秘匿と女神
実験の協力と称して俺の記憶は写し取られて、ついでにこの世界の言葉を知った。
ちなみに、この言語は世界で統一されており、名前もそのまま「共通語」らしい。
共通語から派生した方言はあれど、全く言語が違うのは有り得ないらしい。
先程、試しに軽くやり取りした時に慣れるためにもこの言語を使えと注意されたのだが、それはこの言語しか使わないからだろう。
しかし、この世界の言語を教えてくれたのは協力の報酬ではないとは思うが、報酬はいつ貰えるのだろうか?
「さて…言葉が話せるようになったなら…私以外の奴にも手伝ってもらうとしよう。もとより、私含め神々は長く席を開けたくない…どうせなら今、一気に紹介するべきだな」
彼女がそう言った瞬間、この部屋にある紫色以外の色付きの扉が勢いよく一斉に開かれたせいで大きい音が響いた。
余りにも突然だったので、俺は飛び上がるほどびっくりしてしまった。
気を取り直して改めて見ると、7つの扉からそれぞれ一人ずつ入ってくるのはその扉の色と髪の色が一致する女性たちだった。
そして、一斉に彼女たちは目の前の色とりどりの豪奢な椅子に座る。
…なるほど、彼女たちが出てきた扉の色と髪の色、そして座った椅子の色は一致するらしい。ア・イデアルもそうなのだろうか、現に髪の色と椅子の色が一致するし。
「出そろったな?呼び出したのは…彼にお前達を紹介しておこうと思ったからだ。ああ、もちろんだがお前達に、彼のことは報告したから知っているだろうし時間に押されてもいかんので、彼の紹介は省略する」
…なんか、ア・イデアル以外の全員目線が俺に刺さる。というか俺のこと知ってるっていつ知ったのさ…
「では、私と彼の隣から右回りに始めよ」
ア・イデアルが仕切ると。
「まずは、私からなので…」
そう言って、俺の右隣に座っていた人が身体を起こし、こちらを見て言った。
「私は、日光と道標、運命の女神ライリアと申します。どうぞお見知りおきを…とはいっても、私たちの名前はあちこちで見かけると思います。あとは…この中で表向きのリーダーのようなものを務めていますので、よろしくお願いします」
そういって、笑った彼女の顔は美しかった。ダメだ。小学生並みの感想しか出てこない…ア・イデアルのイメージが「魔女」なのに対してこちらは「聖女」としか表現できない。金髪のショートカットなのも聖女のイメージに補正がかかっている。
…しかし、表向きのリーダー?これは後で聞こう…
「私は、月光と穢れ、鍛造の女神ルナリア。あまり会う事は無いかもしれんが、よろしくと言っておこう。鍛造の名の通り、必要なものがあれば作るのが私の仕事だからな」
白の髪を揺らしてそう言う彼女は、あまりこちらに興味が無さそうな視線をこちらに向けている。顔を見て思ったが、女神って美形ぞろいなのか?
あと、黒い翼が背中に生えているんだが、これから感じる雰囲気何だかやんごとないというか…
後、言い終わってすぐに隣を見て促したので、面倒くさがりなのかもしれない。
「熾火と革新、魔術の女神イグリア。先程は知識を提供してくれたこと、誠に感謝している。私は改革と魔術を司るが…他にも我々は基礎属性を司るという事も覚えていて欲しい。これは魔法に必要な知識でもあり、お前にあまり構っていられない理由でもある」
…お、おう…なんか一気に知識をぶち込まれた気分だ…
赤髪のショートカット…あれ?同じ髪でだいたい同じ髪型してるから後ろ姿だけだと、あの赤髪のナイフみたいな人相の女戦士と間違えそうな…ただ、こちらは死んだ魚の目をしているのと、モノクルをしているので顔を見れれば間違えはなさそうだ。
…というか彼女が苦労してそうというのは、浅い偏見だと思いたい。
「お前は、私からすればとても興味深い存在だ。後程お前の話でも聞かせてくれ」
なんか妙に好感度高い…?
「…私は…大海と祝福、審判の女神…アーリア…海辺に来たら、ぜひ…人魚に、会いに来てください…ね?」
凄くゆったりした喋り方の女性だ。顔をよく見てみると蒼い髪に隠されているが頬に鱗がある。この人もびっくりするぐらい綺麗だ。マジで美人しかいない…
「…海は、危険が多いので…人魚は巡回を…行っているんです…私が、人魚たちに…お願いして…いろいろ、作業をしてもらっています…ので、お恥ずかしい…かぎりです…はい」
…恐らく陰キャであろうか?何かあったら手伝おう。いや、神だし手伝える事ないよな。
「
凄く優しそうな緑髪のお姉様という印象。ただ…怒らせたら怖そうな…
「エルフやニンゲンの繁栄を心から願っておりますから、樹を生やしたり風を吹かせたり…いろいろやっていますの。でも、子供を傷つけるのだけはやめてくださいまし…」
そ、そうだな…子供は傷つけないようにしようとは思ったが…なぜ、今言った?
「…私は、罪があるなら致し方が無いとは思うがね…そういえば昔、リムリアが罪のないエルフとニンゲンの間の子供がリムリアへの何がしかに利用されたのを見て、烈火のごとく怒り狂ったことがあってな」
疑問が顔に出ていたのか、ア・イデアルがこう言うと。
「あ!その話はあんまり…しないで欲しいですわ…えぇ…」
…やっぱり怖い経歴持ちだった。
「僕は純粋と功罪、時空の女神メタリアっていうんだ。よろしくね」
僕…?一人だけ一人称違うのか。容姿は片目が隠れた黒髪の女性。小悪魔ボーイッシュというのが第一印象。というか美少年って言われてもなんとかごまかせるかもしれない。ただ、こめかみに黒い角が2つと白い羽が生えている。ルナリアもそうだが、邪魔だと思わないのか聞いてみたいところ。
「んー…なんか失礼なこと考えてない?まぁいいか…空間とかそこらへんは僕に任せてね?…とは言ってもあんまり役に立つ機会ないんだよねぇ」
ぼやいてる…
「やほー!大地と騎士、享楽の女神アスリアだよ!よろしくー!!」
陽キャ!?サイドテールの茶髪の活発そう…いや活発極まりない女性だ。女神の常なのか、美人である。というかこのままだと容姿にしか気が向いていないエロガキだと思われても仕方ない。
「転生するんでしょ?細かい事抜きにして楽しんでね!!!」
…聞き流そうと思ったが、やっぱりこの性格で騎士を司るのかが分からない…偏見だけど、騎士は堅物がやるもんじゃないのか?逆に完全に享楽は理解できたのだが。
そう思ったら、すかさずア・イデアルがフォローを入れてくれた。
「アスリアは今は…はっちゃけ気味だが、仕事の時は真面目だぞ…おい、よりにもよってそんな顔をするなアスリア」
「ぶー!」
「まあ…こういう奴だ。ああは見えても公正で厳しい奴だ…容赦なく…」
「まーまー。もういいじゃん!彼、震えてるよ?」
震えているのは事実だけど、不覚にもアスリアの変顔で笑いそうになっているだけだ。
「はあ………まぁいいだろう。紹介は一旦以上とする」
――――――――—
「なにか、質問はあるか?ただ、時間が迫っているから手短にな」
ア・イデアルが質問の時間を設けてくれたので、有難く使わせてもらう事にした。
「ひとつだけあるんだけど…ライリアが言っていた”表向きのリーダー”というのが気になってて。そんなややこしいことしなくてもア・イデアルがリーダーでいいんじゃないのか?」
「ああ…」
ア・イデアルが回答するのか、ため息をこぼしてから少し考えている。
そしてまた口を開いた。
「…故有ってな、私の名前や姿はフォアデムでは忘れられていて、私を除いた此処にいる七柱が信仰の対象となっている。これ以上はあまり深くは聞かないで欲しい」
そうなのか…
「…ここを出る時に伝えるつもりだったが、今前もって話しておこう。此処にいる間のほぼ全ての出来事はある程度思い出せないように段階を踏んで封印しておく。流石に此処の知識を持ち出されては不味いし、何より判断能力が無いうちに話してしまったりしても困るのでな」
「そんなことできるんだ…」
「なに、知識と経験を操れるなら不可能はない。ともかくこの神域で見聞きした物はあまり見せびらかすものではない。一般の事実と違う事もここにはあるし、時代を覆す超技術もある。別に神と交信したことがある聖人ともてはやされたいなら別だが」
「うへえ…それは、嫌だな」
あまり目立ちたくない。というか、それはそれで悪目立ちという奴では…?
「まぁそうだろうな。あとは、暮らしていくために必要な一般常識は転生先で学ばせるようにするから、あえて此処で学ぶ必要はないだろうし、それを残しておく必要もないしな…まとめて封印してしまえと正直思っている」
彼女たちが思慮深く俺の未来を案じているのだろうか?良く分からん。
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