27話 わちゃわちゃ

 ……暑いや。


 暑さで目が覚め、起き上がる。


 隣には、アークが暑そうに寝ていた。


「流石に俺の氷も一晩はもたないね」


 テントの端に氷を再び置いて、アークを起こさないようにテントから出る。

 日は出ていないが、すでに外は明るくなっていた。

 すると、焚き火の前にアスナとクオンがいるのを発見する。


「あれ? アスナ? クオンはともかく、随分と早起きだね」


「そういう主人殿こそ珍しいですね」


「ほんとよ、いつもお寝坊さんだったのはアンタもじゃない」


「はは、それもそっか。いや、流石に暑くてね」


「私もよ。別に探索が嫌ってわけじゃないけど、水浴びもできないのはきついわね」


「それには同意だねー」


 森の中なので昨日は水浴びもしてないし、身体がベタベタする。

 ……そっか、自分でやれば良いのか。

 それに気づいた俺は、服を脱ぎ始める。


「主人殿? 何を服を脱いでいるのです?」


「ちょっ!? 何をやってるのよ!?」


「大丈夫大丈夫、下は脱がないから」


「当たり前じゃない! う、上だってダメよ!」


「そうなの? それなら、後ろ向いてればいいじゃん」


 何故か、ずっとこっちを見ている。

 俺の裸なんかヒョロイし、見ても面白くないと思うけど。

 クオンとかはもう慣れちゃってるからどうってことないし。


「べ、別に……私は負けないわ!」


「えっと? ……何かの勝負だったの?」


「そ、そんなことよりずるい! 私だって水浴びしたい!」


「いや、流石に女の子が裸になっちゃまずいよ」


「むぅ……この辺に川とか湖ないかしら?」


「いや、魔物や魔獣がいて危険だし」


 この世界にプールや泳ぐという概念が少ないのは、それが一番の理由だと思う。

 なにせ、ヌマコダイルのような魔獣がいるわけだし。

 もっと強くて凶暴な奴だっているだろうし。


「それなら、私に良い考えがあります。確か、着替えを持ってきていたはず」


「あっ! 使ってないやつあったわ! それに着替えて私達も浴びるわよ!」


「ええ、私だって水浴びしたいですし。主人殿は、先にやってていいですから」


「はーい。その間、見張りは……」


「俺達に任せてゆっくりするといい」


「タイガさん! ありがとう!」


 その言葉に甘え、まずは自分の頭の上から滝のように水を流す。

 冷たい水が眠気を覚まし、ベタベタした身体がスッキリする。

 そう、つい往年のセリフが出てしまうくらいに!

 これが分かったら、貴方は多分昭和生まれ?です!


「かぁー! 超気持ちいい!」


「あっ! ずりぃ! 俺も入れろって!」


「わわっ!? ちょっと危ないって!」


「いいだろ! 俺だって暑いんだよ!」


「もう! わかったよ!」


 音で起きたのか、アークがテントから出てきて割り込んでくる。

 結局、並んでシャワーを浴びることに。


「くぅー! 気持ちいいぜ!」


「だよねー! ししし、こうしてやる」


「何を——アババッ!?」


 悪戯心で、アークの部分だけ水の威力をあげる。

 当然、アークは一瞬だけ溺れたような状態になった。


「あははっ!」


「てめー! 何すんだっ!」


「ご、ごめんって!」


「許さん! 下克上じゃぁ!」


 俺とアークが水を浴びながらわちゃわちゃしていると……テントから二人が出てくる。

 その出で立ちは、薄手のTシャツと短パンというものだった。

 二人とも、タイプの違う健康的な曲線美が素晴らしい。


「私も混ぜなさいよ!」


「私もですよ。主人殿、シャワーの範囲を広げてください」


「う、うん」


 ちょっとドギマギしつつも、四人が入れる横長のシャワーを作る。


「っ〜!! 気持ちいいわ……!」


「ふふ、良いですね。まあ、服を着ている分爽快感は薄いですが」


「それは仕方ないじゃない。流石に、ここで裸は無理よ」


「冒険者の仕事中に聞いたのですが……ドワーフの国では海に面しているからか大らかな性格からか、泳ぐための水着というものがあるみたいですよ? ほとんど、裸に近いとか」


「あっ、聞いたことあるわ。あれってほんとなの? 人前で素肌を晒すなんて……恥ずかしいし」


 俺としたことが……水着があったのか! それは知らなかった!

 でも、良く良く考えたら当然のことだ。

 海が近いし、そういう文化があってもおかしくない。


「……追加で手紙を送らないと……水着姿を見るために」


「何をぶつぶつ言ってるのよ?」


「な、何も言ってないよ!」


「まあ、男子なら普通のことだよ」


「ん? どういうこと?」


「いやぁー……」


 そこでふと、アスナに視線を向ける。

 Tシャツが体に張り付き、体のラインがはっきり出てしまっていた。

 幸い、あの部分はわからないけど……それでも、目に毒である。

 しかも、その向こう側にはナイスバディなクオンさんが。


「っ〜!? ジ、ジロジロ見ないで!」


「ごめんなさい〜! つい見ちゃった!」


「まあまあ、アスナ様。そのためにインナーも着てるのですから。それに、主人殿もお年頃ですし「


「わ、わかってるわよ……でも、クオンみたいにスタイルよくないもん」


「そう? アスナだってスタイルいいけど?」


 身長は高くはないけど、足が細くすらってしている。

 腰あたりも適度に細く、健康的な美しさがあるし。

 ……胸のことには触れちゃいけないのは流石の俺にもわかる。

 それだって、別にないわけじゃないし……おっぱいに貴賎なしってね!


「ほ、ほんと? ……水着とか着たら喜ぶのかな?」


「ん? 水着って言った? 水着が着たいの? あらら、アスナさんってば〜」


「ち、違うわよ! クレスの馬鹿ァァァ!」


「あべしっ!」


 思い切りど突かれ、尻餅をつく。

 その際に、魔法が解けてしまう。


「テテテ……何すんのさ?」


「ふ、ふんっ! クレスが悪いのよ!」


「ええ、間違いないですね」


「こればっかりは庇えねえや」


「……俺がいうのもなんだが、今のはお主が悪い」


「ぐぬぬ……解せぬ」


 結局、俺はアスナに謝ることに。


 ほんと、女の子ってわからん。






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