第25話 逃れてきた部屋
香織はビジネスホテル湖南の6階の部屋にいた。ここからも琵琶湖が一望できる。彼女は何かに引き付けられるかのようにここに来ていたのだ。その得体の知れないものから逃れようとはしていたが・・・。彼女はぐったりとしてソファに腰かけた。その目の下には隈ができていた。
「どうして・・・私が・・・」
彼女はつぶやいた。そして頭を掻きむしった。目をつぶって眠るとあの光景が出てくる。それは彼女が過去に見た光景ではない。しかし想像していた光景なのだ。
「もう耐えられない。あの目には・・・」
それは大吾の妻と思える女性が湖に沈んでいく光景だった。その目は大きく開き、香織を恨みがましく睨みつけていた・・・。
「私が何をしたって言うの!」
香織はそうわめいた。するとその時、スマホが鳴った。それは美香からのようだ。
「もしもし。」
「川口香織さんですか? 上林です。美香の夫です。」
上林は美香が香織と連絡を取っていることを思い出し、あれからすぐに自宅へ車で向かったのだ。家についた上林はすぐに美香のスマホを借りて電話を掛けた。それなら電話に出るだろうと。
「もう放っておいてください! 私には関係ないのですから!」
上林は香織がかなり取り乱しているのを感じた。これは何かあると・・・。
「何かあったのですか? もし困っていることがあれば、我々はあなたを保護できます。どこにいらっしゃるのですか?」
「もう誰も何もできない! 私は・・私はもうおしまいだわ・・・」
上林は自分ではどうにもできないと思って美香に変わった。スマホをスピーカーに切り替えて聞くことにした。
「もしもし。美香よ。安心して。私はあなたの味方よ。」
「美香。話せてよかった。私は・・・」
少し香織は安心したようだった。声が少し落ち着いてきた。
「どこにいるの? 迎えに行くわ。」
「来ないで。私は呪われているの。」
上林ははっと思った。確か大山大吾も香織にそう言っていた。一体、何が起こっているのか・・・。横で美香が話し続けた。
「大丈夫よ。そんなことはないわ。香織は何も悪いことはしていないわ。」
「でも・・・」
「気を落ち着かせて。冷静になるのよ。誰もあなたを責めたりしてないわ。」
「本当に・・・」
「ええ、だから落ち着いて話して。」
「わかったわ・・・」
香織の心は少しずつ平静を取り戻していた。だがその時、香織のスマホが軽く振動した。(何だろう)とスマホを耳から外すと、画面に大吾と2ショットで写した画像が映し出されていた。それはすでに削除したはずだった。
(この写真が何だったというの!)
香織はその画像に違和感を覚えた。2人の奥の気に何かが写り込んでいたのだ。それを大きくすると・・・。
「きゃあ!」
香織は慌ててスマホを放り出した。そこには2人を睨む女の姿があった。その目はあの夢の出てくる女と同じ目をしていた。
「私は呪われている・・・」
香織はそう呟いてしゃがみこんだ。その声はスマホを通じて美香や上林にも聞こえた。
「どうしたの! 香織! 返事をして!」
美香がスマホに向かって叫んだ。だが香織の声は聞こえてこない。上林は嫌な予感を覚えた。あの背筋が凍るような恐怖感も・・・。
香織は床に座り込んでいた。すると備え付けのラジオがいきなり軽快な音楽を流し出した。
「うそ! うそ! いやあ!」
香織は両手で耳を塞いだ。何かがこの部屋にいる。得体の知れないものが。そこに水臭い匂いが漂って来た。
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