第15話 東堂の過去
海野は東堂が大吾を殺したと思っていた。自分の身が危うくなったためか、大吾と衝突したのか・・・。
「東堂め! 余計なことをしやがって!」
海野はスマホを手に取ると電話をかけた。
「どうした? 電話をかけてくるなと言っただろう!」
東堂が電話に出た。その声は少し怒りが混じっていた。
「せっかくうまくいきかけていたのにお前のせいで台無しだ! どうしてあんなことをしたんだ!」
「何のことだ?」
「とぼけるな! 大山大吾を
「俺は何も知らない。お前じゃないのか!」
「俺がそんなことをするか!」
海野は吐き捨てるように答えた。ゆっくり落ち着いてよく考えてみると、啓子のことは大吾や東堂にはめられたように思えていた。だから東堂ならまた自分を陥れるのではないかと不信感を募らせていた。東堂は東堂で、ここで海野に警察に自首でもされたらなにもかも終わりだと感じていた。彼は一呼吸置くと、落ち着き払った声で穏やかに海野に話しかけた。
「とにかく心を落ち着けろ。絶対にばれない。深呼吸をしろ。そうだ。お前は何も知らない・・・」
東堂の言葉に海野は引き込まれていった。
「お前は俺と貸別荘で酒を飲んでいただけだ。何もしていない。湖には行っていない・・・」
「そうだ。俺は湖には行っていない・・・」
海野はそう思い込んだのだ。電話を切った後も彼はぼんやりしていた。窓から琵琶湖が望めるその部屋に海野は外を見てじっと座り込んでいた。ただ静まり返っているわけではなかった。備え付けのラジオから軽快な音楽が流れていた。
◇
上林はラジカセとカセットテープを分析に出していた。ラジカセやカセットテープに細工がないか、その録れた雑音に何かが隠されていないかを調べるためだ。上林がそのラジカセやテープ、その雑音に異常な興味を示しているのを横河は不思議に思えた。
だが特に変わった結果は帰ってこなかった。その雑音は水中の気泡の音に近い・・・という結果が出たが、これがどうしてそのラジオから出たかはわからなかった。
「どうしてそこまでそれにこだわっているんですか?」
横河は怪訝な顔で尋ねてみた。サブリミナルかどうかはわからないが、推理小説ではあるまいし、そんなトリックが現実にあるわけはないと彼は思っていた。だが上林は(確かにそうだ。)と思いつつも、あの雑音が気になって仕方がなかった。
「これを見てくれ。」
上林は手元に会あった資料を横河に渡した。横河はそれに目を通すなり、「えっ!」と驚きの声を上げた。
「上林さん。これって・・・」
「ああ、そうだ。容疑者の海野のアリバイを証明した東堂のプロフィールだ。驚いただろう。」
「ええ。」
横河は何度もその資料を見ていた。それに書かれていたのは東堂の経歴、今は自己啓発セミナーの講師だが、過去に『催眠術師』として活動した時期があった。
「本物かどうかはわからないが、もし本当なら東堂は催眠術をかけることができる。いや、その知識があれば暗示をかけて飛び降りさせることができるかもしれない。」
「まさか・・・」
横河は上林の飛躍した推理にはついていけなくなった。そんな荒唐無稽なことができるはずがないと・・・。だが上林はあの耳につくような雑音が大山大吾の転落に関係するとすれば、そう考えざるを得ないと思っていた。だが彼にもまだ確証はなかった。催眠術の関与を示すことは難しいように思えた。
「それをどうやって証明するかだ。東堂が大山大吾にいつ、どこで、どのように暗示を与えたか、それが本当にそんな行動に駆り立てることができるかを客観的に証明しなければならない。」
「確かにそうですね。」
上林の説に否定的な横河も考え込んだ。その時、彼の前の電話が鳴った。
「はい。捜査本部。・・・えっ! 本当ですか! ええ、・・・」
電話に出た横河がかなり驚いていた。その様子が気になった上林は、電話中にもかかわらず、
「何かあったのか?」
と聞いた。すると横河は電話の受話器を押さえて、
「大変です。海野が死にました。ホテルから転落したそうです!」
「何だって!」
上林も驚きの声を上げた。事件はまだ続いていた。その時なぜか彼の頭にあの雑音が響き渡っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます