外伝~アーク~

やれやれ、親友は相変わらずか。


いつも通り、王子とは思えない行動や言動をしている。


他の貴族達には煙たがられるが、俺は個人的に好きだったりするが。


だから、兄貴が結婚したのを言い訳にして、ここにやってきたが……正解だったな。


そのために俺は父上に会いに行き、直談判をしてきたのだから。


「父上、俺はクレス殿下の元に行きます」


「なに? 追放されたクレス殿下か……ふん、相変わらずあの王子とつるんでいるのか」


「ええ、気のいい方ですから。俺にとっては無二の親友であり、俺が仕えたいと思う方です」


「所詮、何もない第二王子だ。何をそこまで執着するのかわからんが……」


「あいつには人を惹きつける何かがあるんですよ。そして、それは周りを明るくする。俺はあいつが何をするか見てみたい。そして、自分が何をするかを考える時間が欲しい」


「……まあ、いいだろう。エバートも結婚したし、お前もある意味で自由だ。あとは好きにするがいい。ただし、うちには迷惑をかけるな」


「ええ、分かってます。それでは、俺は準備がありますので……兄上にもよろしくお伝えください」


こうして、俺はここにやってきたってわけだ。


うざったいお目付役もいないし、こうして自由に過ごせる。


これも、クレスが作り出す雰囲気のおかげたろうな。


思えば、昔から変なやつだった。



……つまんねえな。


どいつもこいつもおべっかを使うか、自分の家の自慢ばかり。


そんなのは先祖が偉いわけであって、お前達が偉いわけじゃないんだよ。


そんな会話が嫌で、中庭のベンチで一人で座っていると……。


「ねえねえ、君も一人?」


「誰だ……これはクレス殿下!」


そこには我が国の第二王子であるクレス殿下がいた。

父上からそこまで敬意は払わなくて良いと言われたが、そういうわけにはいかないだろ。


「そんなに固くならないで良いよ。所詮、僕は兄さんの代用品だからさ」


「い、いえ……」


「あっ、ごめんね、気を遣わせて。君は確か、カラドボルグ家の人?」


「はい、カラドボルグ家次男のアークと申します。年齢は七歳です」


「そっか、僕はクレス-シュバルツって言うんだ。じゃあ、同い年だね」


「……そんなことはみんな知ってますよ」


「あははっ! それはそうだよね!」


その柔らかい雰囲気に、こっちも少し安心する。

どうやら、身分を振りかざすような人ではないらしい。


「それで、どうしたので?」


「いや、僕がいくとみんな逃げちゃうか困るみたいなんだ。そしたら、君が一人でいたから……友達になってくれないかなって」


「……俺でよろしければ」


「ほんと!? やったぁ! ありがとう! 男の子の友達は初めてだよ!」


よくわからないけど、気がつくと返事をしていた。


俺も同じ立場だったし、気の合う友達が欲しかったから。



……あれから色々あったな。


一緒に城下町に抜け出したり、城の中で探検やかくれんぼした。


そんでもって、周りの大人達に怒られたっけ。


王子としての自覚やら侯爵家がどうたら……めんどい。


それが終わったあと、二人で笑いあった。


どうせ、俺たちはスペアなのだからと。


俺達の心配をしているわけではなく、スペアの心配をしているのだと。


無論、今ではそれだけでないことはわかってるつもりだ。


それでも、あの時の俺がクレスの明るさに救われたことは間違いない。


もしかしたら……俺が原因でお家騒動に発展していた可能性もある。


なにせ、聞いてはいないが父上は迷っていただろうから。


「アーク! みんなでワイワイすると楽しいね!」


「ああ、そうだな。クレス、お前には感謝してるよ」


「どうしたの? 急に改まって……」


「いや、言いたくなったんだよ」


「ふーん、へんなアーク……でも、それは俺のセリフかな。寂しかったから君がきてくれて嬉しい」


「あぁー……そうかい」


ほらこれだ、照れもなく言いやがる。


親しい奴には見せる、この王族とは思えない邪気のない表情。


それが、人々に安心を与えることを本人は自覚してない。


まさか、俺がクレスに仕えたいなどと思ってるとは……夢にも思っていまい。


無論、それをいうつもりは一生ないが。


俺の人生に意味などないと思っていたが、ここでクレスが何をするのか見届けよう。


そして、俺にできることで力になれればなと思う。


「ひとまずは、これをどうするかだよなぁ」


「クレス! これ美味しいわ!」


「主人殿、おかわりが欲しいです」


「わわっ!? 待って! どうして俺がよそうの!? というか、二人共近いし!」


クレスに構って欲しい二人が、火花を散らしている。

もちろん、本人は気づいていない。

生まれか育ちかわからんが、自分を低く見る癖がある。

まあ、王都で見るようなドロドロでないのが救いか。


「くく、みてる分には面白いな」


「アーク! 何を笑ってんのさ!」


「いやぁ、なに……お前の力になりたいが、それに関しては無理そうだ」


「どういうことぉぉ!?」


「クレス!」


「主人殿」


「あぁ! もう! わかったよ!」


さてさて、これもどうなるか見ものだ。


そして、クレスがこの地で何を成すのか……それが今の、俺の一番の楽しみだ。










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