第1章 人助け 赤い竜と不思議な力 不穏な異世界

地上の明かりを求めて

 水の音が狭い空間に響く。ピチャピチャピチャと、気味悪さを感じさせる音だった。


「出口はどこだろう?」


 息苦しさを感じさせる場所にいるのは、一人の小さな男の子。彼はある目的を達成するために光の届かない場所を歩いていた。粗末な頭巾ずきんにチュニック、ズボンを身にまとう少年の姿が、かすかな光によっておぼろな影を形成していた。


「せめて、上水道にしてほしかったな」


 狭い空間に放たれる独り言。彼は進むのが嫌になってきていた。立ち上がれば頭をぶつけるほどの狭さだったため、屈んだ姿勢で長時間歩くことにうんざりしていたのもそうだが、それ以上に鼻が拒否反応を示してきた。


 実は彼がいる場所は、下水道だったのだ。


 一刻も早く、刺激的な空間を抜け出そうと突き進む少年の願いを、神様がお聞きになったのだろうか。間も無く目的地の近くまで来たのが分かった。頭上から光が差し込んできたからだ。

 

 少年の心も明るくなってきた。そこは事前に伝えられた潜入場所であった。


「さてと、打ち合わせ通りにやれば、僕は――」


 少し間を置いてから、少年は達成報酬を口にした。今度は自分を振るい立たせるための独り言であった。


「自由になれるんだ。どこにでもいけるようになるんだから、頑張らないと」


 ここに至るまでの状況を頭の中で振り返りつつ、少年は陽の当たる場所に顔を出した。全ては自由を得るために行ったことだった。


◇ ◇ ◇


 さて、物語の主人公であるこの少年は、どのような経緯でこのような行動を取るに至ったのであろうか。下水道の中を通ることなど、現代人なら進んでしたいとは思わないはず。

 それを理解するために、少し時間を巻き戻して彼の「この世界における生い立ち」について、詳細に述べておかなければならない。

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