にすることはないですよ。あっ、話は変わりますがプールというものを作るとか?」


「え、ええ、それもガルフさんに頼んであります」


「それでしたら水着も必要になってきますね」


み、ず、ぎ?……水着!?


「あるのですか!?」


「はい、私達の国は海に面していますので。そこで漁をしたり、遊んだりします」


「おぉー! それを売っていただくことは!?」


「ふふ、領主様も男の子ですもんね。お世話になっているので、こちらでお作りします」


「そんな悪いですよ!」


俺のお小遣いを全部使ってもいいくらいだ!

健全な男の子の夢、それは女の子の水着!


「クレスよ、それならうまい飯を用意するといい。ドワーフ族の女はうまい飯に目がない」


「ちょっと? ……まあ、否定はできないわ。確かに、美味しいご飯は好きです」


「わっかりました! それなら、明日にでも狩りにいってきます! 多分、往復で三日くらいかかりますけど」


ちょうどいいタイミングだ。

俺もストレス発散になるし、森の状態も知っておきたい。


「ありがとうございます。それくらい待つのは平気ですよ」


「よし! クオン! 屋敷に戻って会議だ!」


「………」


「クオン? どうかしたの?」


「い、いえ! なんでも無いのです……なんの話ですか?」


「明日にでも、森に行こうって話。とにかく、一度も戻ろう」


俺はクオンの手を引き、屋敷への道を歩いていく。

するとクオンが、ぎゅっと手を握り返してきた。


「あっ、ごめん、繋いだままだったね」


「い、いえ、このままで……昔を思い出しますね。救って頂いた頃、こうして主人の後をついて回っていました」


「そういや、そうだったね。今とは逆で、俺がいないとクオンが困っていたっけ」


「ふふ、そうですよ」


「いやぁー、懐かしいや。あの頃は、俺も一人ぼっちだったし」


救出されたばかりの頃は、部屋の端っこで蹲っていたのをよく覚えている。

そして、助けた時にいた俺から離れなかった。

俺も幼馴染が自領に帰り、一人でいることが多かったから助かったっけ。


「もう、主人殿の側には沢山の人がいますね……私は邪魔ではないですか?」


「……さっきのことを気にしてるの? だとしたら、気にしなくていい。そんなことを言う奴がいたら、俺がきちんと言うから」


「主人殿……」


「その、あれだよ……クオンには側にいて欲しいし」


「……ふふ、わかりました。それでは、お供しましょう」


「そうそう、勝手にいなくなったら承知しないから」


俺はクオンが逃げないように、強く手を握り返す。


俺たちはそのまま、館まで歩いていくのだった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る