26話 みんなで食事

 雑談をしつつ待っていると、あっという間に時間が過ぎていく。


 こうしてじっくり話すのは、実は結構久しぶりだった。


 尽きない話題に夢中になってるうちに、いつの間にか煮込みが良い状態になっていたらしい。


 野菜も途中でクオンが入れてくれたらしく、すでにクタクタになっていると。


「主人殿、そろそろいいかと」


「あっ、ごめんね。煮込みの番を任せちゃって」


「いえいえ、私は特に何もしてませんから。それに、楽しそうな主人が見れたので。お二人共、私からも感謝いたします」


「別にいいってことよ、俺らだって楽しいし。無論、クオンさんも含めてだから」


「そうよ、貴女だって私達の友達なんだから。そりゃ、最初は酷い態度取っちゃったかもしれないけど……」


「ふふ、そういえばそんなこともありましたね」


 アスナは生粋のお嬢様である公爵令嬢だ。

 差別とまでいかないが、獣人に対して偏見があった。

 でも、クオンと接するうちにそれは無くなったんだよね。


「わ、悪かったわよ。でも、今ではわかってるから平気。それを教えてくれたのもクレスだわ」


「ああ、俺もクオンさんと接してなかったらどうだったかわからん。こいつが連れてきたとき、びっくりしたのは事実だ。使用人ではなく、友達だっていうもんだから」


「俺はそんな大層な意味で言ってなかったよ。ただ、自分が思う通りにしただけだし。ある意味で、一番自分勝手かもね」


「ですが、私はその自分勝手に救われたのです」


「私もよ。私が剣を学ぶことを説得してくれたのはクレスだし」


「俺もだよ。スペアの役目しかなく腐っていた俺に声をかけてくれたからな」


 そうして、俺たちは自然と笑顔になる。

 俺の方がお礼を言いたい。

 孤独だった俺を救ってくれたのは、間違いなく彼らだったから。



 ◇


 準備ができたら、獣人達も呼んでご飯にする。


 やっぱり、ご飯は大勢で食べた方が美味しいし。


「ありがたいが、見張りとかはいいのか? 流石に全員で食べてはまずい気がするが。食事中は、人が最も油断する時だ」


「うん、わかってる。ただ、それに関しては考えてあるよ。今、もう魔力は満タンだし……我らを包み込め——アイスドーム」


「なっ!? くく……こいつは驚いた」


「涼しいわね! ……ただ、どういう魔力してんのよ」


「かぁー! 一気に過ごしやすくなったわ!」


 俺がやったのはテント一帯を、天井に穴を開けた氷のドームで包んだことだ。

 ちょっとやそっとじゃ壊れないので、これで敵が来ても安心だ。


「主人殿、魔力は平気ですか?」


「うん、これくらいならよゆーかな。ほら、みんなで食べよ」


「わかりました。では、よそいます」


 クオンが鍋の蓋をあけると、味噌の香りと辛味のある香りが同時に来て、食欲をそそる。

 それはお腹が空いてたことを思い出させ、一気にお腹が減ってくる。


「おぉ〜!! クオン! はやくはやく!」


「はいはい、わかりましたよ」


「確かに、こいつはやべえな」


「ゴクリ……はっ!?」


「あらら、公爵令嬢ともあろう方が……あっ」


 その時、俺のお腹がクルルーと鳴く。


「何よ、人のこと言えないじゃない。ねっ? 第二王子クレス殿下?」


「ぐぬぬっ……これは、今さっき魔法を使ったからだい」


「そうことにしといてあげるわ」


「はいはい、これで全員にいき渡りましたね」


「よし、では……いただきます」


「「「いただきます」」」


 湯気が立つ器から、スプーンでよそって口に持ってくる。


「はむっ、あつっ……うまっ」


「かぁー、こいつはいいや。肉がほろほろに溶けてるし」


「ふーん、悪くないじゃない。体の芯がホカホカしそうだわ」


「ふふ、ありがとうございます。ふむ……我ながら上出来ですね」


「いや、本当に美味しいよ。お肉も柔らかくて、野菜にはスープ味が染み込んでるし」


 肉の旨味が味噌に溶け込み、奥深い味を出していた。

 そこに辛味が足され、辛味噌風味になっているのもいい。

 歩き疲れた体に染み渡る感じだ。

 夏バテ防止にもいいし、栄養的にもバッチリだ。


「それなら良かったです。タイガ殿達はどうですか? あなた方には暑かったですかね?」


「今のところ問題ない。クレス殿が氷を張ってくれたおかげだ。それに、味も美味い」


「……猫舌?」


「ええ、そうですよ。ネコ科獣人はそうして寒がりで猫舌ですから。そして私たちイヌ科獣人は暑さに強いですね」


「へ、へぇー ……知らなかった。やっぱり、そういうのも大事だね」


 知ってると知らないじゃ行動に差が出るし。

 確かに虎とかは熱帯雨林に住んでるイメージだ。

 犬は雪の中でも平気なイメージ。

 ふんふん、その辺りも考えて環境を作っていかないと。


「確かに獣人を恐れるあまり、知ることも怖がってるわな」


「むっ……アークとやら、それはどういう意味だ? 何故、人族が我らを恐れる?」


「そりゃ、基本的にはあんた達の方が身体能力も高いし強い。魔法や人海戦術で対抗しないと人族は負けるさ。何より、今でこそましだが過去の歴史がある。自分達が報復されるのが怖いんだろうよ」


「そういうことか。我々は我々で、人族が恐ろしい。奴らは魔法や武器を使い、数で我々を圧倒してくる。しかし、それは返せば……我らを恐れているということか」


「まあ、そんな感じだ」


 ……何やら難しい話をしている。

 こういう時は、素直に聞くに限るよね!


「つまりは、どういうこと?」


「別に難しい話じゃないわ。さっきも言ったでしょ? 要は知らないから怖いって。クオンと私達がやったように交流をしていけばいいのよ」


「ええ、そうですね。私もお三方を知って、人族や貴族に対する認識が変わりましたから」


「あぁー、そういうことね。つまり……今の状態ってこと? みんなで、仲良くご飯食べてるもんね」


「くははっ! そういうことだっ! お前達、我々も人族のことを知っていなかった。これからは、少しずつ知っていくとしよう」


 その言葉に、他の獣人達も頷く。

 どうやら、少しは信頼してもらえたみたいだね。

 その後、食べ終わったら休息の時間になる。


「んで、これでどうするんだ? 流石にダンジョンは見つからなかったが、魔石は良いのが手に入ったよな」


「ダンジョンについては、まずは森の地図を作っていこうと思う。それに強い魔物がいる方に行けば、そのうち見つかるかもしれない」


「そっちの方が早そうだな。そのためには人海戦術が必要か。んで、そのためにも武器がいる……ドワーフが必要ってことだ」


「うん、それもあるね。ただ、何より俺はお風呂を作って欲しい!」


 そりゃ、簡易的な土管風呂はとかはある。

 ただ、俺は温泉みたいな感じにしたい。

 そして、風呂上がりに冷たい飲み物やアイスを食べたい。


「そうね、お風呂は欲しいわ。確か、ドワーフの国は温泉で有名だったし。この魔石でドワーフを呼ぶってことよね?」


「うん、正確には氷魔法を込めた魔石だけど。まずは、彼らに氷魔法の凄さを知ってもらう。そのあとで、交渉をする感じかな」


「ふーん、あとはどういうのを作るの?」


「それはプールとか!」


「プール? 何それ?」


 ……そうだった、この国にはなかった。

 そもそも、貴重な水を大量に使うことが難しい。

 お風呂なら必要不可欠な存在だからまだしも、遊ぶためのプールは必要はない。


「おっきな人口の川って感じ。涼んだり、水浴びをしたり、泳いで遊んだり」


「なにそれ!? 良いじゃない!」


「でしょ? 暑いし、きっとみんなが喜ぶと思うんだ」


「それはそうね。ただ、まずは来てくれるかどうかよね」


「ふふふ、きっとくるに決まってるさ」


 彼らはまだ知らない。


 冷えたビールや飲み物の美味しさを。


 こっち来たが最後、帰りたくないと思わせてやります!







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る