25話 皆仲良しが一番

おおー、虎族って強いんだ。


あんな大きな豚の突進を受け止めたりぶん投げたり、攻撃力もあるしめちゃくちゃ前衛向きだね。


かといって、前衛を頼んだら……獣人を盾に使う気かと思われたら嫌だし。


「うーん、どうしようかなぁ」


「主人殿、どうしました?」


「いや、何でもない。とりあえず、それはどうしよう?」


「俺が担いで行くから平気だ。鈍った体に、いい鍛錬になる」


「それじゃ、お願いするね。できれば、人族にも分けて欲しいけど……いいかな?」


これは彼が自力で狩った獲物だ。

それをどうするかは、彼に権利があると思う。


「よこせとも言わず、分けて欲しいか……ああ、そのつもりだ」


「ほんと!? ありがとう!」


「……ふん、別にお礼を言われる筋合いはない。俺は借りを作ったままは性に合わん」


「借り? 何かあったっけ?」


「わからんならいい。さて……流石に重いな」


持ち上がりはしたが、相当にきつそうだ。

そりゃ、最低でも500〜600キロくらいはありそうだし。


「いやいや、流石に無理でしょ。それに、他の人達も荷物多いし」


「というより、解体した方がいいのでは? それに、日も暮れてきてますし」


「そうだね、そっちの方が味が落ちないし軽くなるね。今日はここで寝泊まりしようか」


「確かに夜に動くのは危険だ。しかし、鮮度が落ちてしまうが」


「ふふん、そこは俺に任せて。凍らせれば鮮度は保てるし、そのための氷魔法だよ」


「……それなら問題ない」


「それじゃ、俺とクオンが手伝うね」


アスナやアーク達に警戒を任せ、クオンとタイガさんと作業をする。

俺が水魔法を使って、中を洗い流す。

クオンやタイガさんが解体作業を進めていく。

大きさが大きさなので、二人掛かりでも大変そうだ。


「その爪って便利だね? さっき、みょいーんって伸びたよね?」


「ん? ああ、獣人族は己の肉体を武器にするからな。そのため、それぞれに能力がある。俺は自在に爪を伸ばして武器にすることができるのだ」


「ふんふん、なるほど……って、クオンにもあるの?」


「わ、私ですか? まあ……一応、ありますけど言いません」


「ええっ!? どうして!?」


「どうしてもです。それはセクハラですよ?」


「そ、そうなの?」


「ええ、そうです」


「うーん、なら仕方ないか」


気になるけど、無理に聞き出すのは趣味じゃないし。

親しき仲にも礼儀ありってね。


「ふっ、良き関係性だ。そもそも、獣人が武器を使う方が珍しい。無論いないこともないが、基本的には己の肉体で戦う」


「私の場合は特殊ですから。剣の才能もありましたし、いい師匠がいたので」


「あぁー、オルランドおじさんか」


「俺でも聞いたことがある名だな。確か、国の守護者とか言われてる者か?」


「うん、そうだね。国境と、魔の門があるところを守ってる凄い人だね」


敵国の軍や、魔物の軍勢を一人で蹴散らしたという逸話がある人だ。

クオンの師匠して父上の従兄弟である公爵家当主だ。

俺は小さい頃によく遊んでもらった記憶がある……俺に身内の愛情を教えてくれた唯一の人だった。


「最近は、会えていないですね」


「まあ、滅多に動いちゃいけないし。最近は戦争こそしてないとはいえ、相変わらず油断はできないし」


「それもそうですね。さて、だいぶ終わりました……ところで、うちの主人はどうです?」


「クオン?」


何やらクオンが意味深な顔をタイガさんに向ける。

それを受けて、タイガさんが苦い顔をした。


「……悪い人族ではないな。少なくとも、獣人である我々を使い捨てにするようには見えん」


「ふふ、そうでしょうとも。それで、貴方はどうするつもりですか?」


「……もしも、お主が頼むなら力になるとしよう。俺はタダ飯食らいになるつもりはない」


「ほんと!? ありがとう! それじゃ、その時が来たらよろしくね!」


よしよし! これで防御型の前衛の人ができたぞ!

虎族の皮膚は丈夫で、弓なんかも弾くときくし。

本人は嫌かもしれないけど、盾とかもたせたら良さげだ。

どっちしろ、ドワーフを呼ばないと武器や防具とか言ってらんないけど。


「……ああ、任せておけ」


「ええ、期待してますよ、虎族さん」


「ふんっ、黒狼族とはいえ負けんぞ」


また、何やら見えない火花が飛ぶ。

あれかな? ネコ科VSイヌ科って感じなのかも。

その後、無事に解体を済ませる。


「よし、できた。じゃあ、手分けして作業しようか。気配察知能力が高いし、獣人の方々には警備をお願い。アークとアスナには無理だし、俺とクオンは料理かな。二人はテント設置とかできる?」


「うむ、任されよう」


「ええ、お手伝いします」


「おうよ、任せとけ」


「むぅ、仕方ないわね。私が作ったらえらいことになるし」


「「「あぁー」」」


「もう! 三人して顔を合わせるんじゃないわよ!」


アスナの手料理は、それは凄かった。

何故、何を作っても黒い物体エックスができるのか……不思議。

役割が決まったので、手分けして作業をする。


「主人殿、何を作りますか?」


「うーん、冷凍できるとはいえ内臓系はすぐに使わないとだからモツ煮とかにしようか。暑いけど夜なら大分マシだし、栄養価も高いしね」


「いいですね。それに、オニブタは辛味の強い魔獣ですから。その辛味成分のせいか、臭みもあまりないみたいです」


「へぇ、そうなんだ? それなら、味噌煮込みにでもしようかね」


そうと決まったら、すぐに準備に取り掛かる。

といってもすでに解体は済ませてあるので、下処理をしていくだけだ。

下ゆでをしたり、香草類に包んだり、その間に火を起こしたり。

山菜やキノコなどは手でちぎって用意しておく。


「あとは、水から煮込んで行けば完成だね」


「こういうのは私も久々ですね。森の中で食事をしたりするのは」


「俺なんか初めてだし」


すると、準備が終わったアークとアスナもやってくる。


「二人とも、お疲れ様」


「お疲れ。話は聞こえてたけど、私だってそうよ」


「お疲れさん。まあ、俺は騎士学校の演習でやったか」


「というか……あんたは相変わらず人誑しね。人族を嫌ってる獣人ってだけでもあれなのに、その中でも虎族と仲良くなるなんて」


「この場合は獣人たらしじゃね? まあ、言いたいことはわかる。相変わらず、偏見がないやつだよ」


「うーん、別に普通じゃない? ちょっと見た目が違うくらいだし」


俺のいた日本は外人がたくさん住んでいた。

仕事の取引先でもいたし、言葉が通じないことも多々あった。

ここは言葉が通じるだけ、大分マシだよね。


「「……ほんとに」」


「まあ、そのおかげで私達も助かってるから良いんだけど」


「だよなぁ、公爵令嬢が剣を握るとかあり得ないわ」


「うるさいわね。そういうあんただって、侯爵家次男坊のくせに護衛も付けずにきたじゃない」


「俺は良いんだよ、自分の身は自分で守れるし。お嬢様二人とは違っていなくても困らないし。というか、俺はレナちゃんの護衛も兼ねてるし。護衛にもお金がかかるしな」


「私だって、王都にいてもやることないわよ。やれお稽古やら、舞踏会やら……やりたくないことはいっばいあるけど。そんな贅沢するなら、その分民に分け与えてほしいわ」


この二人も中々に複雑だ。

俺と同じく国の主要人物だけど、重要人物ではない。

様々な要素で、家に縛られるに過ぎない。

だからこそ、三人で気があったんだよね。


「まあ、二人のあれこれはよくわからないけど……俺は二人が来てくれて嬉しいよ?」


「……ほら、これだよ。ったく、仕方ない奴」


「……はぁ、悩んでるのがバカらしくなってくるわ」


「なんかディスられてる?」


「いいや、褒めてんだよ。親友、これからもよろしくな」


「ふふ、そうね。クレス、仕方ないからアンタに付き合ってあげるわ」


「むむむっ……解せぬ」


俺がそういうと、二人が顔を見合わせて笑う。


それを見てると、俺も自然と笑顔になる。


やっぱり、友達っていいもんだね!




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