第6話 ~国王視点~

 ……ふむ、あれで良かったのか。


 第二王子であるクレスを追放することにしてしまったが。


 自分で提案したとはいえ、王太子は賛成するし周りの貴族達も賛成してしまった。


 護衛も置いていってしまったが、無事に着いただろうか?


「兄貴、邪魔するぜ」


「オルランドか。クレスは旅立ってしまったよ。お主の言う通りにしたが、これで良かったのか?」


 クレスのことについては、王太子や貴族達からはずっと言われていた。

 良い加減、どうにかしてくれと。

 しかし追放するに決め手は、従兄弟であるオルランドが進言してきたからだ。

王家の血を引くティルナグ公爵家当主にして、私にとっては可愛い弟のような存在だ。


「ああ、良いと思うぜ。あれ以上いると、色々なところから反発が起きるだろうよ。王太子であるローレンもいい気がしないだろう。今回、兄貴が決めたことで溜飲が下がるし」


「ふむ、私がクレスに甘いのは確かじゃ。唯一惚れた女性、アメリアの忘れ形見であるしな」


「だから今は亡き第一王妃や、王位を継承する王太子が不安に思ったんだろうが」


「ぐぬぬ……すまぬ」


 そう、これもそれも私の不徳の致すところだ。

 クレスと他の兄弟の関係が良好ではないことも。

 アメリアそっくりなクレスをどうして良いか分からず、結局甘やかして放置してしまったことも。

 あの子の顔を見ると、辛くなってしまう情けない自分がいる。


「まあ、兄貴はよくやってるし、それくらいは仕方がないだろうよ。親父達を含む王族達が流行り病で亡くなって、若いうちから王位についてすぐに子供を作ることを要求されて大変だったしな。残っていたのはまだ十歳だった俺だけだったし」


「本当なら、お主の方が国王に向いていたに違いない。私は力もないし威厳もないからな。お主がもう少し歳をとっていたら……」


「俺には柄じゃない、戦っている方が性に合ってるよ。兄貴には国のことをどうにかしてもらわないとな」


「わかっておる。王太子も結婚したし、これで一安心じゃ。少しずつ、立て直していこう。その間すまないが、国境の守りと魔の門の守護はお主に任せた」


 我が国の問題は多い。

 流行病や食糧難、そして暑さによる人口の低下。

 山に囲まれた貧しい国、東の隣国であるレナス帝国との関係。

 南東に位置するドワーフ王国との関係。

 国内の獣人に対する扱いや意識。

 我々と関係を絶った、エルフ族との関係も。


「ったく、人族で争ってる場合じゃないっての。あいつらは、何度言っても理解しねえ。うちだって、分け与えるような余裕はないってことを」


「ふむ、あちらからしたら我が国が豊かに見えるのだろう。使者を呼んでも、何処かに隠していると信じてもらえなかった」


「結局、人は見たいものしか見ようとしないからな。もっと、わかりやすいものを用意するしかあるまい。それに、あいつらにはうちが貧しいとか関係ない。あっちからすれば、自分達の国の命がかかってるんだ」


「うむ、それもそうじゃな。しかし、我々とて国の民を守らねばならん……きちんと出来てないのが歯がゆいが」


「……それに関しては俺も同じだ。何だかんだ言って、俺は戦うしか能のない男だ」


 そうしたいと思いつつも、中々打開策が見つからない。

 人口を増やすには食料が必要、しかし食料は暑さと環境によって減ってしまう。

 そうなると戦える者も減ってきて、食料である魔獣を倒せる者も減ってくる。

 魔物も増えて食料を食べてしまったり、畑も荒らされてしまう。


「何か、一つでも突破口が見つかれば……」


「そのためにクレスを送ったんだろ?」


「まあ、それもあるが……いい加減辺境をどうにかしないといけない。だが、クレスにできるだろうか?」


「そういうことさ。まあ、兄貴に代わって面倒は見てきたし……確かに能力は低いが、優しい子だ。そして、人を惹きつける何かがある。なんだかんだで、面白いことになる気がするぜ」


「確かに、あの子は優しい。偉ぶった姿は見たことないし、獣人であるクオンにも最初から奴隷扱いをしなかった。しかし、あの厳しい土地で平気だろうか?」


「クオンは俺が育てた弟子だ。たとえどんな環境だろうと、クレスを守り抜くだろうよ」


 後になってわかったが、クオンは黒狼族という最強の獣人の血を引いている。

 その才能を我が国最強の剣士オルランドが育て上げた。

 まだ若いとはいえ、そこらの魔獣や魔物には負けないのは確かだろう。


「ふむ、それはそうじゃな。ひとまず今は、目の前の問題を片付けていくかのう」


「ああ、それが良いぜ。安心しな、奴らも落ち着く時期だ。少ししたら、俺が様子を見に行ってくる」


「すまんがよろしく頼む」


「おうよ、兄貴もほどほどにな。それに、辺境をまとめている領主だって無能ではないだろう?」


「気は弱いが、下の者の気持ちがわかる者だったと記憶している。あの地を任せてしまって申し訳ないと思っている」


「なら、クレスを任せても平気そうだな。。クク、あいつの驚く顔が眼に浮かぶぜ」


「うむ、その辺りは心配しておらん」


 ……クレスよ、不甲斐ない父ですまない。


事情がどうであれ、追放という形で辛い土地に追いやってしまった。


 元気でやっておると良いのだが……。





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