脈絡のない人

ボウガ

第1話

 ある女性二人がオフィスで話している、AはBの同僚で親友だが、Bのことが近頃こわくなってきた。


「ちょっとあの部長きびしすぎるよね」

「そうだね~……え?うん」

妙なところで入る相槌

「お昼ご飯がね~」

というと

「私、夜はコンビニで~」

 と帰ってきたりする。


 話の最中、あまりに脈絡のない事を話しだしたりする。精神疾患だろうか、そうした人による事件も多いし、それに問題が起きても罪に問われづらい。

 そういえば、AはBと親しくなる前、周囲から“あの人は危ない”“あまり関わらない方がいい”ときいたけど周囲の意見をつっぱねて、親しくなったのだった。それでも昔はここまでひどくなかったような気もするが。

「はあ」

 心の中でため息をつく、病院にも勇気をだしていってみたほうがいいし、早い方がいい。何より脈絡のない事を言われると、未知の存在と話しているようで気味が悪い。

「あのさあ、B、もしかして私意外の誰かと話しているの?」

 その瞬間、突然彼女は真顔になって、Bは踵を返してたちさった。それから音信不通、住む家も場所を変えたらしい。そして人づてにBの真実が明らかになった。


「彼女、昔から幽霊が見えたらしくて、それでね、憑依体質らしいのよ、さらに彼女は優しすぎるから彼らを無視できなかったり、反応してしまう、幽霊たちは見える人間を探しているから、彼女の霊感を察して傍にきて、あらゆる手で気を引こうとする、で、幽霊にが見えていることをごまかすために、幽霊とも、会話相手とも関係のない変なところで相槌をうったり、くるった人間を演じていたんだけど、それも長く続かなかった。だから考えたのが“ごく普通の人間として接して幽霊だと気づいていないふりをすること”


 でもね、他人にそのことを指摘されると、ダメなんだって、彼女に幽霊が“憑依”して、彼女が不幸になるとか、それを本人の口から言ってもダメ見たいで―かわいそうよねそれでずいぶんひどい目にあったらしいわよ、自殺未遂とか、ノイローゼとか、不眠とか拒食症とかね」

 

 Aは、Bの事をもっと深く考えておくべきだったと反省した。彼女は、彼女自身が危険な存在なのではなく、彼女自身に害が及ぶ危険な存在に取りつかれやすい存在だったのだ。思えば、Bは初めから“私の事は一人にしておいて”と自分を突っぱねていた気がする。あるいは彼女の異常を、そのまま受け入れていたなら……Bは無事であればいいが。


 思えば自分自身も根暗で、仕事や、人間関係がうまくいかず、さばさばして傷つける態度をとっていた時期もあったから、ただ孤独を好み、人を傷つける同じタイプの人間だと、力になれると勝手に決めつけていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

脈絡のない人 ボウガ @yumieimaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る