第12話 気になるノイズ

 今日も捜査会議が早朝から行われた。捜査員からのそれまでの報告はまとめられている。倉田班長がそれをまとめていった。


「現在のところ、自殺の線は今のところ薄い。自殺する動機に乏しい。妻の啓子が死んで財産を受け継ぐから経済的には困らない。妻が死んでも落ち込む様子はなかった。その後、つきあっていた川口香織とも別れているが、別の女性にアプローチをかけていたという証言もある。」


 上林はそれを聞いて(確かにそうだ。)と思った。大山の置かれていた状況からは考えられない。それにわざわざラジオを録音している。死のうとする者がする行動ではない。


「事故の線も考えられないことはない。しかしわざわざ自分のスーツケースで窓を割って飛び降りている。自分の意思でそこから逃げようとしているようだ。だが火事などがそこに起こった形跡はないし、他の者がそこにいた様子もない。妄想などでそうしたことも考えられるが、精神科に通院歴もなく、薬物も遺体からは出ていないし、行動がおかしかったという話も出ていない。」


 あのホテルの部屋が密室であったことから可能性があるが、大山にそうさせた状況が想像もできない。よほど特殊なことが起こったのか・・・上林はそう思っていた。倉田班長はさらに続けた。


「他殺説なら動機のある者がある。彼の妻の啓子は事故で死んだことになっているが、保険金殺人として湖上署が捜査しているそうだ。大山に指示されて海野渉という男が実行したようだ。その仲間割れで殺したかもしれない。また恋人だった川口香織も容疑者として考えられる。すでに別れたと証言しているようだが痴情のもつれでの殺人も考えられる。だがあのホテルの部屋の状況では今のところ、それを行うことはできないと考えざるを得ない。」


 あの密室のトリックを解明しない限り、他殺ということは考えられないと上林も思っていた。だが彼の勘は、上林は何者かに殺されたと言っていた。あの現場に残された重苦しい空気からして・・・。大山は何者かに追い詰められたのだと感じていた。

 それから捜査員から様々な意見が出た。しかしいくら話し合っても捜査の明確な線は出なかった。自殺も事故も、そして他殺のどれにも当てはまらないのだ。最後に捜査課の古屋警部が立って発言した。


「とにかくもっと調べていくしかない。どんな細かいことでもいい。それが解明につながる可能性がある。みんな、頼むぞ。」



 会議はそうして終わった。なにも成果のないままに。上林はその場に置かれている遺留品のラジカセを見ていた。横河が声をかけた。


「どうかしたんのですか?」

「いや、どうしてもこれが気になってな。」


 手がかりはもう出尽くした感がある。もうこれ以上、大山の身辺を調べても何も出て来ないだろう。このラジカセに録音された雑音がカギを握るように上林には思われた。


(あの雑音に何かの意味があるのか・・・)


 カセットテープで録音したラジオ放送はデータとしてパソコンに取り込んでいる。上林は何度も聞いていた。横河が不思議そうな顔をして尋ねた。


「上林さん。この音に何かあるのですか? もしかしてこの音が何か?」

「うむ。それで聞いているんだが・・・」

「もしかしてサブリミナル効果という奴ですか? まさか!」


 横河の言葉でひらめいた。


(そうだ。この音で窓から転落するように仕掛けたのかも・・・)


 上林はその音源データとラジカセとテープをもって飛び出して行った。その後を横河が困惑した顔をして追いかけて行った。

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