35話 幼馴染は大変

 その翌日、新たなお客さんがやってくる。


 待望のドワーフ族の応援だ。


 新規で十七名来たので、これで合計二十名のドワーフ族が来た。


 これで、少しは作業が捗っていくだろう。


 ただ、驚いたのは……女性のドワーフさんだ。


 たまたま一緒だったアスナと出迎えたのは良いけど……。


「ガルフ! アンタしっかりやってんのかい! 迷惑かけてないでしょうね!?」


「ひぃ!? や、やっとるわい! なっ!? クレスよ!?」


「え、ええ、彼のおかげで我々は助かってますよ」


「ほら見ろ! わしは仕事ができる男じゃ!」


「ほんとですか? それなら良いんですけど……あっ、申し遅れました。私はこれの幼馴染で、ミルラと申します。連れてきた女性五人のまとめ役なので、何かありましたら私にお知らせください」


 あのガルフさんがタジタジである。

 というか、見た目とのギャップがありすぎる。

 口調は肝っ玉母さんなのに、見た目は中学生女子みたいだ。

 容姿も人族に近く、頭から一本のツノが生えているだけだ。

 そのツノが、ドワーフ族女性の証らしい。


「ご、ご丁寧にありがとうございます。俺はクレス-シュバルツ、この都市で領主を務めている者です。以後、よろしくお願いします」


「まあ! 手紙に書いてあった通り、腰の低い方なのね! うんうん、ここでなら良い仕事ができそう……アンタ! しっかりやんなさい!」


「いたっ!? 何すんじゃい!」


 背中を叩かれて、ガルフさんが悶えている。

 何か、その姿に既視感を覚える。

 ふと、隣にいるアスナに目がいく。

 そうか……俺の姿か。


「ふーん。ドワーフの女性って、随分とパワフルなのね」


「そ、そうだね! うんうん、大変そうだ。そういえば、幼馴染とか……はは」


「ちょっと? 何か実感が篭った言い方ね? 私と幼馴染で何が大変なのかしら?」


「ううん! 気のせい気のせい! だから——ジリジリ近寄ってこないでぇぇー!」


「なんで逃げるのよ!?」


「追ってくるからだよ〜!」


 追っかけくるアスナから、必死に逃げ回る……が、当然すぐに捕まり、あーだこーだ言われる羽目に。

 その後、俺とガルフさんの二人でヒソヒソ話をする。


「クレスよ、お主も苦労しとるんじゃな。凶暴な幼馴染を持つと、色々と大変じゃわい」


「いえいえ、ガルフさんこそ……心中をお察しします。小さい頃知ってると、頭が上がんないですよね。こう、一度刷り込まれたものっていうか……」


「うむうむ、その通り。もう力では負けないことは分かっとるんじゃが……どうにも勝てる気がせん」


「「何をコソコソ話してるのかしら?」」


「「いえ! なにも!」」


 二人に同じことを聞かれ、二人で同じ返事をした。


 その後、再びあーだこーだ言われるのだが……俺とガルフさんの絆は深まったとさ。


 同じ苦労幼馴染を分かち合う者として……。


 ◇


 全く、相変わらずなんだから。


 こっちにきてからも、クレスはのらりくらりしているわ。


 確かに魔法は使えるみたいだし、グータラはしてないけど……。


 根っこの部分は変わってないみたい。


「お姉様、ダメですよ?」


「な、なにが?」


「クレス様に対してですの。せっかく、お父様の反対を押し切ってきたんですから」


「わ、わかってるわよ」


 今回、こちらにくることで揉めに揉めた。

 年頃の娘、ましてや公爵令嬢である私達が行くことに。

 最終的にはレナがお父様を説得というか……お父様が泣きそうになってたけど。

 あとは、王弟であるオルランドさんの力が大きかった。

 自分が行くつもりだったから、代わりに行ってくれって。


「いいえ、わかっておりませんの。戦いに出るのもお役に立つのでいいですが、クレス様との時間を作らないと。クオンさんっていう、強力なライバルがいるのですから」


「で、でも、どうしたらいいの? 私、あいつに怖がられてるし……」


「それはお姉様がすぐに怒るからですの。もっとお淑やかにしたり……お料理とか裁縫とか」


「うっ……私の一番苦手な言葉ね。お母様からも、散々言われてきたけど」


 私は幼い頃から、女の子がするようなことが苦手だった。

 辛うじてダンスはできたけど、それ以外はからっきし。

 それよりも剣とか体術、乗馬とかのが楽しかった。

 クレスを引っ張って、よく遊んでたっけ。


「今のは極論ですの。お姉様には、お姉様の良さがありますから。要は、クレス様に女の子として意識して貰えばいいのです」


「……そ、そういえばね、森に探索に行った時に水浴びをして……クレスが私のことを見てたの……多分、そういう意味で。も、もしかしたら、私の気のせいかもしれないけど」


「まあ! まあまあ! そんな楽しそうなイベントがありましたの!? むぅ……私も無理を言っていけば良かったです」


「それは流石に無理よ。お父様に、そこだけは約束させられたし。それこそ、オルランド様とかいれば話は別だけど」


 最強の騎士でもあるオルランド様が護衛につくといえば、お父様も反対はできないだろう。

 まあ、彼の方が来れるとは思わないけど……クレスのことを可愛がってたからわからないわね。


「はい、それは守るつもりですの。なるほど、クレス様はお姉様の身体でも意識すると……」


「レナ……言い方に何か含みを感じるんだけど?」


「い、いえいえ! お姉様の身体は綺麗ですの!」


「むぅ……どうせ、レナと大して変わらないわよ」


 これでも、大分ましになったんだけど……色々と鍛錬もしてるし。

 ただ、どう頑張ってもクオンみたいにはなれない。


「はは……でも、それなら色仕掛けですの」


「い、色仕掛け!? む、む、無理よっ! 夜這いなんて!」


「何も夜這いなんて言ってませんの。そうですわね……そういえば、ドワーフの方がお風呂を作ってくれるとか。もしかしたら、その時がチャンスかもしれないです」


「お風呂……一緒に入るのは嫌よ?」


「嫁入り前の娘ですから、それは当然ですの。責任を取ってもらうという手もありますが……シンプルにいきましょう」


 そしてレナと打ち合わせをして、お風呂が出来たら決行することに。


……が、頑張らないと!

 








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