第13話 沼の主
ヌマコダイル、それは泥や川に生息する魔獣だ。
ひっそりと息を潜め、獲物が近づいてきたら勢いよく水から襲いかかる。
その頭の良さ、強靭な身体から危険な魔獣とされていた。
特徴は6本ある脚と、大木を薙ぎ払う尻尾、そして全てを噛み砕く牙だ。
「ギシャァァァ!!」
「っ!? なんつー声! 耳がいたいや」
「ウォレスさん、私が前衛を務めるので主人殿を頼みます! 」
「う、うむっ!」
「ふん、俺は手伝わんぞ」
「それで結構、そこで見てるが良い」
クオンが大剣を構えて、相手の出方を待つ。
相手もクオンの強さがわかるのか、じっと睨みつけている。
俺も邪魔をしないように、いつでも魔法を撃つ準備だけはしておいた。
「カロロ……ギシャァァァ!」
「おおっ!?」
脚でジャンプするようにして、でかい図体とは思えないスピードでヌマコダイルが迫る!
「なんのっ!」
「カロロ!?」
「くっ、硬いですね」
クオンは噛みつきを横にステップして躱し、斬撃を胴体に食らわしたが……どうやら、傷をつけることができなかったみたいだ。
流石は人のいない森で育った魔獣だ、良いものを食ってるからその分強いのかも。
クオンは王都では腕利きの冒険者として知られ、本来ならそこらの魔獣にはてこずらない。
そりゃ、中々開拓ができないわけだ。
「ギシャァァァ!」
「っ〜!?」
「クオン!」
「へ、平気です! 闘気でガードしましたので!」
俺の目では見えないほどのスピードで尻尾が振られた。
それがクオンを吹き飛ばしたらしい。
獣人であるクオンは、人族には使えない闘気という身体強化を使える。
ただ、まずいかも……このままだとクオンが危ない。
「クオン! 俺も手伝う! 邪魔をしないために手伝うにはどうしたら良い!?」
「主人殿、しかし……守るべき方に手助けしてもらうなど」
「そんなことはいい! 大事なクオンに傷が付く方が嫌だ!」
「は、はぃ……それでは、あいつの動きを一瞬でいいので止めてくださいますか? その間に、奴の鱗を切り裂く闘気を貯めます」
「わかった! その間、少し時間を稼いで!」
「御意!」
俺は魔法を使えるようになった素人だ。
戦闘のプロであるクオンの邪魔をしてはいけない。
前世の記憶から、素人が下手な真似をすると事故になることは散々知っている。
なので、俺は倒すことではなくクオンの言う通りに止める事だけを考えればいい。
「ど、どうするのですか?」
「貴様もアレと戦うのか?」
「うん、戦うよ。だって、大事な相棒が戦ってるんだ」
親友や幼馴染も大事だけど、クオンは俺にとって家族になってくれた子だ。
母を失い父親に避けられ、異母兄弟とは希薄な関係……そんな中、ずっと一緒にいてくれたのはクオンだ。
俺のために、こんなところまでついてきてくれた……ここで何も思わないほどクソじゃない。
「クオン! 今から奴に隙ができる!」
「はいっ! お願いします!」
「氷の大槍よ、鉄槌を下せ——アイスジャベリン!」
ヌマコダイルの口の上辺りに氷の槍を出現させて……突き下ろす!
「カロロロ!?」
口を閉じられて、一瞬奴の動きが止まる。
ワニは口が弱点だって、何処かで見たことがあった。
口を閉じられると、身動きが取れなくなるとか。
「今だっ!」
「はっ! すぅ——光刃一閃!」
気合一閃、大剣を顔と胴体の間に叩き込む!
すると、顔と胴体が分かれ……ヌマコダイルが地面に伏す。
「す、すごいや! クオン! 真っ二つだよ!」
「いえ、主人殿のおかげです。私一人では、もう少し手こずったでしょう……情けない、貴方を守ると誓ったのに」
「別にいいじゃん。クオンが俺を守りたいように、俺だってクオンを守りたいし」
「ふぇ!? それはどういう……」
「それは大事な家族だし」
「……はぁ、そうですよね。いや、別にいいんですけど」
あれ? おかしい? これは感動的な場面ではないのかな?
どうして、怪訝な視線を向けられているのだろう……解せぬ。
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