19話 合金

ルコアより南に進むとそれはそれは大きな鉱山がズラリと並んでいる。

 その大半は火山であるという危険地帯だ。

 とは言ってもその火山のおかげで特殊な鉱石が大量にあると言っても過言では無い。


 ここら辺のマグマには大量の魔力が混ざりこんでおり、その魔力に当てられた石が魔石となり、ミスリルやオリハルコンを生み出している。

そんな訳だから奥に行けば行くほど高濃度の魔石が手に入る。

 

 まぁ、そんなありがたいマグマでも人間にとってはとても危ない物だ。

 良い魔石を手に入れようと思ってもその辺の一般人が行けば溶けてなくなってしまう。

 それはこの街にいるムキムキたちも同じだ。


 普段は比較的に浅い所をほって帝国や公爵から指示が来た時にだけ少し深いところに行くのだという。

 しかし、俺達には氷結生成アイスメーカーを使えるアベルとハイスライムのアダプト、そしてその細胞を持つシルバーがいる。

 最悪この三人に取ってきてもらえばモーマンタイだ。

 

 「あっつ……」

 はいやっぱりだめでした。

 三人にこの事を言った瞬間マグマも凍るほどの視線を向けられた上で引きずられて行きました。


 氷結生成アイスメーカーで冷気を出しまくって涼しくしているアベルの少し後ろを歩きながら進んで行くと明らかに舗装されていない道に出た。

 下を覗いてみると大量の魔石がある。


 各々が思い思いの方法で魔石を採取しているが俺はそれどころでは無い。

「アベル……助けてぇ」

「諦めろ」


 なるべく上の方で見つけたオリハルコンを取りながらみんなが持ってくる魔石を保管庫に入れていると保管庫の容量が25/50まで埋まった。

 そこそこ集まったしこれなら合金にしても少しくらい余るだろ。

 

 さて、問題のミスリルだ。

 アベルの案でオリハルコンで採取するということになったから鉱山前で貸し出しをしていたピッケルを借りてきたが……。


「ねぇ、ほんとに俺がやんの」

「ステータス高いのあんたじゃん」

 シルバーとアダプトは我関せずとそっぽ向いてるし。

 アベルは薄情だし。

 もうほんとに俺の仲間最高。


 それから五時間想像以上に硬いミスリルを掘りながら保管庫の上限まで掘り続けた。

 アベルたち飽きたとか言って研究所に帰ったした。

 念の為環境の記録をしてから帰る頃には東側で輝いていた太陽は西の方で赤くなっていた。


「よぉし、集まったこいつらを何とかして溶かすぞ」

 残念なことに研究所には鉱石を溶かす施設はないためティアナールの中で工房を見つけるしかないけどあるかなぁ。


 そんなふうに思っていたけど杞憂に終わった。

 何せ……

「Sランク!どうぞどうぞ家で良ければ使ってください」

 こんな感じで頼みに言った最初の工房からウェルカムばっちこいの体勢。

 ……Sランクってすごいんだね。


「よしいくぞお前ら」

 アベルとアダプトと俺以外の全員で竈門の温度上昇!

 そして俺が釜の強化!

 溶けた鉱石をアダプトが型にはめる!

 最後にアベルが冷やす!


 必死こいてそんなことをしながら二時間後作ろうと思っていたパーツの大まかな物を全て作り終わった。

 ワイバーンの死体を解析して作ったボディ。

 飛行補助に水中呼吸、サーモグラフィーそれにオークの細胞。

 他にも色々つけないといけないが形だけならもう完成させられる!


 ということで訓練中のみんなとは別に一人機械パーツを作っています。

 ……悲しい。


 しばらく後に様子を見に来たリオンにちょっかいをかけられること二日間やっとの思いで機械パーツが完成した。


 やれ、ここはもっと尖らせろだの、側面攻撃ができるようにしろだの、染料で色塗れだのまじでうるさい要望全クリア!

 見たかリオン!これが灯火最強の頭脳を持つブランクの力だ!

「キャー!シルバー君!」

 ……。


 変なののちょっかいのせいで完全に鉱石がなくなっちゃったけどお陰様で当初より強くなったと思う。

「ねぇ」

「うお!アベルか、どうした」

「あの合金って余ってるの?」

「いや?もうないけど?」

「そう、そんじゃ今から取りに行くよ」

「……ほえ?」


 やってまいりました二度目の鉱山。

 数日たっているとはいえ、辛い……!


 あの黒い剣や俺の木刀、自分で作った氷の剣を振り回していたアベルだったがやっぱり強い剣が欲しいと思っていたようで合金で作ってもらおうと思っていたらしい。

 というかアベルの中ではもう確定していた。

 報・連・相を怠ると二度手間になるんですね……。


 当の本人は訓練室で黒いゴブリンナイトにボコボコにされながら待っている。

 ほんとに勘弁してくれ、最近まともに訓練できてないんだよ。

 行雲流水だけは常にやってるからいいけどこのままじゃ俺だけ戦闘経験が少なくなってしまう!


 ぶつくさ文句を言いながら奥の方に進んでいると一人の女の子を囲むように五人ほどの男がたっていた。

「このくらいなら高値でうれんだろ!」

「いけるかぁ?こいつ人間だろ」

「あぁ!あのエルフ好きは馬鹿だし耳なんざどうとでも誤魔化せんだろ!」


 ふむ……話を聞いている感じあの子を捕まえてどこかに売り飛ばすつもりなのだろう。

 ここで説明させてもらうがこの世界で奴隷という存在は存在しない。

 正確に言うと許されていない。

 今目の前で繰り広げられているように違法に奴隷を手に入れようとする者もいるがバレると貴族だろうと死刑になる。


 ここまで奴隷を買おうとしたり作ろうとするのに対して重い罰があるのかはかつての戦争が関わっている。

 原作でも語られた奴隷の話と神の時代の大戦争の話。

 元々地上の支配権を持っていた人間は数だけは多かった為その数でほかの種族を蹂躙していった。


 しかし、強者は常に調子に乗るもの。

 初めの方はまとまっていた人間もいつしか別れていった。

 ティアナールや他の国のようにバラバラに別れてしまった。

 そうなればほかの種族の時間だ。


 エルフの魔法にも獣人の身体能力にもドワーフの器用さにも勝てない人間が持っていた唯一にして最大のアドバンテージだった数と団結力が失われれば当然人間に勝ち目はない。


 数年の内に地上の支配権は人間のてからこぼれ落ちた。

 もう一度手を取り合おうという人間もいたが別れる時にあった軋轢は人間の半数が死亡してもなお残っていた。


 そこである国の王は考えたほかの国の人間を奴隷とすればいいと。

 そう考えた王は小さな国や国の端にあり兵が少ない村なんかを襲いそこに居る者を全て奴隷にしていった。


 実際奴隷を使うようになってからその国だけは明らかに豊かになり、またほかの種族も手出できない存在へとなっていった。


 そうなれば当然ほかの国、ほかの種族も真似し始める。

 隣の国が、森のエルフが、谷のドラゴンが……。

 そうやって一部の力あるものと奴隷に世界は別れていった。


 しかし、物には限りというものがある。

 あの国にはもう物資も人もいない、ならその隣の国を襲え。

 獣人共は皆逃げた、ならば子供のドラゴンを捕らえろ。

そうやって世界は奴隷奪うために戦い始めた。


 しかし、長く続いた奴隷時代。

 全ての国は相手も同じだけの力を持っていればただただ疲弊していくだけだった。

その疲弊を癒すためにほかの国を襲う。

 力を蓄えるためにほかの種族を捕らえる。


 そうやっていく内にある国が気がついた。

 もう奴隷なんてどこにもいないと。


 ひたすら積み上がる死体と焼けこげた大地だけの世界にもう奴隷なんてどこにもいなかった。

 奴隷頼りのこの時代で奴隷がいなくなってしまえば辿る運命は一つしかない。


 世界は崩壊した。

 人間がエルフが獣人が……。

 あらゆる種族が崩壊したした後に皆が気づいた。

 奴隷の奴隷。

 戦争の奴隷。

 自分達がそういう存在になり、自分たちの世界を壊していたことに。


 とまあ、こんな事があったため戦争と奴隷今でもタブーとなっている。

 一度それを破った国もあったそうだが知的種族が手を取り合って生きる時代になんの報復もないわけがなく速攻で滅んだらしい。


 だから目の前で起きているそれはバレてしまえば最悪国が滅びる程大変な行為なわけだ。

 別に正義のヒーローがしたい訳でもないが戦争なんてない方がいいに決まってるしな。


 俺は五人のうち一人を残し四人の頭を石で撃ち抜いた。


 

 

 


  

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る