34話 エルフと自然

ガルフさんが来てから、一週間が過ぎ……。


俺達も準備に追われ、忙しなく動いていた。


特に木は大量に必要ということで、アスナとアークを中心とした探索チームが魔物を倒しつつ、他の人々で伐採する作業を行っている。


レナちゃんはお金の面や調整役などをしてくれ、相変わらず助かっている。


そして、俺はダラダラと……できてない!


領主専用の部屋で、書類仕事に追われていた。


これなら、探索している方が良いし……ダンジョンとか見つからないかなぁ。


「主人殿、手を動かしてください。はい、こちらが次の書類ですね」


「ぬぉー! めんどい!」


「いや、これでも大分マシですから。マイルさんに謝ってください」


「いえいえ、本当なら私が全部見て判子を押せれば良いのですが……領主権限はクレス殿下に移行しているので、最後の確認は必要なのです」


「ううん、こっちこそ愚痴を言ってごめんなさい……よーし、頑張りますか!」


そもそも、レナちゃんとマイルさんがいなければ、仕事量はこの比でない。

俺の仕事は要点をまとめた内容を確認して、判子を押すだけの仕事だ。

それくらいは、しっかりやらないとだ……その中で、とあることに気づく。


「ん? ……領内の魔石は大分行き渡った感じかな? 暑くて大変とか、氷をお願いしますとかいう陳情が減ってきてるね」


「ええ、そうみたいですね。ただ魔石の容量が少ないので、それもすぐになくなるでしょう。なので、効率的に涼しくなる方法が必要です」


「そうなると、やっぱり風通しのいい家作りか。あとはクーラー……そうなると、風魔法も必要になってくるか。部屋全体に、俺の氷を広げるために」


「風魔法ですか……風魔法を使えるような人族は、この辺境には来ないでしょうし難しいですね。クーラーとやらや、プールができれば別ですが……」


「まあ、卵が先か鶏が先かって話になっちゃうもんね」


今はレナちゃんが火属性魔法を使えるから助かってる。

土魔法はドワーフ族が、氷や水魔法は俺が。

光と闇は別として、残りの風が足りてない。

無論、風の魔石を購入すればいいけど……輸送代も含めて高くつく。


「あの……少し良いですか?」


「マイルさん、どうしたの?」


「いや、実は……この地には、エルフがいるという噂がありまして」


「エルフ……」


エルフ、それはこの大陸においてはほぼ伝説上の存在。

姿が大して変わらないまま千年を生き、天地を揺るがす風魔法を操り、妖精のように整った姿をしているとか。

ただ、百年も人前に現れていないらしい。

なので絶滅したとか、別の大陸に行ったのか言われている。


「なんでも、探索している森の奥深くにいるとか。まあ、あくまでも噂なので……」


「なるほど……一応、心に留めておくね」


「では、そちらは先送りということで」


すると、ドアが開いてガルフさんが入ってくる。


「やあ、ガルフさん、どうかした?」


「うむ、ひとまず報告に来た……ラガーの発酵が成功だ」


「おおっ! やりましたねっ!」


「これも文献と、お主の氷魔法のおかげじゃ……感謝する!」


その目からは涙が滲み、身体が小刻みに震えている。

それくらい、彼らにとっては念願のものなのだろう。


「いえいえ、俺は魔法を使っただけですから。それに、問題はこれからでしょう?」


「う、うむ……あとは一ヶ月ほどかけて熟成を待つ。それより、何やらクソエルフの話をしてたか?」


「クソエルフ……仲が悪いので?」


「彼奴らは自然を愛する者じゃからな。開拓や開発を生業とするワシらとはそりが合わん。無論、彼奴らの言いたいこともわかるが……どうにも性格がネチネチしとるらしい。といっても、ワシも百十歳になる祖父からの又聞きじゃが」


……そうか、ドワーフの寿命は人族の倍くらいあるんだ。

祖父の代なら、まだ生きた証人がいるってことか。


「確かに自然を破壊するのは問題だよね。今、俺たちもやってるけど……その辺の対策はどうしよう?」


「その辺りは心配せんでも良い。森を見てきたが、長年にわたり放置されすぎじゃ。あれでは逆に木々の成長を阻んでおる」


「あっ、そういえば聞いたことあるね。じゃあ、俺達がやる分くらいは平気かな?」


「うむ、そのはず。あとはきちんと苗木を植えることじゃな。この先、百年後の子孫たちに」


「うん、わかった。それじゃ、その手配もやっておこうか」


すると、ガルフさんが渋い顔をする。


「どうかしました?」


「いや、お主は変わった人族じゃな。よそ者のわしの話をしっかり聞くし、下の者達にも優しい。何より、自然に対する未来の話をすんなり受け入れておる」


「もうガルフさんは、友達だからよそ者じゃないよ。それに、俺は普通だし……まあ、自然に関することは変かもね」


「……友達か! くははっ! そいつは良い! では、友のために風呂を作ってくるとしよう。熟成期間はすることが少ないからのう」


そう言い、ご機嫌で部屋から出て行く。


「主人殿は、本当に不思議な方ですね」


「そうかな?」


「あの気難しいと言われるドワーフと、あっという間に仲良くなってしまいましたし。あの自然に対する考え方が良かったのかもしれませんね」


「……まあ、それならそれで良かったかな」


自分の手柄ではないので、少し気まずかったり。


何故なら……前世でもそういう自然破壊問題はあった。


その問題は、当時の俺たち世代に直撃をしていたし。


もちろん、俺は好き勝手にやるつもりではある。


ただ、その負の遺産をこの先に生きる人達に押し付けるのは違うよね。





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