28話 ほのぼの
その後、獣人の人たちにもシャワー浴びせてあげて……。
朝ごはんに昨日の残りを食べつつ、身体が乾いたら移動を再開する。
そして、お昼過ぎに都市に帰還する。
「ただいまー!」
「クレス殿下! お帰りなさい!」
「ご無事で何よりです!」
「みんなも元気そうで良かった。暑かったでしょ? 氷をまた置いていくね」
人々にお礼を言われつつ、家の前に設置されているバケツに氷の塊を入れていく。
皆はそれを自分の家に入れて、涼を取るという感じだ。
流石に俺が一軒一軒回っていくのは大変だしね。
館に着くと、マイルさんが出迎えてくれた。
「クレス殿下、お帰りなさいませ」
「ただいまー、留守の間に何かあった?」
「いえ、特には何もございません。ただ、クレス殿下が帰ってこないと皆が心配しておりました」
「あっ、そうだよね。俺がいないと氷が無くて暑いし」
一応、たくさん氷は用意しておいたけど、住民全員が満足に使える量はなかったはず。
俺が魔力を注いでいるうちは平気だけど、手から離れるとただの氷だしね。
これは一刻も早くドワーフさんに来て頂かないと……水着見たいし。
「いえいえ、そういうことではありませんよ。皆、氷がなくなることではなくクレス殿下の心配をしていたのです」
「ん? どういうこと?」
「主人殿、つまりは魔法だけなく貴方自身にも価値があるということです」
「……そうなの?」
「ええ、そういうことです。もちろん暑いのは嫌ですが、それ以上にクレス殿下がいなくなるのが嫌みたいですね。私のところにも、まだ帰ってこないのかと住民が尋ねるほどに。クレス殿下の人柄と明るさに、我々は救われていますから」
「そ、そっか……なんか嬉しいや」
王都では自主的にとはいえ、俺は役立たずだった。
でも、ここの人達は俺自身を必要としてくれてるのか。
……やれやれ、これは頑張らないと男が廃るってもんだね。
◇
ご飯を食べて自分の部屋でボケっとしていたら、いつの間か日が暮れ始めていた。
俺は大きく伸びをして、やる気を出そうと頑張る。
チョロいって言われるかもしれないけど、誰かに頼られたり褒められるのは嬉しいし。
「さて、やりますか——宴の準備を」
「良いですね、オニブタもありますし。凍らせてあるとはいえ、早く食べるにこしたことないですし」
「そういうこと。多分、今頃溶けてると思うし」
そのまま厨房に入ると……予想外の人物に出会う。
「レナちゃん?」
「あっ! もきゅもきゅ……ゴクン……こ、これは違うのですわ!」
「うん、何も言ってないけどね」
「あぅぅ……これは、その……」
何やら口に含んでいたレナちゃんが、あたふたと手を動かしている。
うん、相変わらず小動物みたいで可愛いよね。
どうやら、つまみ食いをしていたみたい。
「大丈夫大丈夫、お腹は誰でも空くもんだし」
「ええ、私達もペコペコですから」
「も、もう! お二人ったら! ……みなさんが心配でご飯が食べられなかっただけですの。その、無事に帰ってきてよかったです」
「あっ……そりゃ、そうだよね」
この子にとっては、ここは知らない場所だ。
そんな中、唯一知ってる俺達が危険な森に行ったんだ。
色々な意味で不安になるのは当然じゃないか……しっかりしてるように見えたってまだ十二歳なんだから。
「ごめんね、心配かけちゃって。流石に、レナちゃんを連れてくわけにはいかなかったからさ」
「そうですね、我々の配慮が足りませんでした」
「い、いえ、いいんです。みなさん、帰ってきたので……えへへ」
「「………」」
俺とクオンが、同時にレナちゃんの頭を撫でる。
多分、気持ちは同じ……ええ子やで。
ほんとアスナとは似てないし、あの怖い親父さんの子とは思えない。
「な、なんですの!?」
「ごめんごめん、つい可愛くて」
「ええ、本当に。こんな妹がいたらいいでしょうね」
「……私は二人のこと、お兄さんとかお姉さんって思ってますけど」
「ぐはっ……」
「くっ、これは……」
「ど、どうしたのですか!?」
少女の照れ顔の上目遣いに二人で膝をつく。
くっ、これが妹萌えってやつなのか! 破壊力抜群だっ!
「へ、平気……中々だったね」
「ええ、私としたことが膝をつくとは」
「あんた達、何をやってるのよ?」
「あっ、お姉様!」
振り返ると、アスナが厨房の扉から顔を出していた。
しかも、何やら少しばつが悪そうな表情をしている。
「さっきぶりね、レナ。二人もいるのね……そういえば、安心したらお腹が空いたんだけど……」
「ぷぷっ……」
「ふふ、似た者姉妹ですね」
「もう! お二人とも!」
ここはレナちゃんの名誉のためにも黙っておこう。
似てないようで、姉妹って似てるもんなんだね。
……俺もそうだったりするのかな?
「な、なによ? し、仕方ないじゃない」
「いや、何でもないんだ。そうだね、お腹が減るのは自然だ。さあ、アスナはあっちに行こうか」
「ええ、そうですね。ここは私にお任せください」
「ちょっ!? クオン! 力が強いわよ!」
クオンに引きづられるようにして、アスナが厨房から追い出される。
アブナイアブナイ、アスナが厨房に立つとろくなことにならない。
以前お弁当を作るとか言って、大惨事になったのはよく覚えてる。
……そして、その犠牲者が俺だったことを。
これによって、今日の夕飯の平穏は保たれたのだった。
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