第5話 出来立ては美味しい

クオンが馬の陰に隠れて身体を拭いてる間に、俺は急いで火の準備をする。


枯葉と木の枝を集めたら、そこに向けてに魔力を込める。


すると、魔石から火が出て木に燃え移った。


「相変わらず、便利だよなぁ」


「何か言いましたかー?」


「ううん、何でもないよー」


魔物を倒したことで得られる魔石には属性魔法を込められる。

そのことがわかった人類は、それを使って生活を豊かにしてきた。

魔物の正体は未だにわかってないとか。

ただ食料である魔獣や、人類を襲うことから問答無用で討伐対象になっている。

神様も、その辺りの説明はしてくれなかったし。


「まあ、使命とかはなさそうだし俺が気にすることじゃないね」


「何かです?」


「わわっ!? い、いつの間に後ろに?」


「今さっきですよ。全部は聞こえなかったですけど、何やら独り言を言っていたので」


別に言っても良いんだけど、流石に信じてもらえないし。

俺自身も、あれが夢じゃないかと言われたら自信はない。


「いや、なんでもないよ。あえて言うなら、ダラダラするのが俺の使命って感じかな」


「全く、仕方のない人ですね」


「と、ところでさ……」


「なんですか?」


「い、いや、なんでもない」


さっきから、俺を覗き込む形になっている。

なので、目の前でおっぱいがフルフルしています。

というか、着替える前より大きくなってる……はっ! この川にはそんな効果が!?

これはアスナに教えてあげないと! ……うん! 殺されちゃうねっ!


「さっきからどこを見て……っ〜!?」


「い、いや! ごめん!」


気づいたのか、クオンが両手で自分の胸を隠そうとする。

しかし、それは逆効果である……。

何故なら谷間を作ってしまっているのだ! あら不思議!


「あぅぅ……べ、別に構いません」


「いや、構わないって顔じゃないし……本当にごめんね」


「……許します」


「ほっ、良かった」


正直言って、俺が迫ればクオンは逆らうことは無いと思う。

でも、いくら俺の専属従者でも、それとこれとは話が別だ。

クオンの気持ちの問題もあるし、俺自身もそういうことはしたくない。

……まあ、見ちゃうのは男の性ってやつなので許してほしい。


「まったく、相変わらずえっちですね」


「えっ!? そうなの!?」


「だって、たまに見てたりしてましたから。もしかして、バレてないとでも?」


「はは……ゴメンナサイ」


「ふふ、アスナ様には黙っておきますね」


「お願いしますぅぅ!」


そんな日には、ボコボコにされる未来しか見えない。

あの子は育ちのせいもあるけど、そういうことに免疫がまるでないし。

その後、クオンが火に当たってる間に別の作業をする。

クオンがやりますと言ったけど、無理矢理に火の前に置いてきた。


「釣った魚を捌いて内臓を取り出したら、川の水で洗ってと……よし、鱗も少ないしこれで良いか」


この魚はクリアフィッシュと呼ばれる、ニジマスに近い見た目の魚だ。

綺麗な川にしか生息できない魚で、結構珍しかったり。

洗った魚を葉っぱに乗せたら、ナイフで木の棒を加工する。

なるべく細く、しなるように。


「これくらいで良いかな? そしたら魚に刺してっと……出来た」


後は塩を全体にまぶし、尾ビレとヒレに多めに塗る。

こうすることで、焼くときに焦げ難くなるからだ。

準備ができたら、クオンの元に戻り、それを火の近くに立てかける。

こうしたら、後はゆっくりと待つだけだ。

俺はクオンの隣に座り、火を眺める。


「クオン、ひとまずできたよ」


「すみません、何もかもやらせてしまって……これでは従者失格ですね」


「そんなことないよ、こうしてついてきてくれたし。それに一番大事な餌になってくれたし」


「もう、それは言わないでください」


「はは、ごめんごめん。でも、本当に良かったの? もう給料とかもでないけど……」


「良いんですよ、貴方の側にいることが私の願いですから」


……本当に、クオンには感謝だね。

自ら望んだとはいえ、追放された俺についてきてくれるんだから。


「そっか……昔はガリガリで泣き虫だったのになぁ、立派になったもんだ」


「そ、それは言わないでくださいよ! まあ、否定はできませんけど」


「あれからもう五年かぁ」


「ええ、早いですね……」


あの時、記憶を取り戻した俺は焦った。

普通に考えて、第一王妃様が兄上を王位につけようとするからだ。

このままでは命が危ないと思い、俺は兄上や姉上を避けつつ、自分を裏切らない護衛が欲しかった。

その時に、奴隷として捕まったクオンを買い取ったんだ。

まあ、だらだらしてたおかげが、命を狙われるようなことはなかったんだけどね。




その後、昔話をしながら時間が過ぎ……良い香りがしてくる。


両面に焼き色も付いており、もう食べてもいい頃だ


というか、さっきからよだれが止まらない。


「あ、主人殿!」


「ま、待つんだ! もう少しだけ!」


「りょ、料理に関しては主人殿を信用します……」


前世の俺はアラフォーの社畜で、貧乏一人暮らしをしていた。

そのおかげか、料理の腕だけはある。

王都でも趣味と称して、たまに厨房で遊んでいたし。

流石に頻繁には無理だったけど、これからは自由に作ることができる。


「……よし! 食べよう!」


「はいっ!」


二人で同時に魚にかぶりつく!

塩の効いたカリカリの皮と、ふっくらと柔らかな身が口に入ると……なんとも言えない幸せに包まれる。


「うまっ! 魚の甘みと塩が合わさって……何より熱々だ」


「美味しいですねっ!」


二人で顔を見合わせてコクリと頷き、一心不乱に食べ進める。

そして、あっという間に食べ終わる。


「あぁー美味かった! こんなに美味い飯を食ったのは久々だね。というか、出来立てを食べたと言った方が正しいかな」


「私はそうでもないですけど、主人殿は仕方ありませんね」


王太子のスペアである俺は、死ぬことは許されなかった。

なので基本的に食事は冷たいし、こういう感じではなくて高級志向だった。

一人で食べても味がしないし、こういう飯の方が性に合ってる。


「まあ、そうなんだけど。いやー、これからは自由に飯が食えるぞ」


「ふふ、色々食べましょうね。私なら食べられるか判別つくので任せてください」


「うん、頼りにしてるよ」


お腹が満足した俺たちは、再び辺境へ向けて出発するのだった。









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