第7話 街に到着

その後、村を経由しつつ、旅を続けていく。


次第に村の数も減ってきて、気温も段々と上がってくる。


そして俺たちが王都を出て一週間後……ようやく、目的地に到着する。


「へっぷし!」


「平気ですか? 魔法が使えるからって冷やしすぎたのでは?」


「誰かが噂してるのかも。うーん、確かにやり過ぎは良くないね……いやー、それにしても暑い」


「ほんとですね。なんだかんだで主人殿の魔法がなかったら、かなりきつかったかと。川もないので、水魔法と氷魔法には助けられましたから」


「いやいや、それはお互い様だよ。クオンの剣の腕と五感の鋭さがなかったら、魔物や魔獣にやられてたし」


ここに来るまでは結構大変だった。

ここら一帯は、温暖化の影響から十年以上も放置された場所だ。

作物が育たなくなり、水などがなくなってしまった。

討伐する人も減り、魔物や魔獣がいたりするし。

クオンがいなければ、とてもじゃないが到着できなかった。


「それにしても、寂れてますね。街の体をなしてないですし。あちこちの壁もボロボロになってます」


「まあ、無理もないさ。通称、見捨てられた地って言われるくらいだ」


賢い者や動ける者は、まだ涼しくて緑がある東の方に移り住んだ。

ここに残っているのは自ら望んだ者か、動けなかった者達だろう。

父上だって鬼ではないが、我が国も隣国との争いとかで辺境を省みる暇もなかったし。


「原因は気温の上昇と、自然不足や食糧難ですね」


「そうそう。昔は緑豊かだったらしいんだけど、それを使い切っちゃったんだ。次第に資源がなくなって廃れていったとか」


「この暑さでは、最悪死人が出ますしね」


「だから移り住んだりする人が増えたから、こうして寂れちゃったってわけ……おっ、誰か来たね」


門の向こうから、槍を構えた兵士がやってくる。

一人は若くて新人っぽい青年で、もう一人はきちんと鎧を着た男性だ。


「だ、誰だ!?」


「ま、待てっ! 立派な服を着ている……」


「初めまして、俺の名前はクレス-ジュバルツといいます。ここの責任者の方に会いたいんだけど……話はきてるかな?」


「ほ、本当にきた? この辺境の地に王族の方が……」


「し、知らせはきております! すぐに領主の館にご案内いたします!」


「うん、よろしくね」


若い兵士が先に走り、もう一人の男性の後をついていく。

街の中は活気がなく、生気のない人々の視線が突き刺さる。

この顔を俺はよく知ってる……前世の時の俺だ。

鏡を見ると、いつも生気のない顔をしていた。


「皆、元気がありませんね」


「うん、これは思った以上だ。国から離れているから仕方がないとはいえ……それに、辺境を省みる余裕もなかっただろうね」


「そうですね……敵国との戦いや魔物達との戦いもありますから」


「あとは、実際に目にしてないから実感がないのかもね」


かといって行きに一週間もかかる道を、国王が直に見るわけにいかないし。

あの傲慢な貴族達が、こんなところに行くわけないし。

まともな貴族は国を動かすのに必死だし……うん、詰んでるね。


「なるほど、確かにそうかもしれないです」


「あとは情報伝達をしっかりしないと。それを防ぐには中継地点を確保しつつ、もっと早く移動できる方法と、それを持っていく優秀な人材を育てることかな」


「……いつの間に、そんな勉強を? ずっと授業はサボっていたのに」


「はは……これは勉強とは関係ないしね。発想というか、先人たちの知恵ってやつさ」


そんな会話をしていると、周りの平屋に比べて立派な建物に到着する。

二階建ての建物で、敷地面積も大きい……屋敷というより、田舎にあるペンションに近い感じだ。


「さあ、ここが領主の館です」


「案内をありがとね」


「い、いえ……」


「あっ、誰か出てきますね」


扉が開き、先ほどの若い兵士と、四十代くらいの気弱そうな男性がやってくる。

身長はクオンくらいで、ロマンスグレーをオールバックにしていた。

その人は俺に近づくなり、土下座をしてきた!


「いらっしゃっいませ! クレス殿下!」


「ちょっ!? 土下座はやめてぇぇ! ねっ!? お願い!」


自分の前世でやってたスライディング土下座を思い出しちゃうからァァァ!

見てるだけで心が痛くなっちゃうよっ!

俺は膝を折り、慌てて目線を合わせる。


「な、なんと……私のような者に優しさをくれるとは」


「いや、普通だから。それで、貴方が領主さんかな?」


「はっ、国王陛下よりこの地を預かっているマイル子爵と申します」


子爵っていうと、4番目の位か。

我が国は公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の順番だったねはず。


「マイルさんね。知ってる思うけど、俺の名前はクレス-シュバルツ。こっちは従者のクオンだ。ちなみに、奴隷ではないからよろしく」


「奴隷ではなく従者と? ……良かった、この方なら安心して任せられます」


「ん? なんの話?」


「これより私は領主の座をお譲り致します」


「……はい? どういうこと?」


「その……国王陛下からの手紙では、領主としてクレス殿下を送るので補佐をしてくれと」


「ホワッツ?」


なんで、俺が領主に? そんな立場では、のんびりと過ごす時間が。


……どうやら、のんびりと過ごすというわけにはいかないみたいです。


でも、考えようによっては良いかも。


これで、俺が好きなように過ごせる場所を作れるってことだ。






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