6日目 夜

 階段、キッチン、二階の窓からの風景。なぜか玄関まで描かれた。

「見てみて、きぃくん! 二刀流~!」

 夕食後、母親が買ってきた花火をしている。

 先に着火した花火を二本目に引火させると、両腕をぐるぐると大きく回してはしゃいでいる。本当に中学生なのかと疑いたくなる光景。

 昔であれば同じようにはしゃいでいたのだろうか。そう考えれば、変わったのは自分の方なのだろうか。

 

「もうこれだけになっちゃったねぇ」

「お前が二本同時とかやってるから早かったな」

「別にいいでしょ。楽しかったんだから」

 二人だけといえど、花火を使い切るのは一瞬だった。残ったのは、漂う白い煙と燃えた火薬の臭い、それと何本かの線香花火だけ。意識して残しているわけでもないのに最後にこれが残るのはなぜなのだろうか。

 最初に比べるとだいぶ短くなったロウソクの前に二人でしゃがんで、線香花火に火を同時に付ける。

 橙色の丸くなった部分からパチパチと小さな火花が飛び散る。街灯もなく、月明かりも出ていない今はこれが唯一の明かり。互いの顔をぼんやりと浮かび上がらせる。

 さっきまでの花火と比べるまでも、小さな明かり。寿命も短い。

 しばらくすると、ぽとりとダマになっている部分が落ちた。

 ほとんど変わらないタイミングで、もう一つの線香花火も落ちている。細々と輝いて、ひっそりと消える。

 二人して黙々と一本、また一本と消費していく。

 細々と輝いて、消える。

 次のを手にしようとしたが、気が付けばなくなっていた。

「それで最後みたいだ」

 「そっか、これで終わりなんだねぇ」

 二人で一本の線香花火を凝視する。

「やっぱり、最後がこれだと地味すぎるよな。味気がないっていうかさ」

「ははは、そうだね。でも、地味でも最後だから記憶には残るよねぇ」

「そうか? 地味だから記憶に残らないんだろ?」

「普通はそうなんだけどね。少なくとも私は覚えていたいな。――あっ」

 最後の一本も、あっけなく地面に落ちた。オレンジ色のダマは地面に落ちると間もなく灰色になる。

 これで花火は全て使い切った。

「……終わっちゃったね」

「……そうだな」

「そろそろ、帰らなきゃ、だね」

「家まで送るぞ」

「うん、ありがとう」




 そこらからはゲロゲロとカエルの大合唱が響く中、無事に送り届ける。

「明日も会える?」

「午前中だけだけどな。行けるのは近場だけだぞ」

「それでもいいの」

「描き残しでもあったか?」

「うん、そんなところ」

「じゃあ、明日もだな」

「うん」

 背負向けて、来た道を戻る。

 互いに口には出さなかった。それでも、明日で最後なのだと嫌でも意識させられる。

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