17話 求めていた風景

 全てを揚げ終わったら、俺達も急いで食堂に駆け込む!


 何故なら熱々で食べたいから! やっぱりカリカリで熱々がいい!


 俺は、そのために追放されたと言っても過言ではない!


 だが、そんな俺の前に障害が立ちふさがる!


 それは……お礼を言おうと、押し寄せる住人達だっ!


「クレス殿下! ありがとうございます!」


「わざわざ森に行って狩りをし、我々のために料理を作ってくれたとか……」


「このご恩は、必ず返します!」


 だァァァァ!? そんなのはいいから!

 俺は一刻も早く熱々の唐揚げが食べたいんだァァァァ!


「お礼もなにもいりません! 恩にきる必要もないです! ほら! みなさんも席についてください! 熱々のうちに食べましょう!」


「な、なんと……お礼もいらないと」


「長々と恩着せがましいことも言わないとは……」


「それに、先に食べずに我々と一緒に食べてくださるとは……おおっ、なんと恐れ多い」


 だからァァァ! そういうのはいいって!

 そもそも、何か勘違いされてるし!

 すると、マイルさんが俺の前に出てくる。


「みなさん! ここはクレス殿下のお心のままに! この方は平民だろうと獣人だろうと共に食事をしたいそうです! さあ、各々席につきなさい!」


「そ、そうか」


「我々がこうしていたら、クレス殿下も気を使って食べらないってことか」


「みんな、急いで席につこう」


 マイルさん説得により、住民達が静かに席に着く。

 今の俺にとっては、この方こそが救世主だ。

 大げさではなくて、後光が差して見えてきた。


「マイルさん! 貴方が神かっ!」


「へっ? い、いや、どっちかというと神さまは貴方ですが……」


「ほら、主人殿。ささっと食べないと冷めちゃうのでしょう?」


「そうだった!」


 俺は慌てて、自分の席に着く。

 目の前には味噌汁、サラダ、唐揚げ……白米の混じった麦飯がある。

 完全ではないが、そこには俺の求めていた食事があった。

 何せ王都は西洋文化で、こういった食事はなかったからだ。


「くぅー! いただきます!」


「では、私も……主人殿! なんですかこれ!? カリッとしてるけどふわっとしてます!」


「わわっ!? 肩を揺らさないで! というか、ちょっと待って!」


 やはり元日本人としては、作法はしっかり守りたい。

 汁物や野菜を食べてから、揚げ物に行かなくてはいけない。

 まずは味噌汁から飲む。


「ズズー……あぁ、うめぇ」


 かぼちゃの甘みと玉ねぎの甘み、それに味噌がマッチして調和が取れている。

 クタクタになった苦味のあるほうれん草がいいアクセントだ。


「次にサラダを食べて……からの唐揚げだ」


 俺の前にあるのは最後に揚げたやつなので、まだ熱々なはず。

 それを口に持っていき……思い切りかぶりつく。

 するとサクッとした食感と、ほんのりと脂がじゅわっと出てくる。


「ッー!! みょいしい!」


「主人殿、きちんと食べてから言いましょうね。まあ、気持ちはわかりますが……」


「もぐもぐ……ごめんごめん、それにしても美味いや」


「ええ、それに醤油の香ばしさとニンニクが良いですね」


「うんうん、間違いないね」


 ワニの肉は鶏肉に近いと聞いたことがあるから、合わないことはないとは思ってた。

 しっとりとしつつも、上品な脂が乗ってて……むしろ、鳥の唐揚げよりも美味しいくらいだ。

 何より、前世の同じならワニ肉は高タンパクで低カロリーで食べやすい。

 それに貴重なDHCを含んでいるはず。


「どうやら、皆にも好評みたいですね?」


「……ほんとだね」


 そこには、笑ったり話したりしながら、楽しく食事をしている人たちがいる。

 泣いてる人もいるが、それはきっと嬉し涙だろう。


「あ、主人殿! 平気ですか?」


「へっ? なにが?」


「そ、その……涙が出てますので」


「……ほんとだ」


 ふと目に触れると、涙が出てきていた。

 自分でも、どうしてだがわからない。

 すると、それに気づいた人々が駆け寄ってくる。


「クレス殿下!? どうしたのですか!?」


「ほら! だから言ったじゃない! こんなに騒いだら殿下はゆっくり食べられないって!」


「も、申し訳ありません! つい美味しくて嬉しくて……こんなに美味しい食事をしたのは久々だったのです。こうして、皆が満腹になるまで食べて笑うことなんて……」


 ……ああ、そういうことだったんだ。

 そうか、だから俺は涙を流していたんだ。

 これが、俺の望んだものだったから。


「ううん、こちらこそごめんね。それと悲しくて泣いていたわけじゃないから安心して。みんなが嬉しそうに食べてるのを見て、俺も嬉しくなっちゃったんだ」


「クレス殿下……なんとお優しい」


「はは、そんなんじゃないよ。ほら、だから気にせずに騒いで食べてよ。その方が、俺は嬉しいから」


「……わかりました! 皆の者! クレス殿下の命令だっ! 食べて騒いで踊るぞ!」


「「「おう!!!」」」


 マイルさんの号令の下、再び辺りが騒がしくなる。


「主人殿……」


「クオン、俺はずっと寂しかったんだ。一人で食べる冷たい食事、聞こえるのは自分の食器の音だけ……ずっと、こういうのに憧れていた」


「すみません、私は王都では一緒に食事をするわけにはいきませんでしたので……」


「ううん、良いんだ。クオンは十分、俺の寂しさを埋めてくれたから」


「これからは、一緒に美味しいものを食べましょうね?」


「うん、それこそが俺の求めていたものだ」


 前世も、今世も一人で寂しく食べることがほとんどだった。


 前世では両親の不仲により、今世では第二王妃の唯一の息子がゆえに。


 それが寂しくて嫌だった。


 今更気づく……俺が一番に求めていたのは、こういう光景だったんだということに。







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