第15話 帰還

無事に領地に帰ってきたら、住民達が出迎えてくれた。


先頭にはマイルさんがいて、みんな汗だくである。


朝早くに出て三時を過ぎているけど、それでもまだまだ暑い。


「クレス殿下! お帰りなさいませ!」


「よく無事に帰ってきてくれました!」


「ただいまー。ところで、みんなしてどうしたの?」


「皆さんでクレス殿下をお待ちしておりました。街の人にどこに行ったのかと聞かれまして……私達のために、危険な森に行ったとお伝えました。そしたら、仕事を終えた者達が帰ってくるまで待つと」


「こんな暑い中なのに……ありがとね」


「いえ、我々は戦うことができませんので……」


「別にいいんじゃない? 人それぞれ出来ることは違うし。俺は魔法が使えるから、それを使って自分が出来ることをしてるだけだよ」


それに、半分以上は自分のためだし。

スローライフを送るには、まずは環境を整えないと。


「そもそも、貴重な魔法を我々に使ってくれることが有難いのです。すみません、暑い中立ち話をさせてしまって。それでは、まずはどうなさいますか?」


「まずは以前行った下水処理のところかな。ウォレスさん、よろしく」


「はっ! かしこまりました!」


「ガルドさんは、解体場にヌマコダイルを運んでくれるかな?」


「うむ、わかった。俺の方で処理もしておこう」


「じゃあ、よろしくね」


俺は住民に挨拶した後、ガルドさんと分かれて住民地区に向かう。


「随分と態度が変わりましたな?」


「ん? ああ、タイガさんのことね。なんか、よくわからないけどそうみたい」


「ふふ、主人殿の戦いを見たからでしょう。獣人の男性は、どんな方法だろうと強い者や守る者には一目置きますから。ただの口だけの男じゃないとわかったのでしょう」


「ふむふむ、そういうことですか。それは良かったですな」


「そうだね。彼には獣人達をまとめてもらいたいし」


そんな会話しながら、地下に行き下水処理をしている場所に行く。

そしてその部屋では、排泄物が管を通して下水道に流れ込んでいた。

かなりの匂いがして、結構きつい。

そんな中、人々が汗を流して働いていた。


「これは、今はどんな感じ?」


「各場所に設置されたトイレから流れてきて、ここに一箇所に集まる形です。そのまま外に流れ出る形です。あとは残った糞などを回収して肥料にしたり出来るだけ掃除をして管理きております」


「ふんふん、肥料は大事だね。ただ、これからは最低限でいいかな。とりあえず、ヘドロフィッシュを放とうか」

 

責任者の方に許可を取り、下水道にヘドロフィッシュを放つ。

するとすぐに、ゴミや糞を食べていく。

この調子なら、問題なさそうだ。


「これで、待ってれば少しはましになると思う。悪いけど、責任者の方に管理はお願いするね」


「は、はいっ!誠にありがとうございます!」


「いやいや、俺が気になるだけだから。んじゃ、もう一仕事していきますか」


最後にバケツに大量の氷を入れて、それを作業場の四方に置く。

これで、少しは暑さが和らぐはずだ。

しかし、いつまでもやっていられないし……魔石でクーラーとか作らないと。

外に出ると、日が暮れてきていた。


「さて、これからどうしますか?」


「うーん、お腹減ってるけど少し疲れたかなぁ……そういや、昼飯も食べてないや」


「何か軽食を用意いたしますか?」


「いや、もうすぐ夕飯だから我慢するよ。それに、作りたいものもあるし」


ヌマコダイルを見たときから、それは考えていた。

あの大きさなら、住民達に配っても足りるだろうし。


「作りたいですか? ……まさか、クレス殿下自ら?」


「うん、そういうこと。せっかく、良い素材が手に入ったし」


「マイル殿、主人殿は変な王子なので気にしたら負けですよ」


「変とか言わないでよ」


「なるほど、そうですな」


「ちょっと? 別にいいけどさ」


「す、すみません」


「ううん。自分で言うのもなんだけど、それくらいで良いよ」


偉ぶったり、変に敬わられるのは正直言って苦手だ。

だったら、このくらいの扱いの方が楽だし。


「……かしこまり……了解です」


「うん、それくらいでよろしく」


「主人殿。それで、なにを作るので?」


「フフフ、よくぞ聞いてくれました……唐揚げです!」


「唐揚げですか? ……初めて聞きますね」


「そりゃ、そうさ。まあ、美味いから楽しみにしててよ」


鶏肉に近いと言われるワニ肉なら、きっと上手くいくはず。


何より、ああいうのは王宮では絶対に食べられない。


そうと決めた俺は、早速行動を開始するのだった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る