第21話 東堂の犯罪

 東堂は朝日のまぶしさに目を覚ました。時計を見るともう10時だ。こんなことは最近の彼の生活では珍しくなかった。東堂は催眠術のテクニックを使って自己啓発セミナーを主催した。それはかなりの人気を呼び、会員も増えてきていた。そうなると大山大吾のような男も金をちらつかせて寄ってくる。それで彼らのために出会い系パーティーを開いてやったりもした。だがそのうちにその要求はエスカレートしてきた。保険金殺人を大吾が持ちかけてきたのは2か月少し前だった。


       ――――――――――――――――――――――――


 東堂は出会い系のパーティーをよく開いた。それはスポンサーから金が流れるからだった。その中には大山大吾もいた。彼は遊び相手の若い女をここで物色していた。ただ大吾は婿養子に手前、彼の妻には頭が上がらなかった。だから彼女に知られぬようにしなければならなかった。

 ある時、大吾の妻がそのパーティーに参加していた。大吾の不貞を押さえようとしていたのだ。それで東堂はあわてて大吾を隠して大ごとのならずに済んだ。だがこのことで大吾は恐ろしいことを思いついたようだった。

 パーティー会場をモニタで観察していた大吾は、紛れ込んでいた興信所の海野が啓子に営業をかけているのを見た。すると案の定、しばらくたった後に海野が尾行を始めていた。多分、啓子に浮気調査を依頼されたのだろう。そこで東堂を計画に巻き込んだ。


「大金が転がり込む仕事があるぞ。興味ないか?」

「どうせ危ないことだろう?」

「いや、絶対大丈夫だ。お前の腕があれば。」

「何をするんだ?」


 すると大吾は耳のそばで密かに言った。


「俺の妻を殺してほしい。」


 東堂は驚き、さすがに断ろうとした。しかしいろんなことを言われて結局、大吾に押し切られてしまった。もしかしたら東堂自身が金に飢えていたのかもしれない。海野をうまく仲間に引き入れ、溺死事故に見せかけた。


        ――――――――――――――――――――――――


 それで大金が転がり込むはずだった。彼はそれを完ぺきにやってのけたと思っていた。

 だがあの死んだ啓子の顔が頭から離れなかった。恨みのこもったあの目が・・・。それは毎日のように悪夢となって現れ、東堂を苦しめていた。

 それだけではなかった。事故死として片付けられたはずが、警察はまだ捜査を継続していた。いつ、犯罪がばれて捕まるかという不安が大きくなっていた。それに加えて、話を持ち掛けた大山や仲間の海野が相次いでホテルから原因不明の転落死しているのだ。東堂は恐怖を感じていた。


(もしかしてバチが当たったのか? 今度は俺の番か?)


 そう思うといてもたってもいられなかった。寝床に入ってもなかなか眠れず、気付いたらもう朝になっていたのだ。東堂は起き上がると、アパートの扉の郵便受けに差し込まれた新聞を手に取った。そして中を開いて目を通していたが、急に新聞をはらりと手から落とした。


(そんな馬鹿な!)


 その記事を見て彼は驚いて唖然としたのだ。その記事は、


『連続転落死。知人の元催眠術師が容疑者に浮上。近く事情聴取か!』


 と見出しが書かれていた。東堂は気を取り直してその新聞を拾い上げてじっくりと読んだ。警察の動きがそうなら早く動かねばならないと思いながら。


「どうして俺が!」


 彼は床に新聞を叩きつけた。そして身の回りの物を傍にあったバッグに乱暴に入れるとアパートを逃げるように出て行った。

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