三章

30話 襲来

どうにか目欲しい魔石を見つけてから一週間後、俺たちの元に待望の知らせが届く。


マイルさんが、慌てて部屋にやってきて知らせてくれた。


そう、ドワーフ族からの手紙である。


「こ、こちらになります!」


「うん、ありがとう。さてさて、なんで書いてあるかなー」


「そんなお気楽な! ドワーフ族が人族に手紙を出すことさえ珍しいのですよ!?」


「まあ、そうみたいだね。交易こそしてるけど、実質的には鎖国みたいなものだし」


彼らは竹を割ったような性格らしく、嘘や醜い争いを嫌うとか。

そりゃ、人族が嫌いになるのは無理もない。

というより、貴族が嫌いみたいだ。


「これで主人殿が嘘をついていたら大変ですね」


「せ、戦争になりますよ! 嘘をついた上に、それが彼らの命とも言えるビールだとしたら……あぁ! もう終わりだっ!」


「マ、マイルさん、落ち着いて。大丈夫、俺は彼らの望みを叶えられる……はず」


「はずって……私は若い頃に彼らに会ったことがあるのです。その時はビールが無くて乱闘が起きておりました」


なんか、そう言われると不安になってきた。

俺の氷魔法でラガーができなかったらどうしよう?

……殺されたりしないよね?


「なるほど、それは相当ですね。その時は、私が主人殿を守りましょう」


「ま、まあ、まだ来るまでは時間があるだろうし」


「そ、そうですな、まだ時間が……」


その時、大きな音を立てて扉が開かれる!

そこには汗だくのアスナがいた。


「クレス〜! 大変よっ!」


「アスナ! どうしたの!?」


「ドワーフの奴らがきたわっ!」


「……はい? いや、今さっき手紙が届いたばかりで」


「いいから! 早く領主に合わせろって大変なのよ! 今はアークとタイガさんが止めてるけど……このままだと、暴動が起きるわ」


「いや、だから何でこんなに早く……うわっ!?」


混乱していると、クオンが俺をお姫様抱っこする……やだ、きゅんとしちゃう。

そんなことを思っていると、窓から身を乗り出す。


「ちょっ? クオンさん? ここ二階……」


「主人よ、舌を噛まないように——飛びます!」


「うひゃァァァ!?」


ジェットコースターが天辺から起きるような感覚——ちんさむに襲われる!

きっと男の子ならわかるよね!?

そのまま、綺麗に着地をする。


「平気ですか?」


「う、うん、なんとか」


「では、このままいきます」


抱えたまま走りだし、館を出て門へと向かう。

……どうでもいいけど、おっぱいが当たって大変です!

野次馬が騒ぐ中、門の近くに到着すると……三人のドワーフ達がいた。


「はよせんか! ここにラガーの秘密を知る者が!」


「ワシら念願のラガーの希望がここに!」


「ええい! 落ち着けというのに!」


「ったく! ドワーフってのはこれだから! 相変わらず話を聞かないぜ!」


何やら門の前に殺気立った男達——もとい、髭を生やした強面のおっさん達がいる。

身長160程度のずんぐりむっくりした体型、あれはまさしくドワーフ族だ。

その彼らを、衛兵と一緒に二人がどうにか抑え込んでいる。


「えっ? 今からあそこにいくの? クオン、どうして下ろすの?」


「ええ、そうですよ。 いえ、ここからは一人で行ってくださいね」


「見捨てられた!? ……帰っちゃだめ?」


「ダメに決まってます。というか、何もいく必要はないかと。主人には、彼らを冷静にさせる方法があるじゃないですか」


「ん? どういうこと?」


「彼らが何を求めてやってきたと思ってます?」


「ああ……確かに、俺にしかできないね。んじゃ、いっそのこと派手にいきますか」


俺は意識を集中し、魔力を最大限に高める。

イメージするは白の世界、攻撃性は皆無、ただただ美しさを。


「みんなー! 上を見てねー! 白き氷よ、天より来たれ——スノーフォール」


「これは……綺麗ですね。いつもの氷とは違い、白くてふわふわしてます」


「でしょ? これは雪っていうんだ。 また氷とは少し違うけど」


夏空の下、空から雪が降り積もっていく。

それは、都市全体を覆うほどだった。

魔力をかなり使ったけど、効果は絶大だったらしい。


「これはなんじゃ……冷たいぞ!」


「これが伝説の氷か!」


「手紙に書いてあったことはまことだったのか!」


ドワーフ達が天を見上げながら、涙を流している。

……泣くほどのことなのかな?

とにかく、今のうちに二人に近づくことにする。


「二人共、お疲れ様」


「ふぅ、助かったぜ」


「全く、この俺が力負けしそうになるとは……ドワーフとは恐ろしいな」


「とりあえず、俺が話をしてくるよ……怖いけど」


「んじゃ、俺は館に知らせてくるわ。とりあえず、落ち着いたって」


「うん、お願い」


クオンとタイガさんをお供にし、彼らに近づいていく。

すると、俺に気づいた一人がやってくる。


「も、もしや、お主がこの現象を起こした者か?」


「はい、そうです。俺の名前はクレスと申し——あぎゃぁぁぁ!?」


「うおぉぉ! 皆の者! ここに我らの救世主が現れた!」


イタタタ!? 抱きしめる力つよっ!

人が珍しく真面目に話してたっていうのに!


「「「ウォォォォォォ!」」」


「わ、わかりましたから! とりあえず離してぇぇ!」


俺が雪を出した意味ないじゃん!

というか、救世主殺されそうになってるけど!?

……その後、クオンによりどうにか救出される。


「いや、すまんのう……つい、嬉しくて」


「イタタ……まあ、いいです。ところで、五人いますけど貴方が代表ですか?」


「うむ、ドワーフの王より遣わされたガルフという者じゃ。よろしく頼む、救世主殿」


差し出された手を取り、握手を躱す。


想定外だったけど、早めに来る分には問題ない。


あとは、俺が彼らを納得させるものを用意すればいい。


……できなかったらどうしよう?





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