第24話 香織の行方
捜査は振出しに戻った。捜査員たちはまた方々に聞き込みに回っていた。上林も横河とともに第1の現場を中心に関係者の聞き込みに走り回っていた。だが何の成果もない。やみくもにしても手がかりも何もかかってこないのであった。
しばらくして彼らは喫茶「風水」のそばを通りかかった。朝から駆けずり回っていて2人は相当疲れていた。
「ちょっと休憩していくか?」
「いいですね。こう何も収穫がなけりゃ、嫌になりますから。」
彼らは店の入り、奥のソファに腰を下ろした。店員が注文を聞きに来た。
「アイスコーヒー。」
「俺も同じで。」
暑さに参っていた2人は店内の涼しさに生き返った心地がしていた。そして持ってこられたアイスコーヒーでようやくほっとした気持ちになった。横河は話し出した。
「課長や班長には集団ヒステリーの可能性については伝えたんですけどね。『よくわからん!』という返事でしたよ。今頃、偉い先生のとこにでも聞きに行っているかもしれませんね。」
「まあ、よくわからんだろう。今回のことがそうなのか・・・。我々は上の言うとおり、手掛かりがないか、関係者を回るだけだな。」
「でもこれからどうします? 誰に聞きます? やみくもに聞き込みしても何も成果が上がりませんよ。」
「そうだな・・・」
上林は考えながらこの店の中をぐるりと見た。そう言えば・・・。
「いないぞ。」
「えっ? 誰がです?」
「川口香織だ。確かこの店の店員だったはず。」
横河も見渡したが確かに香織はいなかった。
「ちょっと聞いてきます。」
横河が店員のいるカウンターに向かった。上林は思った。
(この事件の関係者として川口香織を忘れていた。もしかして・・・)
横河が戻ってきた。
「川口香織は無断で休んでいます。連絡も取れなくなっているようです。まさか・・・」
「いや、そのまさかだ。何かがあって逃げているのかもしれない。緊急手配だ!」
上林と横河はあわてて席を立って、カウンターにお金を置いてすぐに店を出た。車に乗り込むと捜査本部に無線で連絡を入れた。応答に出たのは班長だった。
「こちら上林。手配を頼みます。川口香織24歳。喫茶風水の店員。」
「事件にどう関係があるんだ?」
「大山大吾の元愛人です。喫茶店を休んで姿をくらませています。早急に身柄を押さえて話を聞く必要があります。」
「よし、わかった。こちらで川口香織を探す。」
上林たちは香織のアパートやその立ち回りそうな場所に行ってみたが、そこには彼女の姿はなかった。
「どこに行ったんだ?」
「やはり川口香織が一連の事件の犯人で、逃げたんでしょうか?」
横河がそう言ったが、上林はそう考えていなかった。香織には動機もないし、そんなことができるとも思えない。ただ何かがつながっている気がした。それは彼女の身にも何かが起こるということを意味する・・・。それならば同じような場所に香織は行っているはずだ。放っておけば第4の被害者になる。だが具体的にそれがどこかまではわからない。
助手席の横河がため息をついてつぶやいた。
「行き先を知っている人はいませんかね。親しい人とか。」
「そういえば・・・。そうだ! 今から行くぞ!」
上林は急に思い立って、ハンドルを思いっきり切った。すると車が音を立ててきしみながら向きを変えてUターンした。
「どこに行くんですか?」
横河が聞いたが、上林の耳に入っていなかった。彼は覆面パトカーの赤色灯を回し、サイレンまで鳴らして、車のスピードを上げた。
(急がねば・・・もし彼女もどこかのホテルの高層階にいたとしたら・・・)
上林はかなり焦っていた。
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