まえがき 世界観と魔法

 次に、フェリクスが訪れた世界について。


 現実世界の歴史で例えるなら、彼が訪れた世界は9~11世紀頃の文化水準となります。


 火薬や羅針盤が存在せず、中世ヨーロッパの花形である騎士の活躍もないものと考えてください。派手なエフェクトの大砲もありません。


 銃火器が誕生し普及するまで圧倒的な戦闘力を誇っていた騎馬兵は、あちらの世界では極僅かしか存在しません。馬そのものが貴重なのだそうです。よって、戦闘となれば主戦力となるのは歩兵となり、戦法も原始的なものとなります。密集した歩兵の戦列同士で戦いを行うのです。


 地理的な説明も少し。話してくれた情報から推測するに、あちらの世界は現実世界における小アジアと西アジア、つまりトルコやアルメニア、レバノンにイラク辺りが最も近いのではないかと思います。


 もし、文章を読んでいて位置関係が分かりにくいな、と感じましたら地図帳でそれらの地域を調べていただけると理解がはかどるかもしれません。


◇ ◇ ◇


 最後に現実世界ではあり得ない力、魔法について。


 彼の訪れた世界では極一部の者しか魔法を行使できません。そこらじゅうで派手な魔法が飛び交う戦闘は期待しないように。では、どこから魔法が出せるかといえば、それは手先もしくは足先からです。


 「なんで?」と尋ねられても、私はそれに上手く答えられません。だって、そのような世界なのですから。


 四元素の力を行使できる力を持つ者を魔法使いだと考えてもらって差し支えありません。四元素とは何か、と問われたら……。そうですね。フェリクスの言葉から解釈するに、現実世界における哲学者プラトンの主張を調べていただければ大まかな意味は掴めるのではないかと思います。


 世界は火、風、土、水の元素で構成されている、という大昔の考えです。現実世界では中世を通じて信じられてきた考えが、フェリクスのいる世界ではまだ信じられているようです。


 また、魔法の力を無限に行使できるわけでもないようです。制御できなかったり、使いすぎるとどうなるか。この点に関しては本文を御一読ください。少なくとも、無尽蔵に使える「チート」能力ではありません。


 そうなると、他のファンタジー作品で散見される「無双」もありません。


◇ ◇ ◇


 以上のことを踏まえてみると、フェリクスの訪れた世界というのは地味で描写も派手な調子になりようがありません。


 巨大な火球、天から降り注ぐ氷の雨などは期待できないでしょう。


 だけれども、私としては彼の語ったことを書き記す意味があると思うのです。それはなぜか。


 否応なく巻き込まれた彼の心情や、それに基づく行動、そして彼に影響されていく人々の記録を書き記すことは無駄にはならないと思ったからです。


 決して読みごたえがあるとか、エフェクトの飛び交う魔法合戦はありませんが、それでも彼の生き方を少しでも記憶に留めておきたいという方は是非、この作品を一読ください。


 そうなれば、フェリクスも私に話してよかったと思ってくれるでしょうから。 

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