第30話 恐るべき結末
部屋の中に入ろうとしたがカギを持ってこなかった。1階の受付まで取りに行く猶予はない。何とかしてすぐに開けなければ・・・。
(美香! もうすぐだ!)
上林はドアに体当たりした。するとドアは簡単に開き、彼は部屋の中に入った。
「こ、これは・・・」
部屋の中にはあぶくが浮かび、まるで水で満たされているように見えた。その中で美香が口を押えて苦しがっている。その目は恐怖で大きく開き、前にいる者を凝視していた。そこには長い髪の女がいた。体は白い着物のようだがぼやけており、透けているようにも見える。そしてまるで水の中にいるように髪の毛を逆立てて、じっと美香を睨んでいた。それは裕子にも見え、大山啓子にも見えた。恨みを持った怨霊というのか・・・。
「い、いやあ!」
美香はそう叫ぶと近くの椅子を振り上げて窓を割った。
「やめろ! 美香!」
上林は叫んだが、美香はそのまま窓に飛び込んだ。「ガチャーン!」とガラスが飛び散り、「きゃあ!」という叫び声が聞こえた。そして下から「ドスン」という音が響いてきた。この高さから転落したなら即死だろう。
上林はあまりのことに呆然としたが、彼もまた息苦しくなった。女の怨霊が彼の方を睨んでいた。
「やめろ! やめろ!」
上林は叫んだ。だがそれは声にならず、あぶくになって天井に上っていった。辺りは水で満たされているように見えた。開け放たれたドアから逃げようとしたが、水が回っているせいか動きが鈍い。やっとのことで上林がそこに寄った途端、バタンと閉まった。もうノブを回しても体当たりしてもドアは開こうとしない。その背後から怨霊がすうっと近づいてきた。恨みのこもった目を向けながら・・・。
「来るな! 来るな!」
上林は必死に叫ぶが、怨霊は両手を伸ばして彼に近づいてくる。彼は後ずさりしたが、とうとう窓のところまで追い詰められてしまった。
「ゴボッ。ゴボッ。ゴボッ。ザー。ザー。ゴボッ。」
ラジオから聞こえる雑音が徐々に大きくなっていく。それが頭に直接響いて、精神を狂わせようとしていた。しかも上林は水の中にいるように息ができない。口を開けるとあぶくとなって空気が漏れていく。空気がなくならないように必死に口を押えるが、少しずつこぼれた空気があぶくになって天井に上がっていった。
ここは水の中なのだ・・・上林はそう錯覚していた。割れた窓の外に飛び出せばこの苦しさも、そして恐ろしい怨霊からも逃れられる気がした。彼は無我夢中で美香の後を追うかのようにその割れた窓に飛び込んだ。
「バシャーン!」
窓がまた音を立てて壊れて、上林の体は窓の外に消えていった。そして「ぎゃあ!」という悲鳴の後、再び「ドスン」と音が響いた。
ホテルの庭には血まみれになった男女2人の死体が並んだ。二人とも目を大きく見開き、顔をゆがめていた。それはおぞましい光景だった。
やがて部屋の怨霊の姿は薄くなりやがて消えていった。部屋を満たした水もすべて消え失せた。あの雑音も聞こえなくなり、その部屋にはラジオから軽快な音楽が流れるばかりだった。
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