20話 三人の獣人

「動かないでもらおう」

「は?な、なんだよ!てめぇ!!」

「周りが見えていないなら10秒あげるからよく見てみるといいですよ」


 俺の言葉でやっと自分がピンチだと気がついた男は腰を抜かしその場に座り込んでしまった。

「ひ、ヒィィ〜」

「小物の見本のような方ですね……」


 魔法で眠らせた男を縛っていると襲われていた女の子が話しかけてきた。

「あ、あの助けてもらいありがとうございます!」

「あ、いえ、大したことはしてませんよ」

「私本当に怖くって!まさかこの鉱山に野良猫ジャガーがいるなんて」

「ジャガー?なんですかそれ?」

「あの男たちが所属している盗賊の組織の名前です」

野良猫ジャガーは人攫いを専門にする盗賊組織でその力はこのティアナールでも屈指のものです」

「なるほど……」


 いろいろと聞かせてもらった後に女の子は帰ってしまったがなかなか面白い話を聞けたと思う。

 野良猫ジャガーここいらではかなり名をあげた組織で元冒険者が多数いるとか。

 定期収入があるとはいえ、今後のことも考えるの金があるに越したことはないしそいつらから貰うとしよう。

 やったならやられる覚悟も持たないとな。


「……という訳なんだが、ちょっと潰しに行かない?」

「やっばぁ……大変なことしてくれてんねそいつら」

「ほんとにな」

「それはそれとして気づいたの私のおかげだしお礼ちょうだい」

「引きちぎるぞ」


 とりあえずジャガーを潰すのは後としてその前に必要なもんを用意しとかないとな。

 とりあえず剣を作ってやったら思いのほか気に入ったようで俺の首根っこを掴んで訓練室に入っていた。

 ……行くの、明日にするか。


「よぉし、行くか!」

 久しぶりに付き合ってくれたシルバーの背中に乗りながらギルドで聞いた奴らの本拠地に向かって走っていく。

 しっかし、ほんとに早くなったなシルバー。


 行雲流水の精度が上がってきてるおかげか走る時に必要な部分に魔力を集めてかなりの速度を出せるようになっている。


 俺も師匠との修行中やシルバーとの戦いで見せたがやはり四足歩行の生き物の方が早いな。


 シルバーの成長に感心しているとあっという間に野良猫ジャガーが拠点にしている建物が見えてきた。


 かなりボロボロの教会という様子だが、周りには武装した盗賊がうろついている。


 今回、全員で正面突破しても良かったが別の作戦で行くことにした。

 というのも、捕まえた奴から聞き出した話だとあいつらにさらわれた人がいるらしい。

 しかも、獣人だ。


 最悪、人間だったら内々での処理ができたかもしれないが別種族となれば話は別だ。

 エルフ好きに売るだのなんだの言っていたから下手をすればほかの種族だっている可能性もある。

 そうなれば国家単位で制裁を受ける可能性がある。


 今こうやって少しづつタブーが破られていることを見てわかる通り、下手をすれば戦争、それに乗じての国家の勢力拡大が起こる可能性もある。

 そうなると魔人界どころではなくなってしまう。


 なので皇帝と公爵と契約している俺たちが助け出すことで他国にティアナールは奴隷反対派だということを見せつける必要がある。

 まぁ、それでも面倒な奴らが出てくる可能性もあるためこいつらを生け捕りにしないといけない。


 なぜ生け捕りなのかと言うと俗に言う、公開処刑というやつをするためだ。

 魔人や古来の生物達、冥界の怪物共。

 こんな化け物を相手にしないと行けない時代が近ずいているのに一世紀前に戦争なんて冗談じゃない!


 という訳だから野良猫どもには悪いが生贄になってもらう。


「そういう訳だから俺たちは捕まった人の解放を優先、ほかのみんなで盗賊の確保を頼みたい」

「えぇ〜、新しい剣の使い心地、試したかったのに」

「そういう訳にも行かないだろ、戦争なんて引き起こされたらたまったもんじゃない」

「はぁ〜、まぁそうだね、わかったよ」


「幸い、ゾルファン公爵とアダーク皇帝には話を通してある。好きにやれとの許可も貰ったから建物は好きにしていいぞ」

「了解」


 話もまとまったので俺とアベル以外動ける面子が正面に突っ込む。

 みんな一撃で敵を気絶させているあたり心配はないな。

 どちらかと言うと研究所の中で騒ぎ立ててるリオンの方が心配だ、頭の方が。


 皆がいってからしばらく後に俺達も侵入する。

 あちこちに腕が飛んでいたり目が切りつけられていたりして気絶している盗賊共が転がっているが目当てはそれじゃない。


 しばらく探っていると食堂の様な場所に地下に続く扉を見つけた。

 セオリー通りならこの地下に捉えられた人がいるはずだ。


「やっぱりか……」

 地下に行けば牢獄のような部屋に鎖で繋がれた三人の少女が居た。

 ボロボロの服で衛生的にもかなり酷い状態だ。


「無事ですか!Sランク冒険者のブランクと言います。助けに来ました」

「同じくSランク、アベル。助けに来たよ」


 さすがにこの現状を見てふざけるようなことはせずアベルも俺に合わせてくれる。

 相手からしたらどこの誰ともしれないようなやつよりかはお偉いさんの信頼を得ているとSランクを公言した方がいいだろうし、真似てくれたのはありがたい。


「え、Sランク!お願いです!助けてください」

「当然、そのために来たのですから」


 ここに来る途中に転がっていた人から拝借した鍵を使って女の子達を解放していく。

 よくアニメなんかでみる剣でズバーン見ないなのも憧れるが普通に危ないし人質からすればトラウマものだろう。


 上に戻ってみればズタボロになった盗賊のボスがシルバーに咥えられていた。

 他にもシルバー以外の仲間たちが取引の顧客リストや溜め込まれた金なんかも回収してきてくれた。


 そんじゃ最後は……

「おい、お前、起きてんだろ。しっかり見とけよ」

 よし!捕まっていた子達は研究所に入ってるし大丈夫だな!

 俺は久しぶりの大砲式火炎弾をあいつらの拠点にぶっぱなした。

 元々古いのもあって教会は見事に崩壊した。

 多分全員外に出したとは思うけど中にいた人は運が悪かったな。

 三十人程いた野良猫どもは見事にビビり散らかし、騒いでいた連中もしずがになった。


「ありがとうございます!あとはこちらで処理しますので何かあったら騎士団の詰所にお願いします」

「了解しました」


 ルコアに戻って騎士団に野良猫を連れていけば全員牢屋に突っ込んでくれた。

 処刑の日なんかは俺達も行かないとといけないらしいがそれまで少し暇ができた。


 オークの細胞を取りに行ってもいいがどうするか……。

 研究所の中で悩んでいると新しく買った服を着た獣人の子が話しかけてきた。


「あ、あの!助けてくれてありがとうございます!」

「ん?いえ、それほどでもありません。当然のことですよ」

「それでも本当にありがとうございます!」

「「ありがとうございます」」


 うむ、ここまで感謝されれば嫌な気はしない。

 助けた獣人の子はそのまま自己紹介をしてくれた。

 一番年上で15歳の猫獣人のこまた。

 次に年上で13歳の犬獣人のトロス。

 一番年下で12歳の羊獣人のコルキス。


 三人は美しいと有名なティアナールの湖を見に来た幼なじみで全員孤児院で育ったらしい。

 湖を見れたまでは良かったが宿で止まっていると窓から入ってきた盗賊にさらわれたらしい。


「それで、俺たちが言えばすぐにでも孤児院に返すことも出来ると思いますけどどうしますか」

「えっと、その……」

「どうしました?」

「私たちを仲間にしてください!」

「……ほえ?」


「えっと……仲間といっても」

「お願いです!雑用でも何でもしますから」

 えぇ?どういう状況だよこれ。

 正直獣人が仲間になるのは嬉しい。

 なぜなら、高い身体能力を持っているからだ。


「孤児院にお友達もいるのでは」

「大丈夫です!私たちがティアナールに来れたのは孤児院が潰れたからです」


 どうやらこの子達は運のなさがカンストしているようで孤児院もとんでもないところだった。

 三人がいた孤児院は小さい所だったらしく子供四人だけと経営者一人しかいなかったらしい

 おばさんが経営していた孤児院だったらしいがまぁ〜贔屓が凄いらしい。


 おばさんお気に入りの一人は毎日超豪華な食事に広い個室、欲しいものはなんでも手に入るときた。

 それに比べこの三人は粗悪で簡素な食事に狭い部屋ですし詰め状態、欲しい物どころか服すらまともに貰えなかったらしい。


 貴族でもなんでもない人がそんなことをしていれば当然バレる訳で。

 通報を受けた騎士団に捉えられ、孤児院も潰されたらしい。


「お願いです!強くなりたいんです!」

「……わかった、けどここには秘密もあるしそれを聞いてから改めて決めてくれ」

「あ、改造のことですよね、リオンさんから聞きました」

「……リオン?!」

 

 

 

 

 

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