幕間~アスナ視点~

 ……あいつ〜!!


 待ってろって言ったのに! 結局、私に黙って出て行ったわね〜!


 怒りのあまり、枕を殴りつけてしまう。


「お姉様、落ち着いてくださいませ」


「わ、わかってるわよ! ふぅ……」


「それでどうなさるのですか?」


「もちろん、クレスを追うわ。あの馬鹿を放ってはおけないし」


 クレスってば戦う力もないし、政治力なんかもない。

 私が側にいて、あれこれやってあげないと。


「でも、クオンさんがいますわよね? 腕もあるし頭もいいので安心では? 別にお姉様が行く必要もないかと思いますの」


「くっ……クオンだけじゃダメだわ! あの子はクレスに甘いもの!」


「それは確かに……お姉様はクレス殿下に厳しいですから」


「だから置いていかれたのかしら? 私、いつもうるさいことばっかり言ってるから……あいつに愛想を尽かされちゃったのかな?」


 私はいつもそうだ。

 クレスに限らず、思ったことは口から出ちゃうし行動してしまう。

 それであまり友達と言える人もいない。

 クレスはなんだかんだで優しくて、私のわがままに付き合ってくれてた。


「ふふ、可愛いお姉様。クレス殿下に嫌われたと思って落ち込んでいらっしゃったのですね?」


「な、なっ——違うわよ!」


「あら? 違うのですか? もしそうなら、私もお手伝いをしようと思いましたのに」


「うぅー……だってクオンは連れて行ったのに私は連れて行ってくれなかったから」


「それは当然ですわ。お姉様は王家の血を引くカサンドラ公爵家長女にして、神速の異名を持つ剣士なのですから。そもそも嫁入り前の娘が、危険な辺境の地に行くことなど許されることではありませんの」


 確かにお父様にも国王陛下にも直訴したけどダメだった。

 年頃の娘なのだからもっとお淑やかにとか、剣はやめて舞踏会に出なさいとか。

 早く結婚相手を見つけなさいとか……私はクレスがいいのに。

 そうだ、クレスだけは私にそんなことは言わなかった……クレスだけが、私を応援してくれた。


「……私、クレスに会いたいわ」


「まあまあ! そういうことでしたら、私の方からお父様を説得いたしますわ」


「ほんと!?」


「ええ、大好きなお姉様のためですもの。手を回しますので、ちょっと待っててくださいね」


「レナ! ありがとう!」


「ふふ、お礼などいらないですわ……これは私もどうにかねじ込まないと」


「ん? 何か言った?」


「いえいえ、何も。では、早速行ってまいりますの」


 そう言い、私の部屋から出て行く。

 行動が早いのは、私と唯一似てる点かもしれない。

 姿形は全く似てないけど……あの子ってば、私より胸が大きいし。


「ふふ、これで勝ったも同然ね。お父様は、レナに甘いし」


「おっと、今のはレナちゃんか」


「あら、アークじゃない。ちゃんとノックを……レナが開けっ放しだったわね」


 そこにいたのは、私の従兄弟でもあるアーク-カラドボルグだった。

 侯爵家の次男坊で、馬が合うのかクレスと仲が良い。


「そういうことだ。暗い顔をしてるかと思ったが……なるほど、レナちゃんが動くのか」


「ええ、お父様を説得してくれるって」


「それなら、俺の方でも動いておくか。そうすれば、確率は上がるし」


「貴方も行くつもりなの?」


「当たり前だろ。こんな面白……親友が心配だしな」


「面白って言ったわね」


 次男坊ゆえなのか、アークはちゃらんぽらんだ。

 それがクレスと合うのか、いつも遊んでいた……それに対して私はいつも怒鳴っていたっけ。

 今ならわかるんだけど……ただの、嫉妬だった。


「気のせい気のせいっと。とりあえず、俺も行くつもりだ。どうせ、ここにいてもやることないしな」


「そうね」


「即答かよ。んじゃ、早速動くとするわ」


「その……ありがとう」


「クレスにも、それくらい素直ならいいんじゃね?」


「う、うるさいわねっ! ささっと行きなさい!」


「へいへい、わかりましたよ」


 今度はきちんとドアを閉めて、アークも出て行く。


「そうとなれば、 今のうちから準備をしないといけないわね」


 あちらは暑いと聞いたから薄着も持っていこうかしら……でも、体型が分かっちゃうから嫌なのよね。


 クレスにも見られるわけだし……っ〜!? 何を言ってるの!?


 そんなことを考えつつ、私は旅の準備を進めるのだった。





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