第16話 調理開始

下処理をしたヌマコダイルを持ったタイガさんと合流して、館の厨房に入る。


その端っこの調理台と、コンロを二つ借りて調理を開始する。


王宮暮らしはお風呂とかお世話してくれるとか、確かに楽な部分は多かった。


しかし、どうしても我慢できなかったことがある。


「それはジャンクフードと、熱々の食べ物を食べられなかったことです! みんな、熱々が食いたいかぁー!」


「お、おー……ちょっと恥ずかしいですね」


「うん、そうだねクオン。俺が余計に恥ずかしくなるからやめよう」


「まだ主人には似合いますけどね。流石に、私は十八歳なので」


こういう時に小さいお子さんとかいたら、色々と良いんだけど。

そういや、アスナの妹とはよく遊んだっけ。


「そういえば、アスナは元気かな?」


「急にどうしたのです?」


「いや、多分怒ってるからさ」


「間違いないですね」


「ブルブル……と、とりあえず、作ろっと!」


すると、厨房内でそれを遠巻きに眺めていたタイガさんが笑い出す。


「くははっ! 悩んでいる俺がバカらしくなってくるな!」


「ほら、主人殿のせいで笑われたじゃないですか」


「えっ!? 俺のせいなの!?」


「決まってます」


「……本当に仲が良いのだな。さあ、俺は何をすれば良い? こう見えて、料理は得意だ」


「ほんと? じゃあ、手伝ってもらおうかな。クオンは料理とか苦手だし」


「むぅ……否定ができないのが悔しいですね。では、私は見守ってるとしましょう」


クオンと交代して、タイガさんが隣にくる。

クオンは俺の後ろについて、まだかなーという顔で見ていた。

尻尾がフリフリして可愛い……本人はばれてないと思ってるから黙っておこうっと。


「じゃあ、まずは漬けるタレを作ろう。入れてくから、混ぜていってね」


「うむ、了解した」


ボールに醤油、みりん、生姜、ニンニクを入れていく。

これで、少し甘みのある漬けダレの完成だ。

そこにブツ切りにしたヌマコダイルの身を足していく。


「この状態で十五分くらい放置します。その間にサラダとか作れる?」


「うむ、任せておけ。トマトやキュウリならある。流石に、暑さに弱い野菜は少ないが」


「その辺りは、あとできちんと考えてるから安心して。じゃあ、俺はその間に味噌汁の準備をしとくね」


タイガさんにサラダを任せ、俺はカボチャを鍋に入れてお湯で煮ていく。

その間に玉ねぎとほうれん草を切っておく。


「うーん、この辺の野菜は暑さに強いからそこまで収穫利用は悪くないんだね。問題は暑さに弱い野菜が育たないことか。魔獣とか魔物とかは、これから徐々に狩っていけばいいけど」


「それはご主人様の魔法で解決なのでは? 氷魔法を水魔法を駆使すればいいかと」


「魔力が足りても全部をやってたら過労死しちゃうよ!」


「ふふ、冗談ですよ。ですが、何か考えがあるので?」


「うん、一応ね。幸い、調味料とかは俺達が持ってきた分で少しの間は平気だ。どちらにしろ、色々と俺がやらないといけないかぁ……まあ、そこは頑張るしかないか」


その後、作業を終えたタイガさんがくる。

それを確認したら、鍋に油を入れて火にかける。


「こ、こんな量の油を使うのですか?」


「うん、あとは粉をつけて油に入れるだけだ」


「油の量にも驚きだが、粉につけるのか?」


「うん、そうするとカリッとした食感になるんだ」


「なるほど……それは楽しみだ」


この世界では揚げ物を見たことがない。

油は基本的に高いし、少量を炒め物に使うくらいだ。

普通は、こんなに贅沢には使えない。

今回は俺が事前に持ってきたからいいけど、これからは考えないと。

その間にカボチャが柔らかくなったのを確認して、玉ねぎを入れる。


「よし、パチパチ鳴ってきたから揚げていこう」


「あ、暑いですね」


「まあ、厨房内は基本的に暑いし。ただ、この先に美味しさが待っているのだ。あんまり部屋を冷やすと、すぐに冷めちゃうし」


「それは言えてるな」


粉をつけた肉を油に入れると……ゴワァァ!という心地よい音がなる。

同時に醤油やニンニクの香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。


「くぅー! これこれ!」


「暑いけど、良い香りですね」


「ほほう? こいつはいい」


「でしょ? それじゃ、色がついてきたら順番に上げていってくれる?」


「ああ、任せろ」


できればマヨネーズが欲しいけど、今はまだ我慢だ。

卵は暑いとすぐダメになるし、そもそも飼育することから始めないと。

俺は横にある味噌汁用の鍋を確認し、仕上げに味噌とほうれん草を入れる。

これでカボチャの味噌汁の完成だ。

ちなみに元々いた調理人達も、同じように真似して作ってもらっている。


「おい! こっちも揚がってきたぞ!」


「おおっ! いいねっ!」


「ゴクリ……主人殿、一つ食べてもいいですか?」


「頑張って我慢して。俺だって、早く食べたいし。とりあえず、順次持って行ってもらおうかな。目に入ると食べたいなっちゃうし」


「クク、間違いないな」


「では、私が運んでいきます」


すでに食堂には住民達に集まってもらっている。


お腹が空いたのをこらえて、俺はひたすらに唐揚げを揚げていくのだった。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る