創造神と決断
目の前には紫髪の女の人。
告げられたのは地球の輪廻に帰るか、この世界にとどまるかの二択。
俺の認識が正しければ、地球の輪廻に帰るというのは…元の世界に戻って、転生するという事だろう。この世界にとどまるかというのは、なんだろう。
同じくこの世界に生まれなおすという事なのだろうか。
…ふと気になったけど、この人って神様に連絡できるんだよね…何者?
そう思った瞬間に手を顔に当ててる。正に失念していたって顔だ。
<ああ…すまない。名乗るのを完全に忘れていた。ここは本来何かが訪れるなど有り得ない事だからな。だから色々問いただしてしまったのもある>
まぁその、俺も名乗るの忘れてたし…第一あんな出会いだったらびっくりする…のか?特殊過ぎないか?
それにしてもこの人、どんな人なんだろう…もしかして神の使いとか?
<…私は、「宵闇と精神、支配の女神」ア・イデアルという。この世界、「フォアデム」を管理している…神々の内の一柱、そしてこの世界を創り出した創造神である>
え゛っ!?もしかして、この世界の神の中で一番上!?!?!?
あ、マズイ…神様に今までずっとため口で話してしまった。怒られ…
<問題ない。流石に公の場以外で口調を指摘することはないからな。というか此処では楽な喋り方でいい>
…よかった。あ、俺も自己紹介しておくべき…?
<…後で聞くつもりだったが…まぁ、一応聞こう>
…じゃあ、えぇっと…あれ?
<どうした?>
…俺の名前…思い出せない。
<魂が傷ついたのかもしれんな…まあ、魂だけの存在ならよくある事だ。そこから魔物のレイスに転じる事もあるが…ここには原因となる瘴気は限りなく薄いから問題はなかろう>
…そうなのか…名前以外を話せばいいのか。
<それでいいと思うぞ>
なんか、返事が適当になってる気がする…
――――――――—
ア・イデアルに地球でどういう身分だったかとかどういう事をしていたのかを少し話したら、さっきと違って興味深そうに聞いていた。
<…ニホンなる国は地球から派生する世界では頻出する。文化も興味深いからこぞって取り入れたがるのが不思議でならなかった。しかし今、話を聞いて理解したが…大変面白い場所のようだ>
やっぱり、出身地の文化が肯定されると嬉しいな…
<さて、自己紹介もここまででいいか。先の件だが、地球の輪廻に帰るか、この世界にとどまるかを決めてほしい>
そういえば、三つ聞きたいことがあるんですが。
<何だ?>
一つ目に、地球の輪廻に戻るというのは…元の世界に転生するっていう事なのか。
二つ目はこの世界にとどまるのは、この世界に転生するという意味なのか。
三つ目は…もし、どちらも選ばなかったらどうなるのか?という事が聞きたくて。
<…ふむ、先ずは一つ目から答えよう。とは言えだ、あちらが言ってることでしかないが…「魂がこちらにやってきたのはこちらの不手際なので、引き取ってこちらの世界の輪廻に戻す」と言っていた。あちらでまた転生させるのだろう>
…転生の内容までは分からないですよね。
<あちらに詳しいわけではないわけだからな>
…うーん…
<二つ目だが、ただこの世界に転生するのも可能だが、それに加えて色々できるという意味もあってな。これに関してはここに残るかどうかを決めてからになるだろう>
此処に残れば色々できるのか。なんだか面白そうな気がした。
実のところ…その、魔法に憧れていた時もあったなあ…恥ずかしい。
<続けるぞ?三つ目に関しては、このまま選ばない…もしくは、選ぶことを拒否すれば、ごくゆっくりとだが魂が摩耗していくだろう。擦り切れるとそのまま魂が消滅する>
…選ばないのは論外だな、消えたくない。
<今の状態でも摩耗し続けてはいるが、ペースは遅いからまだ時間はあるだろう>
えっ…何かがすり減ってる実感ないけど、もう少し急いだほうが良いのか。
<まぁ…地球に戻るにしろここに留まるにしろ、どちらを選んでも一向に構わない>
…じゃあ…この世界に留まります。
<いいのか?あちらの世界にはもう二度と帰れないが>
…どうせ転生するなら、どうなるか分かるところが良いし…
そういえば、ラノベで転生物を見た時から魔法があるファンタジー世界は憧れだった。病室で見てた時は特に現実逃避する時に見ていた記憶があるから、特に。
だから、此処にいる方が良いと思った。
<ラノベとやらは良く知らんが…まさか最も幻想が薄い世界の人間が、魔法に憧れるとはな>
…何か?
<いや、何も。さて…ようこそ、フォアデムへ。新たな仲間を我らは歓迎しよう>
――――――――—
あの後、俺は先程俺のことを監視していた赤髪の女性にベッドごと移動させられ、真っ暗で人の姿だけが見える奇怪な部屋ではなくて、大理石に似た石材が壁や床、天井に至るまで綺麗に敷き詰められ、大きく装飾が彫られたシンプルな部屋に運ばれた。
そして、またア・イデアルが俺の目の前に姿を現した。
<そういえば、何故お前の身体は動かない?>
…俺は生きていた頃に病気になって身体が動かなくなったんだ。俺は動けないんだ。
<それは生前の話だろう?今は霊体だ、とりあえずやってみてくれ>
…そんな事言われたって、動かし方忘れたから動くわけが…
そう思って右腕を動かしたが、ふわっと浮いた感覚がしたのに驚いてチラッと右腕の方を確認すると、自分の右腕が見えた。
…マジ?今まで動かなくなってから随分経つのに…
<霊体が動かないというのは概ね思い込みだということだ…頑張れば身体も動かせそうだし、喋れもしそうだな。やってみると良い>
それ、知ってたなら教えてくれてもいいじゃないか!?
<帰るかもしれないのに教えても無駄だろうに>
…実は、結構な面倒くさいと思ってたりするか?
<そうだな。魔法を扱う奴は大体面倒くさがりだ、それは神々としても同じことよ>
えぇ…ちょっとそれ酷くないか?
――――――――—
ア・イデアルが何処かに行った後に、身体の動かし方を思い出しながら実際にやってみると思いのほかスムーズに動かす事が出来た。
今、俺はベッドの横に腰かけている。
何故思い出せたのかはよく分かってないが、霊体だからなのか?そう思っておこう。
もしかしたら…立てるのかと思い、やって見たところ…立ててしまった。
ついでに歩いても見たが、成功した。走るのは何だか怖いのでやめておく。
…こう、嬉しさ以前にあっさり出来てしまったので、拍子抜けしている。
ふと気になったので、自分の身体を見下ろして確認してみる事にした。
見慣れた病衣が目に入る。その下にある枯れ木のようなやせ細った体。
よくもまあこんな体で生き永らえていたと思う。
ついでに自分の顔がどんな形だったか思い出そうとしたが、鏡で見せられる時以外は見る事すらできなかったのでだいぶおぼろげだ。
姿見を周囲を見回した時に見つけたので、それを使って自分を見ようとしたが鏡に映っていなかった。
一瞬びっくりしたが、そういえば幽霊だったからそりゃそうだ。普通、鏡に幽霊が移るわけない。心霊映像でもあるまいし…あれ、悪霊は映るのか?
気を取り直して、声も出してみる事にする。
「…あぁ…あああ……いいい……」
…こちらはだいぶ練習が必要そうだ。
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