第1章 人助け 赤い竜と不思議な力 不穏な異世界

地上の明かりを求めて

 水の音が響いた。ピチャピチャピチャと気味悪さを感じさせる音だった。


「出口はどこだろう?」


 一人の小さな少年が、屈みながら歩いていた。彼は光の届かない場所を歩いていた。粗末な頭巾ずきんにチュニック、ズボンを身にまとう少年の姿が、かすかな光によっておぼろな影を形成している。


「せめて、上水道にしてほしかったな」


 少年は進むのが嫌になっていた。立ち上がれば頭をぶつけるほどの狭い空間を、屈んだ姿勢で歩き続けるのにうんざりしていたし、鼻も突く異臭に気分を害してもいた。


 彼がいる場所は下水道だった。


 一刻も早くここを抜け出そうと突き進む少年の願いを、神がお聞きになったのか。間も無く目的地の近くまで来たと、彼は気付く。頭上から光が差し込んできたからだ。少年の心も明るくなっていく。


「さてと、打ち合わせ通りにやれば、僕は――」


 少年は達成報酬を口にした。自分を振るい立たせるために。


「自由になれるんだ。頑張らないと」


 ここまでの状況を頭の中で振り返りつつ、少年は陽の当たる場所に顔を出した。

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