第14話 ヘドロフィッシュゲット

にしても大きいや。


胴体だけでも、四メートルくらいはある。


この世界にはアイテムボックスがないから不便だよねー。


ダンジョンとかあるんだから、それくらいあってもいいのに。


どうしても重たいものを運ぶのは人力になるから大変だ。


「おおっ、すごいですなっ! 流石は黒狼族だっ! あの大剣を軽々と扱うことといい、あの首を真っ二つにするとは」


「ふふ、ありがとうございます。ですが、主人殿の助けがあってこそですから」


「うむうむ、見てましたぞ」


「というか、責めてるわけじゃないんだけど……ウォレスさんは戦わないの? いや、俺の守りをしようとしてたのはわかるんだけど。なんか、動きがぎこちない気がする」


「す、すみません……私はこんななりと職についておりますが、戦いはからっきしなのです」


「へっ? ……嘘でしょ?」


見た目はめちゃくちゃ厳ついおっさんって感じだ。

いわゆる、街で出会ったら避けるタイプの。


「はは……身体は丈夫なのですが。とにかく、不器用でして。ただ、盾くらいにはなれます。いざという時は、クレス殿下の身代わりになる覚悟はあります」


「……なのに立候補してついてきてくれたんだ」


「ええ、長年この辺境を変えたいと思っていたので。結局、役立たずでしたが」


「ううん、そんなことないよ。その気持ちがあるなら大丈夫だと思う。良かったら、これからも手伝ってください」


「は、はいっ! 俺でよければお手伝いいたします!」


はっきり言って、強い人だけなら探せばいたりする。

でも、人柄がいいとは限らない……むしろ、人柄が良い人の方が貴重まである。

この人となら、上手くやっていけそうだ。

さて、問題はもう一人だね。


「……貴様は、王族なのに獣人と対等なのか?」


「うん、そうだよ。一応、名目上は主従関係はあるけど。俺はクオンを対等な人として接してるつもり」


「なぜだ? 人族……特に貴族は、我々を同じ人類とは思ってないはず」


やっぱり、これは根強いなぁ。

まあ、こればっかりはすぐに解決できることでもないし。


「まあ、一部の人がいるからなんとも言えないし、言い訳するつもりもない。ただ、俺は違うということはわかって欲しいかな。むしろ、俺はもふもふが好きだし」


「ふんっ、所詮そんなものか。気位の高い女の獣人は貴族に人気だからな」


「ん? ああ、違う違う。いや、明確に違うってわけじゃないけど……別に君のもふもふでも良いし」


「……はっ?」


「ちなみにそういう趣味でもないから。とりあえず、もふもふが好きなわけよ」


「くははっ! 面白い人間だっ! ……いや、あの戦いで貴様が獣人を使い捨てにしない男だとはわかっていた。とりあえず、認めるとしよう」


そう言い、またそっぽを向いてしまう。

でも、少しは信用を得られたみたいだ。


「これで、ひとまず安心ですかね」


「うん、そうだと良いね。さて、本題に入りますか。ウォレスさん、ヌマコダイルを解体して荷台に載せといてくれますか?」


「はっ、お任せください!」


「……では、俺は辺りを警戒しておこう」


「うん、お願いします」


二人に任せて、護衛のクオンと一緒に俺は沼の前に立つ。

すると、クオンの耳がピクピクと動く。

これはセンサーのような働きを持っている。


「クオン、どう? もう一匹、いたりしない?」


「……ええ、平気ですね。大型の生き物はいなさそうです」


「ありがとう。それじゃあ、やってみますか」


「ま、まさか、また私に釣らせる気じゃないですよね? 流石に嫌ですし、人前では恥ずかしいです……」


「しないよ! というか、せっかくガルドさんの信用を得られたのに!」


ほら! さっきからチラチラ見てるじゃないか!

ここは、さっさと終わらせなければ!

精神を集中して、魔法をイメージする。


「螺旋、渦……アクアボルテックス」


「ん? ……なるほど、こういうことですか」


俺の目の前では水が渦を巻いて、底の方に沈んでいたヘドロフィッシュが水面に浮かぶ。


「そういうこと。こいつらは沼の底から出てこないから捕まえることが困難だけど、こうして仕舞えば簡単さ。さあ、後は網ですくってね」


「ええ、どうやら酷い目に遭わずに済みそうです」


「だからごめんて!」


「ふふ、わかってますよ」


その後、水面に上がってきたヘドロフィッシュをすくい上げていく。

幸い、こいつらは敵意のない魔獣なので何事もなく回収できた。

ただしめちゃくちゃ弱いので、慎重に事を運ぶ必要はあったけど。


「よし、こんなもので良いかな? 10匹もいれば、多少は平気でしょ」


「そうですけど、魔力は平気ですか? ずっと渦を巻いてましたけど……」


「よゆーよゆー、まだまだいけそうだね」


「お、恐ろしい魔力量ですね」


「ただし、体力は限界である」


「ププッ!? 真面目な顔して偉そうに言わないでください!」


「ごめんごめん。んじゃ、暑くなってきたし帰るとしますか」


その後、荷台に用意した桶の中にヘドロフィッシュを入れる。


目的の物が手に入った俺達は、汗だくになりながら家路を急ぐのだった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る