第4話 魚釣り

 ……とりあえず、言い訳を言うのは諦めた。


 何を言っても良い方向にとられちゃうし。


 何か言うたびに、ドツボにはまる気しかしない。


 こうなったら開き直って、どんどんと魔法を使っていく方向にしよう。


「それで魔力はどれくらいあるんです?」


「うーん、今まで使ってなかったからわかんないなぁ。その辺りも、これから試していくつ

 もり。だから、引き続き護衛はよろしくね。相変わらず、武術系はダメだし」


「ええ、お任せください。良かった、私の役目はまだありましたか」


「当然だよ。というか、別に役にたつから連れてるわけじゃないし。俺はクオンにいて欲しいから側に置いてるんだからさ」


「主人殿……はい、これからもお側に」


「というか、そんなに畏まらないでよ。いつもみたいにしてくれた方が楽だし」


「ふふ、わかりました。それでは、尻を叩くとしましょう」


「ほ、ほどほどに……」


 そして、更に進むこと数時間後……流石にお腹が空いてくる。

 朝ご飯を食べてすぐに呼び出されたから、今はちょうどお昼くらいの時間かな?

 、針は十二時を指していた。


「うん、良い時間だね。いや、時計だけは持ってきておいて良かった」


「そうですね、流石に時間がわからないの困りますし。さて、お昼ご飯はどうしますか?」


「うーん、手ぶらで来ちゃったからなぁ。近くには魔獣も見当たらないし……クオン、川とかは近くにある?」


 クオンが耳をピクピクと動かし、何かを確認している。

 獣人の頭の耳は人とは違く、その空気や繊細な音を聞き分けることができる。


「……ありますね。ここからそう遠くない位置に」


「おっ、ありがとう。それじゃあ、そこに行こうか」


 クオンの案内の元、移動を開始して狙い通り川へとやってくる。

 そこは森に少し入った位置にある、幅五メートルほどの川だった。


「おっ、山からきてる感じかな?」


「ええ、ここの水ならそのままで飲めるかと」


「さっきの水の音もそうだけど、相変わらず凄い能力だよね」


「ふふ、ありがとうございます」


 鼻も人とは違い、安全性や食べられるものかを感覚的に判断ができる。

 はっきり言って、護衛としてこれほど心強いことはない。

 体も頑丈だし、人族に近い容姿をしている。

 だからこそ、獣人は奴隷として捕まえられる場合がある。

 もちろんうちの国では違反だし、奴隷だとしても手厚く雇っている……一部を除いて。


「さて、まずは喉を潤して……プハッ! くぅ〜美味い!」


「どれ、私も……美味しいですね。この気温なら尚更のことですし」


「うちの国というか、この大陸は基本的に暑いからね。本国の方や海に近い南にある国はましだけど、東の国やこれから行く西側は暑くなるって話だよ」


 この大陸に冬や雪、氷というものは存在しない。

 基本的に一年中暖かく、場所によっては更に暑くなる。

数百年前まではそうではなかったらしいので、おそらく温暖化というやつかも。


「今からそこに行くわけですね。早速、氷魔法が役に立ちそうです」


「それはそうかもね。ところで、何か生き物はいる?」


「いますけど……どうします? 釣竿なんかもないですし、流石に直接獲るのは難しいかと」


「結構、深さがあるもんね。それに距離もあるか……クオン、俺の命令は聞けるかな?」


「こ、怖い顔ですね……何をするつもりで?」


「まあまあ、そこは俺に考えがあるからさ」


「……仕方ありませんね、覚悟を決めるとしましょう」







 ……うん、なんか滑稽だね。


 自分で提案してなんだけど、これで上手くいくのかな?


「く、屈辱です……このような辱めを受けるなんて……」


「いや、紛らわしいことを言わないでよ。これくらいしか方法が浮かばなかったし」


「だとしても、尻尾を餌代わりにするなんて……!」


 了承を得た俺は、氷魔法を使って川の一部を凍らせた。

 そこをクオンが渡って、そこから尻尾を垂らして餌のように動かす作戦だ。


「ほらほら、尻尾を振って」


「うぅー……エッチなことをされたって、アスナ様に言わないと」


「やめてぇぇ! 俺の首が飛んじゃうから! あの子は冗談が通じないんだし!」


「ふふ、それもそう……あっ! き、来ました」


「なに!? よし! 引っ張りあげて!」


「んっ、あっ、ちょっ……」


 うん……確かに、なんかエッチだね。

 俺は葉っぱの受け皿を持ったまま、その艶めかしく悶える姿に釘付けになる。

 普段はクールで見せない表情で、こっちもドキドキしてきた。

 ……誤解を招くと困るから言っておくけど、狙ってやってないからね!?


「おおっ……! いいねっ!」


「い、いいねじゃありませんよ……もう!」


 次の瞬間尻尾が上がり、魚が飛んでくる。

 俺はそれを上手い具合にキャッチした。


「よし! 獲れた! これが適材適所ってやつだね!」


「絶対違いますからね!?」


「まあまあ、いいじゃないの。こうして、無事にご飯が取れたんだし。さて、もう一回やろっか?」


「うぅー……仕方ありませんね」


 再び尻尾を川につけると、すぐに反応する。


「今度はあんなはしたない姿は見せません!」


「おおっ! 一発で釣り上げた!」


「ふふ、どんなもんです——ひゃぁ!?」


 俺が魚をキャッチすると同時に、勢いあまってクオンが川へと落ちた。


「だ、大丈夫!?」


「へ、平気です……もう、びしょびしょですよ」


 すると、すぐに川からクオンが上がってくる。

 どうやら、怪我もなさそうだ。

 ……それにしても、あちこち張り付いて色気が凄いことに。


「これが本当のビジョビショってね!」


「……主人殿?」


「えっと、水も滴る良い女ってことだよ?」


「ほほう? 他に言うことはないですか?」


「ヒィ!? ごめんなさーい!」


「……全く、仕方がない人ですね」


 たまに、前世のおっさんが出てきてしまうクレス君なのでした。


 ……本当は、ただの照れ隠しだったんだけどね。

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