外伝~アーク~
やれやれ、親友は相変わらずか。
いつも通り、王子とは思えない行動や言動をしている。
他の貴族達には煙たがられるが、俺は個人的に好きだったりするが。
だから、兄貴が結婚したのを言い訳にして、ここにやってきたが……正解だったな。
そのために俺は父上に会いに行き、直談判をしてきたのだから。
「父上、俺はクレス殿下の元に行きます」
「なに? 追放されたクレス殿下か……ふん、相変わらずあの王子とつるんでいるのか」
「ええ、気のいい方ですから。俺にとっては無二の親友であり、俺が仕えたいと思う方です」
「所詮、何もない第二王子だ。何をそこまで執着するのかわからんが……」
「あいつには人を惹きつける何かがあるんですよ。そして、それは周りを明るくする。俺はあいつが何をするか見てみたい。そして、自分が何をするかを考える時間が欲しい」
「……まあ、いいだろう。エバートも結婚したし、お前もある意味で自由だ。あとは好きにするがいい。ただし、うちには迷惑をかけるな」
「ええ、分かってます。それでは、俺は準備がありますので……兄上にもよろしくお伝えください」
こうして、俺はここにやってきたってわけだ。
うざったいお目付役もいないし、こうして自由に過ごせる。
これも、クレスが作り出す雰囲気のおかげたろうな。
思えば、昔から変なやつだった。
◇
……つまんねえな。
どいつもこいつもおべっかを使うか、自分の家の自慢ばかり。
そんなのは先祖が偉いわけであって、お前達が偉いわけじゃないんだよ。
そんな会話が嫌で、中庭のベンチで一人で座っていると……。
「ねえねえ、君も一人?」
「誰だ……これはクレス殿下!」
そこには我が国の第二王子であるクレス殿下がいた。
父上からそこまで敬意は払わなくて良いと言われたが、そういうわけにはいかないだろ。
「そんなに固くならないで良いよ。所詮、僕は兄さんの代用品だからさ」
「い、いえ……」
「あっ、ごめんね、気を遣わせて。君は確か、カラドボルグ家の人?」
「はい、カラドボルグ家次男のアークと申します。年齢は七歳です」
「そっか、僕はクレス-シュバルツって言うんだ。じゃあ、同い年だね」
「……そんなことはみんな知ってますよ」
「あははっ! それはそうだよね!」
その柔らかい雰囲気に、こっちも少し安心する。
どうやら、身分を振りかざすような人ではないらしい。
「それで、どうしたので?」
「いや、僕がいくとみんな逃げちゃうか困るみたいなんだ。そしたら、君が一人でいたから……友達になってくれないかなって」
「……俺でよろしければ」
「ほんと!? やったぁ! ありがとう! 男の子の友達は初めてだよ!」
よくわからないけど、気がつくと返事をしていた。
俺も同じ立場だったし、気の合う友達が欲しかったから。
◇
……あれから色々あったな。
一緒に城下町に抜け出したり、城の中で探検やかくれんぼした。
そんでもって、周りの大人達に怒られたっけ。
王子としての自覚やら侯爵家がどうたら……めんどい。
それが終わったあと、二人で笑いあった。
どうせ、俺たちはスペアなのだからと。
俺達の心配をしているわけではなく、スペアの心配をしているのだと。
無論、今ではそれだけでないことはわかってるつもりだ。
それでも、あの時の俺がクレスの明るさに救われたことは間違いない。
もしかしたら……俺が原因でお家騒動に発展していた可能性もある。
なにせ、聞いてはいないが父上は迷っていただろうから。
「アーク! みんなでワイワイすると楽しいね!」
「ああ、そうだな。クレス、お前には感謝してるよ」
「どうしたの? 急に改まって……」
「いや、言いたくなったんだよ」
「ふーん、へんなアーク……でも、それは俺のセリフかな。寂しかったから君がきてくれて嬉しい」
「あぁー……そうかい」
ほらこれだ、照れもなく言いやがる。
親しい奴には見せる、この王族とは思えない邪気のない表情。
それが、人々に安心を与えることを本人は自覚してない。
まさか、俺がクレスに仕えたいなどと思ってるとは……夢にも思っていまい。
無論、それをいうつもりは一生ないが。
俺の人生に意味などないと思っていたが、ここでクレスが何をするのか見届けよう。
そして、俺にできることで力になれればなと思う。
「ひとまずは、これをどうするかだよなぁ」
「クレス! これ美味しいわ!」
「主人殿、おかわりが欲しいです」
「わわっ!? 待って! どうして俺がよそうの!? というか、二人共近いし!」
クレスに構って欲しい二人が、火花を散らしている。
もちろん、本人は気づいていない。
生まれか育ちかわからんが、自分を低く見る癖がある。
まあ、王都で見るようなドロドロでないのが救いか。
「くく、みてる分には面白いな」
「アーク! 何を笑ってんのさ!」
「いやぁ、なに……お前の力になりたいが、それに関しては無理そうだ」
「どういうことぉぉ!?」
「クレス!」
「主人殿」
「あぁ! もう! わかったよ!」
さてさて、これもどうなるか見ものだ。
そして、クレスがこの地で何を成すのか……それが今の、俺の一番の楽しみだ。
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